表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【神のクレカで無限通販】三ツ星シェフの異世界無双~極めし武術と現代食材で飯テロしつつ、ポンコツ女神を養います~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/18

EP 5

三ツ星屋台オープン(市井への潜伏)

「……じいちゃん。あんたの教えが、まさか異世界で役に立つとはな」

真新しいステンレスの作業台を布巾で拭き上げながら、俺は誰に聞こえるでもなく独りごちた。

俺に『天極流』というハイブリッド武術を叩き込んだ祖父・武信は、重度の歴史マニアだった。

特に彼が崇拝していたのが、江戸幕府第八代将軍である『徳川吉宗公』だ。

『優也よ。上に立つ者、真に世を統べる者は、決して城の奥にふんぞり返っていてはならん。時にはしがない浪人や町民に身をやつし、市井しせいに紛れ、己の目で民の暮らしと悪を見極めるのだ』

幼い頃、木刀を持たされながら聞かされたその教訓。

令和の時代に将軍になる気など毛頭なかったが、三ツ星レストランの厨房をまとめる副料理長となってからは、その言葉の重みが少しだけ分かった気がした。

客の本当の顔色や、末端の料理人たちの不満は、上に立っているだけでは絶対に見えない。

「だから俺は、この異世界でも『ただのしがない定食屋の親父』を貫く」

「マスター! お店の準備、できましたよー!」

「ダーリン! 私たちのお給料まかない、今日は何ですかぁ!?」

厨房の奥から、元気な声が響いた。

振り返ると、通販で買った清楚なカフェ風の制服とエプロンを身に纏ったリリスとリーザが立っていた。あのヨレヨレの芋ジャージは没収し、俺がルチアナのクレカで買い与えたものだ。

二人とも、素材(顔とプロポーション)が良いだけに、ちゃんとした服を着せると見違えるほど看板娘として様になっている。

「まかないは営業が終わってからだ。表の暖簾のれんを出してこい。三ツ星食堂・白雪、いよいよオープンだ」

「「はいっ!!」」

***

ポポロ村のメインストリート。

各国の駐留兵や傭兵、商人たちが行き交う大通りに、出汁と醤油の暴力的なまでに甘辛い香りが漂い始めた。

「……おい。なんだこの匂い……たまんねえぞ……」

「新しくできた定食屋からだ……。オレたち、もう三日も『ハズレオムレツ』しか食ってねえんだぞ……」

店の外で、薄汚れた鎧を着た傭兵らしき男たちが数人、亡者のようにフラフラと暖簾をくぐってきた。

彼らはメニューも見ずに、カウンターに崩れ落ちるように座り込んだ。

「お、親父……この匂いのヤツ……一番安くて、腹にたまるヤツをくれ……」

「いらっしゃい。ちょうど煮込めたところだ」

俺は静かに頷き、厨房の奥で湯気を立てている巨大な寸胴鍋の蓋を開けた。

作ったのは『特製・豚の角煮丼』と、ポポロ村名産の月見大根をふんだんに使った『具沢山豚汁』だ。

地球のネット通販で取り寄せた最高級の豚バラ肉のブロックを、一度表面をカリッと焼き上げてから、ネギの青い部分と生姜、そして地球の純米酒で三時間じっくりと下茹でする。

その後、特選醤油とザラメ、みりんを合わせた特製ダレで、肉が箸で切れるほどトロトロになるまで煮込んだ究極の角煮。

どんぶりに炊きたての白米(地球産・特Aランクのコシヒカリ)をよそい、分厚い角煮を三切れ乗せる。照り輝くタレをたっぷりとかけ、横に半熟の煮卵と、色鮮やかなほうれん草を添えれば完成だ。

「お待ち。うちの看板メニュー『角煮丼定食』だ」

ドンッ、とカウンターに置かれた定食を見て、傭兵たちは息を呑んだ。

宝石のように琥珀色に輝く肉の脂。立ち昇る暴力的なまでの甘辛い香り。

「い、いただきます……っ!!」

一人の傭兵が、震える手で箸を持ち、角煮を口に運んだ。

その瞬間。

「……あ、ぁぁ……っ!!」

男の目から、ブワッと大粒の涙が吹き出した。

「と、溶ける……! 肉が、脂が、口の中で甘く溶けて消える……! なんだこれ、米が……白米が止まんねえ!! 醤油と肉の旨味が脳みそを直接ぶん殴ってくる!!」

「こっちのスープ(豚汁)もヤバい!! 大根がホクホクで、出汁の旨味が五臓六腑に染み渡る……! オレたち、今まで何を食って生きてきたんだ……っ!?」

むせ泣きながら、狂ったように丼を掻き込む男たち。

その凄まじい食べっぷりに、表を歩いていた他の兵士や村人たちも「なんだなんだ」と次々に店へ吸い込まれてきた。

たちまち店内は満席になり、リリスとリーザが「お茶お持ちしましたー!」「角煮丼一丁ですぅ!」と嬉鳴りを上げながらホールを走り回る。

俺はカウンター越しに、夢中で飯を食う傭兵たちに、冷たく冷やした麦茶(ルチアナのクレカ購入)を注ぎ足してやった。

「ゆっくり食え。おかわりはあるぞ。……ところで、国境の警備は最近どうだ? だいぶ疲れてるようだが」

「聞いてくれよ親父! ルナミス帝国の連中がまた国境沿いで新型の魔導兵器の演習を始めてよ! おかげでオレたち下っ端は夜も眠れねえんだ!」

「獣人王国の方もピリピリしててよ、昨日も黒豹の隠密部隊の影を見たって奴がいて……」

「そういや、この村の自警団のダイヤの嬢ちゃんも、最近また資金繰りが苦しいらしくて、強い魔獣を狩りに森の奥へ行ったっきりで……」

温かく美味い飯と、冷たい茶。

張り詰めていた緊張の糸が解けた男たちは、俺が深く問いただすまでもなく、各国の軍事動向や村の内部事情をペラペラと喋り始めた。

(……やはり、飲食店のカウンターは最高の情報収集(諜報)の場だな)

吉宗公が市井に潜伏し、民の生の声を聞いたように。

俺はこの『定食屋の親父』という完璧な隠れ蓑を利用して、このアナステシア世界と、ポポロ村の勢力図を急速に脳内の帳簿に書き込んでいく。

「お前ら、しっかり食って休んでいけ。明日の活力は胃袋からだ」

俺が薄く笑って告げると、傭兵たちは「親父、一生通うぜ!」「この店はオレたちが守る!」と涙ながらに忠誠を誓っていた。

順調な滑り出しだ。

だが、美味い飯と金がある所には、必ず『質の悪いハエ』が寄ってくるのが世の常。

店が繁盛の熱気に包まれる中。

ガラッ、と乱暴に店の引き戸が開けられ、先ほどの傭兵たちとは明らかに毛色の違う、ガラの悪いならず者の集団が、土足で店内に上がり込んできた。

「おいおいおい。新顔の店が、随分と儲かってんじゃねえか。みかじめ料の挨拶もなしに商売するとは、いい度胸してんなァ?」

先頭の男が、下劣な笑みを浮かべながら腰の剣に手をかけた。

俺はゆっくりとコンロの火を止め、ポケットのキャンディに指を触れた。

どうやら、異世界で最初の『成敗』の時間がやってきたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ