function.009(“シリルの再挑戦”);
今日も訓練場にカイとシリルは居た。
再始動してから数日が経ったが、連日カイはテストを繰り返していた。
母たちも魔法陣に負荷をかけたり、動作の確認をしたりと、実験の一端を担っていた。
自魔法陣のバグだったことが許せなかったこともあるが、
それ以上に、シリルを危険な目に合わせてしまったことを後悔していた。
直した魔法陣の安全性を確かめるテストに臨むカイは鬼気迫るものがあった。
それを知ってか知らずか、母たちも積極的にカイを手伝っていた。
その姿はまるでシリルを後押しするようだった。
シリルもその姿を目の当たりにして、
心の中の小さな芽吹きが大きくなっていくのを感じていた。
そして今日――
訓練場に立つシリルの表情には決意が感じられた。
『また暴走したら怖い……
でも、またカイと一緒に……』
その表情とは裏腹に手や足は小刻みに震えていた。
頭の片隅には、あの日暴れ狂った水の渦がまだ焼き付いている。
「いいのよ、無理しなくて」
エスメラルダはわが子を優しく包み込む。
母の温もりが心を落ち着かせる。
「僕も一緒だから……」
カイもシリルの手をぎゅっと握りしめる。
シリルの心はさらに落ち着きを取り戻していく。
「うん、もう大丈夫……
でも、また何かあったら……頼むね、カイ」
シリルはカイの手を握り返すと、お願いをする。
二人の頬が少しだけ赤らんでいる。
その様子を見ていたエスメラルダは
「そこはカイだけじゃなくて『お母さん』もじゃなくて」
と唇を尖らせた。
「あっ……もちろん、お母さんもよ」
慌てて手を離したシリルは取り繕った。
「ふぅー」
大きく息を吐いたシリルは、二人より前に進み、集中をし始める。
瞑想をしているようにただただ深呼吸を繰り返す。
その様子を二人は静かに見守っている。
長い沈黙が続く。
時の流れが緩やかに感じるほどに。
シリルの瞼の奥には大きな水の渦がちらつく。
その恐怖の光景にカイと母たちの懸命な姿が重なっていく。
やがて水の渦が霞み、カイや母の姿が大きくなっていった。
『みんなが付いているから』
目を見開いたシリルは、魔法陣を展開し始める。
しかし、手足は縮こまりうまくいかない。
心は落ち着いたと思っていたのだが、まだ身体が拒否している感じがした。
「ふう……」
もう一度深呼吸をし、手と足を振ったり、伸ばしたりする。
「よし、もう一度」
パンと両手で顔を叩き、再度魔法陣を展開しはじめた。
すると、折られた紙が綺麗に開くように、すぅーっと広がっていく。
「ふぅー」
また深呼吸をすると、開いた魔法陣に手を当て魔力を注ぎ始めた。
青白い光が魔法陣を覆い始める。
火花が散るような光も見えると、顔がこわばってしまう。
それでも意を決したシリルは魔力を注入していった。
カイもデバッガの魔法陣を展開して、シリルの魔法陣に重ね合わせる。
「デバッガ」
二つの光が重なり合うと、カイの頭の中にはコードの海が広がった。
四方八方に広がるコードを追い、魔力の流れを確認する。
青白い光で覆われたコードが前面に広がっている。
ところどころで黄色い光が一瞬見えた。
『ん?
あの光は……』
気になる光が見えたと思ったのだが、すぐにその光は無くなっていた。
『もう少し、様子を見ようか……
出来ればログを取っておいた方がいいのかもしれない……』
そう思いながら、魔力の流れを慎重に見極めていた。
しかし、その後はおかしいところが見つからなかった。
『気のせいだったかな……
とりあえず、魔力の流れは問題なさそうだ』
そう感じたカイは
「シリル、そのまま発動しようか」
と自信を持って声をかけた。
「うん、わかった」
カイの声に後押しされたシリルも、少しだけ自信を持つことが出来た。
「アクア!」
収束した魔力の光が一瞬消えたかと思うと、大きな水の渦となり、大空へと駆け上がった。
大きな竜巻になった渦は訓練場一帯に大雨を降らせた。
「よし!」
うまく発動出来たことにカイは自信を深めた。
喜びのあまり、小さくガッツポーズもしていた。
「すごいわ……」
エスメラルダは自分で放ったアクアの比ではない状況に圧倒されていた。
それと同時にこの力が世界のあり方そのものを変えてしまうのではないかと感じた。
その将来は前途多難でもあるかもしれない。
それでも二人が選んだ道なのだから、サポートをし続けていこうと決意した。
シリルは無事に発動出来たことに安堵した。
内心はまた暴走してしまうのではないかと冷や冷やしていた。
それでもカイがデバッガでサポートをしてくれたから、すごく安心した。
心を落ち着けることが出来たからこそ、上手く発動できたのだと思った。
「シリル、上手くいったね」
カイも一安心だった。
修正した魔法陣に特に大きな問題がなかったこともあるが、
シリルがまた魔術を使うことが出来たことにもホッとした。
「ありがとう、カイ、お母さん」
シリルは足早に二人の下へ駆けつけると抱きついた。
「よくやったわね、シリル」
抱きついてきたわが子を労うように頭を撫でるエスメラルダ。
シリルの成長を感じずにはいられなかった。
「へへへへ……」
母に褒められて嬉しかったシリルは頬を緩めていた。
しかし、その瞬間、膝から崩れ落ちた。
「大丈夫?」
カイはシリルに寄り添う。
何か身体に異変が起きたのではないかと心配で仕方がなかった。
「急に怠くなっただけだから。
今まで緊張していたからかな……」
朝から気を張っていたシリル。
うまくいったことで安心したのか、どっと疲れが出てきた。
「もう、歩けない……
お母さん、おんぶー」
甘えた声でシリルは母にお願いをする。
「あらあら、この子ったら。
まぁ、シリルは頑張ったし、仕方ないわね」
エスメラルダは大きくなってきたわが子も、まだまだ子供だなと感じた。
それでもその甘えを受け止めて、腰を下ろして背中を向けた。
「ありがとう、お母さん」
シリルは母の背中に乗っかると、頬をべったりと寄せていた。
「まだ少しドキドキしてるかも」
ぽつりとシリルは呟いた。
その後は、安心したのかそのまま眠ってしまっていた。
カイはその寝顔を見て、ホッとしたと同時に
『一瞬のあの黄色い光はなんだったのだろう……』
とあの時の違和感が気になるのだった。
第9話までお読みいただきありがとうございます!
ついにシリルがトラウマを乗り越え、再び魔術を放つことができました。
「みんなが付いているから」という想いが恐怖を打ち消し、大空を舞う水の竜巻。カイの徹底したテストと「デバッガ」によるサポートが、彼女に再び一歩を踏み出す勇気を与えた最高の瞬間でしたね。
しかし、エンジニアとしてのカイの目は、一瞬の「違和感」を見逃しませんでした。
完璧に直したはずのコード(魔法陣)に見えた、謎の黄色い光。
果たしてそれは気のせいなのか、それとも……。
次回の第10話は、本日12時頃に更新予定です!
GW集中更新も、ついに最終日の第2コーナーへ。
平和な研究生活の裏側で、カイが感じた不吉な予感の正体とは?
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