EP 6
天才のひと皿と、審査員たちの感嘆
「さあ、まずは私が先陣を切ろう。帝国の至宝たる美味を味わうが良い!」
特設審査員席の前に、純白の宮廷シェフコートを翻したユリウスが歩み出た。
彼の手には、黄金の魔力粒子がキラキラと舞う、大皿に乗せられた分厚い肉の塊。
「お出しするのは『幻帝竜の魔法焙煎ステーキ』。私の【味覚付与】によって、素材の味を限界突破させた至高のひと皿だ」
ユリウスが皿を置くと、クラウス、リバロン、そして変装したオルウェルの三人は、その暴力的なまでに美味そうな香りと、圧倒的な魔力の波動にゴクリと喉を鳴らした。
「……では、いただこう」
クラウスがナイフを入れようとした瞬間、刃が肉に触れるだけで、抵抗感なくスッと沈み込んだ。
「なんと……幻帝竜の肉が、まるで淡雪のように柔らかい……!」
三人が同時にフォークで肉を口に運んだ。
――瞬間。
「「「…………ッ!!!」」」
三人の審査員の目が見開き、時が止まったかのように動きを止めた。
数秒の静寂の後、クラウスの蒼い瞳から、ツァーッ……と一筋の涙がこぼれ落ちた。
「お、おおお……っ! なんだこれは!? 口に入れた瞬間、肉が甘い脂と共に爆発するように溶け……それなのに、噛むほどに溢れ出す暴力的なまでの旨味!」
生真面目な騎士が、感極まったように声を震わせる。
「ええ……。幻帝竜の持つ強大な生命力の味が、ユリウス殿のエンチャント魔法によって、一切の雑味なく『完璧な美味』として脳に直接叩き込まれる。……まさに、計算し尽くされた【絶対的な旨味の暴力】です」
リバロンもまた、冷静な執事の仮面を脱ぎ捨て、恍惚とした表情でナイフを動かし続けている。
そして、付け髭のオルウェルに至っては。
「う、うむぅぅっ……! 帝都の宮廷料理もここまでのレベルに達したか! これを毎晩食えるなら、わしは内務卿の座を降りてでも宮廷ギルドの犬になっても良いぞォォッ!」
と、立場を忘れて泣きながら肉をかき込んでいた。
「フハハハハハ! 当然だ! これが私の才能! 私の魔法! 帝国最高峰のチート調理スキルだ!!」
ユリウスが両手を広げ、観衆の歓声を浴びながら勝ち誇った高笑いを上げる。
審査員たちの反応と、その圧倒的な美味のオーラを前に、ポポロ村の村人たちやヒロインたちは完全に言葉を失っていた。
「……ダーリン……」
「優也さん……」
リーザとキャルルが、絶望的な表情で厨房の優也を見つめる。
いくら優也の腕が三ツ星でも、あんな『チート魔法』と『幻帝竜』を相手に、安い泥豚の肉で勝てるはずがない。誰もがそう確信してしまった。
「さあ、定食屋の親父! 次はお前の番だ! まさか、そのお湯でふやかしただけの泥豚の肉を、生で食わせるつもりじゃないだろうな!?」
ユリウスが嘲笑を浮かべて挑発する。
「……」
優也は無言のまま、まな板の上のマッドボアのブロック肉を見つめていた。
低温調理(63度)で極限まで柔らかくなったその肉は、表面がほんのりと桜色に色づいているが、まだ『完成』には程遠い。
「……優也」
皿洗い係として厨房の隅にいた女神ルチアナが、珍しく真剣な声で囁いた。
「……私の神力が、少しだけなら使えますわ。今なら、あの泥豚を魔法で……」
「余計な真似すんじゃねえぞ、ポンコツ」
優也はルチアナの言葉を遮り、ポケットからLarkを取り出して火を点けた。
ふぅ、と紫煙を細く吐き出し、ユリウスの『幻帝竜のステーキ』を一瞥する。
「確かに美味そうだな。……チート(魔法)を使って、素材の味を『外から塗りたくった』だけのお子様ランチとしちゃあ、満点だ」
「なっ……なんだと!? 皇帝陛下も絶賛する私の魔法を、お子様ランチだと!?」
ユリウスが顔を真っ赤にして激昂する。
「料理ってのはな。素材を魔法で『上書き』するんじゃねえ。素材のポテンシャルを、底の底まで『引き出す』のが本物の技術だ。……それを今から教えてやるよ」
優也はエプロンの紐を力強く締め直し、ポケットから一粒のコーヒーキャンディを取り出した。
「お前ら、よく見とけ。これが、三ツ星定食屋の【仕上げ】だ」
優也がキャンディを口に放り込む。
――ガリッ。
奥歯でキャンディを噛み砕く、硬質な音が広場に響き渡った。
処刑人のスイッチが入る、究極のクライマックスの合図だった。




