第四話 シェリル対三人の兵士(無双?)
#第四話 シェリル対三人の兵士(無双?)
「お二人ともここで何をされていますかな?」
振り返ると兵が立っていた。
毎日のように城の中を散策し、鷹に手紙のやりとりをさせていては疑われるのもごもっともだ。
グレイグさまは兵が突き出した槍から私を守るように前に出られた。
「ああ、ごめんなさい。アデライード様に私の親友のエミリーの話をして差し上げたら会いたいとおっしゃるものだから、せめて手紙でもと思いまして」
「ではその手紙をお預かりしましょう」
「はい、アデライード様にお渡しください」
細長く折り畳まれ、封がされた手紙を兵に渡す。
素直に渡した事で兵が急に不安になったようで槍を引く。
「大丈夫だ、侯爵家の尖塔で鷹を飛ばしては疑わぬ方がおかしい。むしろ相手の立場によって態度を変えぬ者としてさすが侯爵家の兵と関心している」
グレイグさまはそう言って兵の行動を正当化される。
「こんな時間ですが、アデライード様にお届けください。急ぎではないですが、折角来たので早めにお読みいただきたいのです」
私もそう言って手紙を奪い取った兵の行動を正当化する。
これできっと手紙はアデライード様に届けられ、兵は疑い過ぎた事に自信が持てなくなるだろう。
親愛なるアデライード様
エミリー・メルヴィル子爵です。
シェリルから是非手紙をと言われ、アデライード様に文を出せる事を喜んでおります。
それはさておき、シェリルにはお気を付けください。
シェリルは自分の事を綿菓子のように膨らませて話す癖があります。勇者と聖女は出て来ませんでしたか?それはシェリルの嘘です。
お話出来る機会がありましたら、是非一度シェリル交えて答え合わせをしたく思います。
敬具
エミリーが書いてくれた手紙。
アデライード様の事を私が書いたのでそれに合わせて書いてもらった。
きっと私の悪口が書いてあるはずだ。
手紙のおかげで兵士は私たちが怪しい行動をとっても指摘しづらくなったようで、グレイグさまと城の中を歩いても何も言われなくなった。
「シェリル、私はそなたに言うべき事がある」
「なんでしょうか?アデライード様」
アデライード様は兵に取られた手紙を何度も読んだのだと思う。
丸められた後はすっかり伸びて、折り目もほとんど見えなくなっている。
何かを決意するため、最後にもう一度広げてから読み終わると目を閉じて考えていらっしゃる。
急かさずにずっと待つ。
ため息。
どれくらい時間が経ったかしら。
しばらくするとまた深いため息。
そうしてお茶がすっかり冷める頃にゆっくりと目を開かれて私の方を見つめられた。
その目は涙で潤んでいる。
「クロイツベルク侯爵はグランベル王を騙している」
その言葉に反応せず、じっと次の言葉を待った。
「クロイツベルクは隣国との交易で得られた利益を我が物とし、納税の義務を怠っている」
「それは、私に話してもよい事ですか?」
「交易の利益を元にヴェルナーに独立の話を持ち掛けるつもりだ。それに私は隣国のオルデンブルク伯爵の元に嫁ぐ事になっている」
「それは、契約書か何かがありますか?口約束だけでは王家も動けません」
「父の、書斎に隠し部屋があるはず。きっとそこにあるのだと思う」
「それを王に訴えると、クロイツベルク侯爵は処罰されてしまいます」
「仕方ない、民を思っての行動であれば私も我慢しただろう。けれど、これは民の為ではなくクロイツベルク個人のため。配下の者も意見出来ない状態で正せるのは私しかいない」
「分かりました。ではグレイグさまにその事をお伝えします。アデライード様の事は決して悪くは致しません」
私は部屋に戻るとグレイグさまにアデライード様から聞いた話をそのまま伝えた。
領民のためを思って、配下の者では意見出来ないと自らの父親の罪を吐露する。
こんなにも高潔な女性がいるとは思わなかった。
ああ、爵位を守るためには家族をも見捨てるという心得は、逆に領民を守るために家族を罰するという高潔さを兼ね備えているからこそ成り立つのだ。
「分かった」
グレイグさまはそれだけおっしゃり無言で手紙を書き始めた。
グレイグさまとは新婚旅行の名目でクロイツベルク侯爵家に滞在しているので、当たり前だけど一緒の部屋だ。
それどころかベッドは一つしかない。
クリスタに言われた事を守るため、毎晩寝る前は腕立て伏せをしたり腹筋をしたり、剣の素振りをしたりして身体をいじめられている。
何だか可哀想だけど、「これが片付いたら、シェリと!」と独り言をおっしゃるので、片付いたら私も覚悟が必要だ。
アデライード様の部屋でいつものようにお茶を飲みながら冒険譚を話した。
今日はアリアさまのお話で、ヴェルナー伯爵と一度お別れになった後再びお会いする事になり、女神様にお礼のお祈りをする辺りの話をした所でドアがノックされた。
「どなた?」
侍女は部屋の外で待たされているので私が代わりに返事をした。
「クロイツベルク侯爵のご命令です。失礼致します」
許可も待たずにいきなりドアが開き、三人の兵がずかずかと入って来る。
爵位を守るためには家族をも見捨てる必要がある。
侯爵はアデライード様を見捨てる事にしたようだ。
「無礼者!」
普段ならアデライード様の言葉に兵も萎縮してしまうのだと思うけれど、今は伯爵の命で動いているせいか臆する事なく近付いて来る。
「クロイツベルク侯爵はあなた達に何を命令したの?」
時間を稼ぎたい。
そして、何か武器になるものが欲しい。
「侯爵に不利益を与える計画を為す者を捕らえよと」
「折角こんなステキな部屋に押し入るなんて不躾な事をしないでください。少し香水を撒いても?」
立ち上がり、ベッドに向かう。
令嬢は万が一辱めを受ける前には自ら命を絶たなければならない。
そのための道具があるはず、兵たちを刺激しないようにゆっくりとベッドに近付く。
欲しいものが両方があった。
私はナイフを袖の内側に隠し、香水を撒きながら戻って来た。
相手は三人、素人ではないから倒す事は無理だけど、逃げる機会を伺う位は出来るはずだ。
「それで、不利益とは一体何なのですか?私を私室に入れた事でしょうか?」
「侯爵を他領の人間に売ろうとした事だ」
やはり自室で侍女を排したとはいえ会話は聞かれていたのが悲しい。
実の娘すら信じられないのか。
ちらと入り口を見た。
ドアは開きっぱなしで誰かが外を通ったら気付くだろうけれど、そうでなかったら。
三対一では手に余るけれど念のため動きを想定する。
まず動くべきは私。
槍を持った三人相手に後手に回るわけにはいかない。
香水を真ん中の兵の目に掛けて無力化。
左側の兵の槍を少し引く。
すると逆に引き返して来るはずだからその力も使って飛び掛かり喉を突く。
その兵の胸を蹴って右端の兵に飛び掛かる。
槍は距離がある場所では有効だけれどこんなに近い状態では役に立たない。柄を掴む指を斬りつけてから喉を突く。
これなら何とか出来そうだけれど、二人目と三人目の間隔が長いと防御の姿勢を取られてしまう。
三人との間合いを測りながら、飛び掛かるタイミングを見計らった。
「シェリ!!!」
遠くからグレイグさまの声が聞こえて来る。
とりあえず三対二になった。
「シェリ!」
「グレイグさま!賊は三人います!」
「おお、では数の上ではこちらが圧倒しているな!」
言いながら部屋に入って来た。
部屋付きの侍女、年老いた執事、辺りを掃除していた掃除夫、城を巡回警備している兵が一人、そしてグレイグさま。
確かに数の上では圧倒している。
「お前たち、よく我慢した。シェリに刃向かうと一人残らず無駄死にしていただろう」
私は袖口からアデライード様の最後の武器を取り出してテーブルの上に置いた。
日常を営む皆に囲まれて侯爵の命令に疑問を持ってしまったのか一人が槍を収めると残り二人も収めた。
三人とも片膝を付き頭を垂れた。
「アデライード様、お許しください。侯爵の命で捕縛せよとの事。理由に付いては我々も詳しくは知りませんでした」
「父はグランベル王を裏切ろうとしている。隣国ガルディアとも裏取引をしているようだが、裏切られるに決まっている。今ならまだ間に合う。お前たち、クロイツベルクを守るために私に力を貸してくれ」
「はっ!」
グレイグさまがアデライード様にこれからの行動を説明され兵四人と共に城門へ向かう。
アデライード様は城門を守る兵に向かっておっしゃる。
「お前たち、クロイツベルクを害なす侯爵を討つ時が来た。城門を開けよ。味方の兵を引き入れる」
グレイグさまが口笛を吹くとレイが降りて腕に留まる。
その足に赤い布を巻き付けると高く飛び立った。
「これでよし、すぐに来るはずだ」
「侯爵はどこにいらっしゃるのかしら?」
年老いた執事に聞くと、やはり仕えて長いのか悲しそうな顔をして悩まれたけれど、アデライード様の顔を見ると踏ん切りが付いたらしい。
「クロイツベルク様は、来客の予定があるので謁見の間におられます」
「では行きましょう」
目指すは謁見の間!




