表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【神のクレカで無限通販】三ツ星シェフの異世界無双~極めし武術と現代食材で飯テロしつつ、ポンコツ女神を養います~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/46

EP 5

【調理開始】魔法陣 vs 科学と包丁

ポポロ村の中央広場は、かつてないほどの熱気と喧騒に包まれていた。

急造された特設の調理台が二つ並び、その正面には審査員席が設けられている。

審査員は三人。

帝国軍第十二大隊長、クラウス・クライン。

ポポロ村宰相、リバロン。

そして、なぜか『付け髭とサングラス』という怪しすぎる変装をした初老の男――帝国最高権力者の一人、内務卿オルウェルである。(リバロンが帝都への報告ついでにこっそり呼び寄せていたのだ)。

「さあ、見とれるがいい! 辺境のゴミ屑ども! これが帝都の至高たる【魔法調理】だ!」

ユリウスが高らかに宣言し、指を鳴らした。

瞬間、彼の調理台の下に幾重もの複雑な『火の魔法陣』が展開され、目にも鮮やかな真紅の炎が舞い上がる。

「おおおっ! すげえ魔力だ!」

「炎が踊ってるみたいだぞ!」

観衆がどよめく中、ユリウスは魔導冷蔵箱から、宝石のように輝く『幻帝竜エンペラー・ドラゴン』の極上リブロースを取り出した。

「燃え盛れ! 【紅蓮焼き(クリムゾン・ロースト)】!」

ユリウスが肉を炎の魔法陣に放り込む。

ジュワァァァァァッ!!という凄まじい音と共に、ドラゴンの極上の脂が溶け出し、広場中に暴力的なまでに美味そうな匂いが充満した。

「スゥゥゥ……ハァァァッ! あぁぁ……匂いだけでご飯が三杯いけそうですぅ!」

審査員席の横で見学していたリーザが、たまらずヨダレを拭う。

だが、ユリウスの真骨頂はここからだった。

「仕上げだ! 皇帝陛下すらも虜にする、私のユニークスキル! 【味覚付与フレーバー・エンチャント】!!」

ユリウスの右腕から、黄金の魔力の粒子がキラキラと降り注ぎ、分厚いステーキ肉へと吸い込まれていく。

それは、食材のポテンシャルを強制的に引き上げ、脳に直接『極上の美味』を錯覚させる、まさに反則級のチート魔法。

エンチャントが完了した瞬間、幻帝竜の肉は後光が射しているかのように神々しく輝き始めた。

「フハハハハ! 完成だ! これが魔法と才能チートの結晶! 誰がどう足掻こうと超えられない、絶対的な美味だ!」

観衆は完全にユリウスの魔法の演出と匂いに呑まれ、ゴクリと息を呑んでいた。

一方。

そんなド派手な宮廷魔法のショーの隣で、優也の調理台は……お通夜のように静まり返っていた。

「……ダーリン、大丈夫ですかぅ?」

「優也さん……火も使わずに、ずっとお鍋を見つめてるけど……」

リーザとキャルルが不安そうに見守る中、優也は口にLarkを咥えたまま、コトコトと微かな湯気を立てる大鍋の前に腕を組んで立っていた。

彼が取り出したのは、昨夜、ヒロインたちが集めてきた『酸腐れワイン』と『鬼食い草』のドス黒いマリネ液に一晩漬け込んだ、マッドボア(泥豚)のブロック肉だ。

優也はその肉をマリネ液から取り出し、耐熱性の魔導ポリ袋に密閉し、お湯を張った大鍋の中に沈めていた。

「アッハッハッハッ! なんだその真っ黒な汚物は! しかもお湯に浮かべて、一体何をしている!?」

ユリウスが腹を抱えて嘲笑う。

「沸騰すらしていない温いお湯で肉を煮るなど、料理の基礎すら分かっていない証拠! 帝国では、そんな調理法は豚の餌にすら使わんぞ!」

ユリウスの言う通り、優也の鍋の湯はグラグラと沸き立つわけではなく、わずかに気泡が上がる程度の温度を保っていた。

観衆からも「諦めてスープでも作ってんのか?」という落胆の声が漏れる。

だが、優也はそんな嘲笑を気にも留めず、温度計の魔道具で湯の温度を厳密に測りながら、火の魔石をミリ単位で調整していた。

「……温度は摂氏63度。完璧だ」

優也の目は、一切の妥協を許さない『三ツ星の料理人』のそれだった。

(あのバカは知らない。肉のタンパク質は66度を超えると急激に硬く収縮し、水分(肉汁)を失ってパサパサになるという科学的真理を)

優也が行っているのは、地球の最新の料理科学――**【低温調理(真空調理法)】**である。

マッドボアのゴムのように硬い筋繊維は、昨夜のたまんねぎの酵素と、酸腐れワインの強酸によって、すでに細胞レベルでボロボロに破壊されている。

そして今、タンパク質が硬くならない『63度』という絶妙な温度帯でじっくりと熱を入れることで、硬いコラーゲンだけが溶け出し、肉の中に極上の肉汁を100%閉じ込めたまま、ゼリーのように柔らかな状態へと変化していくのだ。

魔法のエンチャントなど不要。

ロジック(科学)と時間こそが、安い肉を化けさせる最強の魔法である。

「おい、定食屋。もう降参したらどうだ? 見ろ、審査員たちも私の『幻帝竜の魔法焙煎ステーキ』を待ちきれなくてヨダレを垂らしているぞ」

ユリウスが、黄金に輝く肉を皿に盛り付けながら勝ち誇った笑みを浮かべる。

「急ぐな。……美味いメシってのは、待ってる時間もスパイスなんだよ」

優也はLarkの灰を携帯灰皿に落とし、大鍋から密閉袋を引き上げた。

袋を開けると、中から取り出されたマッドボアの肉は、最初のどす黒い色から一変し、ほんのりと桜色に色づき、ぷるんぷるんと震えるほどの信じられない柔らかさになっていた。

「なっ……なんだその肉は!? 泥豚のくせに、なぜそんなに柔らかそうに……!?」

ユリウスの笑みが、わずかに引き攣る。

「……下ごしらえ(科学)は完璧だ。ここからは、親父の包丁(腕)の見せ所だぜ」

優也がまな板の上に桜色のブロック肉を置き、包丁を手に取った瞬間。

空気が、ピンと張り詰めた。

魔法の炎が舞う宮廷シェフと、静寂の中で包丁を握る定食屋の親父。

両極端のふた皿が、いよいよ審査員の前に運ばれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ