EP 6
【成敗開始】ガリッ!からの大チャンバラ
「殺せ! そのコックの首を刎ねろォォッ!!」
ゲルド子爵の絶叫を合図に、十数名の暗殺部隊が一斉に床を蹴った。
彼らは帝国の中央貴族が裏金で雇った、本物の『殺しのプロ』たちだ。一切の音を立てず、死角から毒の塗られた短剣と細身の剣が優也の急所へと迫る。
だが。
コーヒーキャンディのカフェインが脳髄に回り、完全に『処刑人』のスイッチが入った優也にとって、その動きは止まって見えるほどに遅かった。
「……出前一丁。ツケの回収だ」
優也の口から、氷のように冷たい声が漏れる。
ヒュンッ!!
空気を切り裂く音。
先頭に躍り出た暗殺者のリーダーが、優也の首に刃を届かせるより早く。
優也の身体が、揺らぐようにその場から『消失』した。
「なっ――消え……ごはァッ!?」
【天極流・歩法『縮地』】。
背後に回り込んだ優也の愛刀『白雪』の【峰】が、リーダーの延髄を正確に叩き据える。刃を当てずとも、極限まで圧縮された闘気による衝撃波が脳を揺らし、男は白目を剥いて床に崩れ落ちた。
「リーダー!? クソッ、囲め! 串刺しにしろ!!」
残る暗殺者たちが一斉に優也へと群がる。
だが、優也は口に咥えたLarkの灰を落とすことすらせず、流れるような剣舞で応戦した。
「客の寝室に泥靴で上がるわ、刃物は振り回すわ……。マナーのなってねえ客だな」
ガンッ! バギィィッ!
刃と刃が交わる鋭い金属音が鳴ることはない。
優也は、振り下ろされる敵の刃を白雪の『峰』で的確に弾き落とし、そのまま手首、肘、膝の関節といった急所を、目にも留まらぬ速さで打ち砕いていく。
「あばァッ!?」
「腕が……腕が折れ……ぎえェッ!!」
鮮血は一滴も流れない。
優也の振るう神速の『峰打ち』は、相手の骨と意識だけを刈り取る、まさに極上の下処理だった。
「ひぃぃぃっ! な、なんだコイツは! 人間の動きじゃねえ!!」
「魔法か!? なぜ闘気だけで鋼の剣がへし折れるんだ!!」
数秒前まで殺意に満ちていた暗殺者たちの顔に、明らかな『恐怖』が浮かぶ。
無理もない。彼らが束になっても、定食屋の親父のコックコートの裾にすら触れることができないのだから。
「……料理人の手際を舐めんじゃねえよ」
優也は低く呟き、白雪を上段に構えた。
「【天極流・飛燕連刃】――下ごしらえ(峰打ち)だ」
ズバババババババババッ!!!!
目視不可能な速度で放たれた無数の『峰打ちの斬撃波』が、部屋中に広がる暗殺者たちを薙ぎ払う。
暴風のような闘気の塊に打ち据えられ、残っていた刺客たちは一瞬にして壁や天井に叩きつけられ、全員が糸の切れた傀儡のように昏倒した。
「……ふぅ」
優也は白雪の刀身をクルリと反転させ、カチンッ、と澄んだ音を立てて鞘に納めた。
戦闘開始から、わずか数十秒。
寝室に立っているのは、煙草を燻らせる優也と、その後ろで控える従業員たちだけだ。
「あ……あぁ……。ウソ、だろ……? 私の、私の最強の護衛たちが、一瞬で……ッ!」
ベッドの傍らで、ゲルド子爵が股間を震わせながらへたり込んでいた。
純銀のヘアブラシが床に落ち、カランと虚しい音を立てる。
優也はゲルドを見下ろし、冷たく言い放った。
「雑魚の下処理は終わったぜ。……だが、俺の出番はここまでだ」
「え……?」
ゲルドが間抜けな声を上げる。
優也は数歩下がり、背後に控えていた四人の乙女たち――ダイヤ、リリス、リーザ、そしてキャルルに視線を向けた。
「俺がこの豚を斬ってもいいが……それでは、こいつらにかけられた迷惑の【お会計】としては割に合わねえんでな。お前ら、メインディッシュの仕上げ(トドメ)は任せたぞ」
「「「「はいっ(ですぅ)!!」」」」
優也の言葉を合図に、四人の乙女たちが、ゴキボキッと指の関節を鳴らしながら、悪徳子爵へとゆっくり歩み寄っていく。
「ひ、ヒィィッ! お、お前ら、何をする気だ! 私は帝国の中央貴族だぞ!!」
ゲルドが青ざめた顔で後ずさる。
だが、彼女たちの背後には、般若も逃げ出すようなドス黒い怒りのオーラが立ち昇っていた。
理不尽な兵糧攻めと、乙女の純情を蹂躙しようとした好色豚へ。
ポポロ村が誇る最強のヒロインたちによる、前代未聞の『急所同時破壊ギャグ(お仕置き)』が、今まさに炸裂しようとしていた。




