表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【神のクレカで無限通販】三ツ星シェフの異世界無双~極めし武術と現代食材で飯テロしつつ、ポンコツ女神を養います~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/46

EP 3

村長の決意と、定食屋の怒り

夕暮れ時。

暖簾を下ろす前の『三ツ星食堂・白雪』に、キャルルが静かに入ってきた。

いつもは元気にウサギの耳を揺らして「優也さぁん♡」と飛びついてくる彼女が、今日はどこか影を背負い、無理に作ったような薄い笑みを浮かべていた。

「優也さん。……あの、私、今日から少しの間だけ、村を留守にします。ですから、お店には来られなくなっちゃうんですけど……」

「キャルル! やめなさい!!」

キャルルの言葉を遮るように、バンッ!と勢いよく引き戸が開けられ、ダイヤが飛び込んできた。

彼女の目は赤く腫れ上がり、息を切らしている。その背後には、無言で俯くリバロンの姿もあった。

「どうした、騒々しい」

俺が仕込みの手を止めて尋ねると、ダイヤは涙を堪えきれずに叫んだ。

「ゲルド子爵よ! あの豚、村の物流を再開させる条件として……キャルルを自分の屋敷の寝室に連れ込もうとしてるの! キャルルは、村と優也のお店を守るために、自分の身を犠牲にする気なのよ!!」

「……ッ!」

ホールで賄いを食べていたリリスとリーザが、同時にフォークを落とした。

「なっ……なんて卑劣な!! 乙女の純情を人質に取るなんて、絶対に許せませんぅ!!」

「そんなのダメですぅ! 悪徳貴族なんて、私が毎日食べてるその辺の雑草の刑にしてやりますぅ!!」

激怒する二人に対し、キャルルは寂しそうに首を振った。

「いいんです。……月兎族わたしたちは、昔からそういう運命なんです。綺麗な毛並みと希少さだけで、権力者のおもちゃとして狙われ続ける。……でも、私の身体一つで、大好きな村と、優也さんのお店が守れるなら……安いものですから」

キャルルはギュッと両手を握りしめ、必死に涙をこらえて笑おうとした。

「あの豚の『ブラッシング』さえ我慢すれば、また、優也さんのご飯が食べられますから。……だから優也さん、行ってきま――」

「座れ」

俺の低く、地を這うような声が店内に響いた。

思わずキャルルがビクッと肩を震わせ、カウンターの丸椅子に腰を下ろす。

俺は無言で冷蔵庫を開け、オレンジ色の『人参マンドラ』を一本取り出した。

「ギィッ……!?」

まな板の上で逃げようとしたマンドラの急所を指で突き、一瞬で気絶(下処理)させる。

それを手早くシャトー剥き(フットボール状)に切り揃え、小鍋に放り込んだ。

たっぷりのバターと、ポポロ村の聖なる泉の水。そして『ハニーかぼちゃ』から抽出した極上のシロップを加え、中火でコトコトと煮詰めていく。

「ゆ、優也さん……? 私、もうお迎えの馬車が来ちゃうから、行かないと……」

「黙って待ってろ」

数分後。

鍋の中で水分が飛び、バターとハニーシロップが乳化して、人参の表面に宝石のような黄金色のテリが出た。

「お待ち。『人参マンドラとハニーかぼちゃの極上グラッセ』だ」

俺は真っ白な小皿に盛り付けたそれを、キャルルの前にコトンと置いた。

立ち昇るバターの芳醇な香りと、脳を溶かすような甘い匂い。

「……あ、私……」

「食え。村長として村を出るなら、最後にうちのメシを腹に入れていけ。……それが嫌なら、ここから一歩も外には出さねえ」

俺の有無を言わせぬ視線に圧され、キャルルは震える手でフォークを握り、オレンジ色に輝くグラッセを一口かじった。

「――――っ」

瞬間、キャルルの大きな瞳から、堪えきれなかった大粒の涙がボロボロと溢れ出した。

「あ、あまっ……。甘くて、ホクホクで……バターの香りが、胸の奥までいっぱいに広がって……ッ。美味しい……本当に、美味しいですぅ……ッ」

恐怖も、絶望も、理不尽な運命も。

極上の甘味がもたらす『暴力的なまでの幸福感』の前では、全てが決壊する。

キャルルは子供のように声を上げて泣きじゃくりながら、人参のグラッセを夢中で口に運んだ。

「うわぁぁぁんっ……! 嫌だ……っ! 嫌です、優也さん……! 汚い豚の部屋になんて行きたくないっ! ずっと、ずっと優也さんのそばで、美味しいご飯を食べてたいよぉ……ッ!!」

ついにこぼれ落ちた、彼女の本当の『本音』。

俺は空になった小皿を下げ、ポケットからLarkを取り出して火を点けた。

ふぅ、と紫煙を細く吐き出し、泣き崩れるキャルルを見下ろす。

「……お前な。俺を誰だと思ってる」

俺はコックコートの襟を正し、冷たい怒りを帯びた声で言った。

「俺は三ツ星のシェフだ。……自分のシノギを守るために、常連の女に股を開かせるようなダサい真似はしねえ。死んだ目をした女に食わせるメシなんて、俺の厨房にはねえんだよ」

「優也、さん……」

「ダイヤ。リバロン。それにリリスとリーザ」

俺が声をかけると、四人がビシッと姿勢を正した。

「今夜、あの豚子爵の屋敷で『キャルル歓迎の宴』が開かれるらしいな。なら、極上の料理とサービスで出迎えてやるのが、一流の飲食店の礼儀ってもんだ」

俺は愛刀『白雪』を手に取り、ニヤリと不敵に笑った。

「野郎ども、準備しろ。これより、ゲルド子爵邸に『出張ケータリング』に向かう。……村の物流を止めた悪食の豚に、三ツ星の【フルコース(物理)】を味わわせてやるぞ」

「「「はいっ!!」」」

四人の乙女(と一人の執事)の、気合の入った返事が店内に響き渡る。

月兎の涙を拭うため、定食屋の親父と史上最凶の従業員たちが、悪徳貴族の館へと乗り込もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ