EP 7
乙女たちの怒り! 炸裂、四段腹キイイイック!!
自慢の暗殺部隊が、たった一人の料理人によって数十秒でスクラップにされた。
その現実を前に、ゲルド子爵は悲鳴すら上げられず、ガタガタと全身の脂肪を震わせていた。
「ひ、ひぃぃ……ッ! バ、バケモノ……!!」
腰を抜かしたまま、這いつくばって寝室の奥へ逃げようとするゲルド。
だが、その進路を塞ぐように、四人の乙女たちが立ちはだかった。
「……逃がさないわよ、この好色豚」
ダイヤが拳をボキボキと鳴らしながら、獲物を狙う肉食獣の笑みを浮かべる。
「あ、あわわ……! ま、待て! 私は帝国の中央貴族だぞ! 私に手を出せば、お前たちどころかポポロ村全体が――」
「村の物流を止めて、乙女の純情を人質に取るようなクズの言うことなんて、誰も聞きませんぅ!」
リリスが黒のスラックス姿で、怒りに肩を怒らせる。
「そうですぅ! パンの耳より価値のないゲス野郎ですぅ!」
リーザもなぜか食べ物に例えながら、フンスッと鼻息を荒くした。
「それに……」
キャルルが、先ほどまでの悲劇のヒロインの表情を完全に捨て去り、ウサギの耳をピンと立てて『絶対零度のヤンデレ・スマイル』を浮かべた。
「優也さんのお店を潰そうとする害虫は、私がこの特注安全靴で、完・全・駆・除・してあげます♡」
「ヒッ……!! こ、こっちに来るなァァッ!!」
ゲルドが錯乱し、四人に向かって太い腕を振り回そうとした、まさにその瞬間だった。
「「「「いっけぇぇぇぇぇッ!!」」」」
乙女たちの怒りの大合唱と共に、前代未聞の『急所同時破壊攻撃』が幕を開けた。
「乙女の敵ぃぃッ!!」
まずはリリスが、メイド服ならぬギャルソン服の裾を翻し、華麗な跳躍から【顔面】へ向かって強烈な両足ドロップキックを放つ!
(※ドゴォッ!という音と共に、ゲルドの脂ぎった鼻骨が陥没する)
「おりゃあああッ!!」
すかさずダイヤが、凄まじい踏み込みから【みぞおち】へ向かって、岩をも砕く戦乙女のストレートキックをめり込ませる!
(※ボフゥッ!という音と共に、ゲルドの胃袋と肺の空気が完全に圧し出される)
「今こそ、力を合わせる時です♡」
そしてキャルルが、甘い声とは裏腹に、マッハの速度で振り抜いた安全靴のつま先を、男の最大の急所である【股間(金玉)】へ向かって情赦なくカチ上げる!
(※パァァンッ!!という、風船が弾けるような恐ろしい音が寝室に響き渡る)
「必殺! 四段腹キイイイック!!」
最後にリーザが、よくわからないネーミングを叫びながら、ゲルドの【弁慶の泣き所(両スネ)】を思い切り蹴り飛ばした!
(※メキィッ!というスネの骨が軋む音)
顔面、みぞおち、股間、両スネ。
人体の急所中枢を同時に破壊されたゲルド子爵の身体は、物理法則を無視して『くの字』に折り曲がり、そのまま天井まで高く打ち上げられた。
「あ、あべばぼぶァァァァァァァッッッ!!?」
言葉にならない断末魔を上げながら、ゲルドは美しい放物線を描いて、豪華な天蓋付きベッドのど真ん中に墜落した。
ドッシャァァァンッ!!とベッドが真っ二つにへし折れる。
完全に白目を剥き、口からカニのように泡を吹きながら、ゲルドは二度と動かなくなった。
(キャルルの一撃により、男としての機能も永遠に失われたことは言うまでもない)。
「……ふぅ。やりましたね、皆さん!」
「ええ! これでポポロ村の平和は守られたわ!」
「お腹空きましたぅ!」
ハイタッチを交わし、キャッキャと喜ぶ四人のヒロインたち。
その光景を部屋の隅で見ていた優也は、咥えていたLarkの灰を携帯灰皿に落とし、ジト目でツッコミを入れた。
「……おいリーザ」
「はいですぅ! ダーリン、私の活躍見てくれましたか!?」
「活躍は認めるが……お前の技、『四段腹キック』じゃなくて『(四人による)四段攻撃』だし、そもそも腹じゃなくてスネ蹴ってたじゃねえか」
「あやや? そうでしたっけ?」
リーザが自分の頭をコツンと叩いて舌を出す。
「まあいい」
優也は短くため息をつき、ベッドで完全に気絶(というより昇天)しているゲルド子爵を見下ろした。
「客の寝室を汚したのは心苦しいが……下処理もメインディッシュの仕上げも、完璧な手際だったな」
優也がコックコートの襟を正した、その時。
「――そこまでだ!! 帝国軍・広域監査部隊、突入!!」
寝室の外から、大勢の軍靴の音と共に、聞き覚えのある凛とした声が響き渡った。
リバロンの密告を受け、帝都から強行軍で駆けつけてきた白銀の騎士――クラウス・クラインの到着だった。




