function.010(“カイの決意”);
カイとシリルはその後もロストワードの開発と検証を繰り返していた。
ある時は部屋に籠り新しい魔術を開発し、
開発が終わると訓練場で検証をする。
そこででた問題をまた修正し、また検証をする。
違ったことと言えば……
二人の母と共に冒険者ギルドへ行き、冒険者として魔物討伐の依頼を受けたことかもしれない。
これも魔術の実験の一つとして、母たちが提案してくれたことだった。
ただ的に向かって撃つだけでは、効果がわからない。
実際に魔物に効くのかどうかを実戦で試してみてはどうかと言われたのだった。
さすがに昔、それなりのランクの冒険者だった母たち。
ギルドへの登録も顔パスのようにすんなりいった。
それだけでなく、二人がいるのであればと、駆け出しの冒険者ではできないランクの魔物討伐も許可された。
カイは最初、緊張していたものの、時間が経つといろいろと魔物相手に試し始める。
特に複合属性の魔術に対しての効果を確認したかったようで、淡々と魔物相手にロストワードの魔術を放っていた。
そして今では魔術を撃つだけでなく、状況判断をして適切に使い分けるようになっていた。
「カイ、後ろに行ったわよ」
クレアがカイに指示をするも、その前に雷が放たれる。
「ライトニング」
一瞬で魔物が黒焦げになっていた。
「カイ、やるね!」
一方、シリルは最初は母の後ろに隠れておどおどして、魔術を放つこともままならなかった。
それでも、時折放つロストワードの威力は桁違いだった。
ランクが低い魔物に対しては、姿形が無くなってしまうほどだった。
それでも何度も依頼をこなすことで、今は自分から前に出られるようになってきた。
「お母さん、どいて。
私がやる」
前にいるエスメラルダを押しのけて前に出たシリル。
「アイスランス」
いくつもの氷の槍が現れたかと思うと、逃げる間もなく次々と魔物を串刺しにしていった。
そんな日々を過ごしながら、カイは以前よりさらにロストワードに没頭していた。
シリルもそんなカイをサポートしつつ、自身の力もつけていった。
そして、3年の月日が流れた。
今日も母たちと一緒に魔物討伐に出かけていた。
いつも通り二人で連携して魔物を倒してた。
「あっという間ね。
私たちの出る幕がないじゃない」
「そうね……
本当に出来ることがないわ」
エスメラルダとクレアは顔を見合わせて苦笑する。
「ねぇ、カイ。
私、最初に倒した魔物、今でも覚えているわ」
「それ、エスメラルダさんに隠れながらだったはず……」
「ねぇ、それを今言うの?」
痛いところをつかれたシリルは膨れっ面になる。
「ごめん……」
カイは慌てて謝る。
「……いいよ、許してあげる」
膨れていた顔が元に戻ったシリルは満面の笑顔になる。
二人は身体も心もたくましくなっていた。
しかしカイは浮かない顔をしていた。
ロストワードでやれることが限界になっていた。
父は買い付けへ行った時に、同じような古書がないかを探してはくれているものの、新しい古書は見つかってはいなかった。
どうやら過去の遺物であるロストワードの古書はなかなか市場に出回ることがないようだ。
それは珍しいからということではなく、世の中が価値そのものに気づいていないということもあった。
貴族や冒険者の多くが、一攫千金を夢見て古の遺跡を探索している。
踏破した人たちが多くの金銀財宝を持ち帰ってきた話も聞く話だが、そこにはロストワードの古書は含まれていない。
そのことからカイは古書は遺跡に眠ったままではないかと考えていた。
停滞感を大きく感じるこの頃は、特に遺跡探索に気持ちが向き始めていた。
でも、それは危険を伴うため、家族には言い出しにくかった。
家族の顔を思い浮かべるたびに、その言葉は喉の奥から出てこなかった。
数日後――
部屋にいたカイは手元にある古書を隈なく読んでいた。
この数年も擦り切れるほど読んではいたが、見落としがないかを確認していた。
しかし……ページをめくるたびに熱が冷めていくことが分かる。
どこを探しても新しい発見は見つからない。
焦燥感だけが積み重なっていった。
――パタン
すべての古書に目を通し終わったカイは本を閉じる。
「ふぅー」
大きくため息をつくと、頭を抱え始めた。
「もう試せそうなものはない……
ここから先は、やっぱり別の知識が……古書が……欲しい」
喉が渇くように、体がそれを求めている。
閉じた古書の先にはまだ見知らぬ古書が眠っているのではないか。
そう確信するカイ。
居ても立ってもいられない衝動が、日に日に大きくなる。
静まり返った部屋に、心臓の鼓動だけが響いていた。
胸の奥の欲求は、もう誤魔化せる段階ではなくなっていたのだった。
次の日の朝――
カイはいつものように食卓を家族で囲んでいた。
父エドアルドは静かにスープを飲み始めていた。
兄リカルドは慌ててパンを口に運んでいる。
そこに母クレアがサラダを持ってきて、席に着いた。
「リカルド、慌てずしっかり食べなさいよ」
「だって時間が……」
リカルドは残りのパンを頬張ると、慌てて外へ出ていった。
朝早くに商談があることをすっかり忘れていたのである。
「行ってきます」
「だからもっと早く起きなさいっていっているのに」
呆れた顔をしたクレアはリカルドを見送ると、再び席に着いた。
父と母とカイの三人での食卓だ。
姉のシャルロットは3年前から王都の王立学園の寮で一人暮らしをしていてここにはいない。
いつもと変わらない食卓だが、カイは緊張してぎこちない手つきでサラダを口に運ぶ。
二人の様子を伺いながら、タイミングを見計らう。
ここで話そうと思っても、話せず何度も言葉を飲み込んでいた。
しばらくの沈黙が続く中、意を決したカイが口を開く。
「……父さん、母さん、ちょっと話してもいい?」
二人の視線がこちらに向けられた。
その目線にさらに緊張したカイは深く息を吐く。
そして、落ち着いた声で話し始めた。
「あの……ロストワードのことなんだけど……」
「どうしたの?
またこの後、訓練場へ行くのかい?
それなら、片付けがあるから、それが終わるのを待っててほしいわ」
いつもの日常のことを思い描くクレアは、そう言いながら紅茶を飲みほす。
「いや……そうじゃなくて……」
「何?
はっきりしないな。
何か問題があったのか?」
エドアルドはカイが言いにくそうにしているのに気がついた。
話しづらいことなのかもと思い、優しく問いかけていた。
「あの……
いろいろと協力してもらっていたけど……
これ以上はもう研究が進んでいかないんだ……
だから……
だから、各地の遺跡を回って、ロストワードの古書を探しにいきたい」
カイは抑えられない知識の探求心を吐露しはじめた。
「急に何故……」
戸惑うエドアルドとクレアにカイは話を続けた。
「父さんにも各地で見かけたら買ってほしいとお願いしていたけど、
あれからは全然入ってこなかった。
市場に出回らないってことは、まだ遺跡に残されているんじゃないかと思っているんだ。
それに、古書も隅々まで読んだけど……
もうあそこに書かれていることは全部試してしまったんだ。
このままでは、ロストワードの研究が進まない。
新しい知識を仕入れる必要があるんだ」
理路整然と話す中にも熱い思いを滾らせて話すカイ。
「カイ、あなたはまだ子供なのよ。
母親として、あなたを危険に送り出すなんて絶対に嫌だわ」
クレアは愛ゆえの怒りのあまりに、机を両手で叩く。
バシッと乾いた音が響きわたった後、場に沈黙が広がる。
「父さんもさすがに容認出来ないな。
道中には盗賊や魔物もいる。
知識だけじゃ防げない危険もあるんだぞ。
それに、あと2年経てば王立学園への入学もある。
学校を卒業してからでもいいんじゃないか?」
続いた沈黙の中、口を開いたエドアルドは落ち着いた口調で反対した。
「父さんや母さんの言うことも分かってはいるつもり。
急いでいるのかもしれない。
それでも、僕は、ロストワードを探求していきたいんだ。
そのためには時間が惜しい。
少しでも多くロストワードと触れ合っていたい」
反対するだろうとは思っていたこともあり、冷静に受け止めようとしていたカイだったが、熱い気持ちを二人に伝える。
「父さん母さん、僕にとってロストワードは……ただの研究じゃないんだ!
生きている証なんだ!」
熱量からか感情的な言い方になってしまったカイ。
ふぅーっと深呼吸をした後に、落ち着いた口調で話を続ける。
「それに、ちゃんと15になったら、王立学園へ行く。
まずはそれまでの間、さらにロストワードを追求していきたいんだ」
こうなったらテコでも動かない息子の性格を一番理解していた二人。
顔を見合わせ、苦笑いをする。
「わかったわ。
しっかりしているあなたのことだから心配はしないけど、無茶はしないでね」
「お前のその一途さは時には危険を伴うこともあるだろう。
ちゃんと引く時は引く。
見極めるんだぞ」
カイの熱意に負けたエドアルドとクレアは、カイのロストワード探求の旅の許可をした。
「あっ……ありがとう、父さん、母さん」
カイの目から一筋の涙が落ちる。
それを見たクレアがそっと微笑んだ。
無理を承知で相談したことを、最初は反対しつつも、理解し応援する二人のふところの深さに、カイは感謝するしかなかった。
「このこと、シリルちゃんが知ったら……」
クレアは紅茶のカップを見つめながら、一抹の不安を抱くのだった。
第10話までお読みいただきありがとうございます!
物語は一気に3年の時を経て、カイとシリルは立派な(そして少々規格外な)冒険者へと成長しました。
しかし、手元にある「ソースコード(古書)」をすべて読み解いてしまったカイにとって、知識の停滞は耐えがたいものでした。
「ロストワードは、僕の生きている証なんだ!」
親の反対を押し切ってまで未知の遺跡へと目を向けるカイ。それは、前世でシステム開発に全てを捧げた彼だからこその、魂の叫びだったのかもしれません。
無事に両親の許可を得たカイですが、母・クレアが危惧するように、共に歩んできたシリルの反応が気になるところです……。
次回の第11話は、本日20時頃に更新予定です!
GW集中更新も、いよいよ今夜がクライマックス。
旅立ちを決意したカイに、シリルは何を想うのか。
二人の物語の大きな節目を、ぜひ最後まで見届けてください!
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