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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.001 { kai = new AnotherWorld(); }

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11/14

function.011(“シリルの覚悟”);

昨晩は気持ちが高ぶって、あまり眠れなかったシリル。

――昨日いつものようにカイの家へ行った時のことを思い返す。


『だから、各地の遺跡を回って、ロストワードの古書を探しにいきたい』


ドアノブに手をかけた時に、思わぬ言葉がカイの口から出ているのが聞こえてきた。

いつもなら何食わぬ顔で入っていくのだが、今日は入る勇気が出なかった。

その場で立ち止まってしまい、外から聞き耳を立てていた。


外から見るカイの横顔は真剣そのものだった。

その目を見ていると、軽々しく『行かないで』とは言えない。


カイはいつもの冷静な口調の中にも熱い気持ちで話を続けている。

その様子を見守るシリルにも思いが伝わってきた。

それと同時に、一緒に行きたいという強い気持ちも芽生えてきた。


ここ数年、シリルとカイはずっと一緒に過ごしてきた。

これが永遠に続いていくものと思っていた。

その矢先にカイが旅立とうとしている。

思い描いていた未来――

カイと笑いながら過ごす日々が、静かに崩れ落ちていく。

未来からカイがいなくなると思うと、胸がギューッと押されているのを感じた。


『カイとずっと一緒にいたい、離れたくない』


シリルの心にその思いが埋め尽くされていく。

居ても立っても居られなくなったシリルは胸の奥の熱を抱えたまま、朝日が輝く中を駆け出した。


家に着き、ベッドに寝転ぶと、先ほどのカイの言葉や様子が頭の中に渦巻いていた。


『カイは一人で旅立つつもりなのかな……

 私がついていったら迷惑かな……』


頭の中がグルグルになりながらも、どうしたいのかを自問自答し続けて、気がつけば朝になっていたのだった。


ほとんど眠れなかったが、夜明けとともに心は澄み渡っていた。

もう迷いはなかった。


『私はカイとどこまでも一緒に行く』


ベッドから飛び起きたシリルは、父母がいるリビングへと力強く歩を進めるのだった。


ダッダッダッダッダッダッ――


二階から荒々しい足音がリビングに響き渡る。

凄まじい音に父ラルフと母エスメラルダが何事かと驚いていた。

足音がリビングに近づいてきたと思うと、扉がバタンと開く。


「お父さん、お母さん、話があるの」


温和な表情のシリルがいつになく険しい顔をしている。


「どうしたんだ、シリル。

 父さん、何かしちゃったか?」


娘の地雷を踏んだのかとアタフタするラルフ。


「あらあら、どうしたのかな。

 いつものシリルちゃんはどこへ行ったのかなぁ」


のんびりとした口調でエスメラルダはシリルに落ち着くように促した。

それでも、興奮気味のシリルは勢いよく話し始める。


「私もカイと旅に出る!

 カイと一緒じゃなきゃ嫌!」


カイと離れたくないと思う気持ちが爆発したシリルは父と母に想いをぶつける。

いきなりで面を喰らったラルフとエスメラルダだったが、クレアから事情は聞いていたこともあり、気を取り直してシリルに語りかけた。


「そのことか……

 父さんもビックリしたけど、カイにはカイなりの考えがあるのだろう。

 学校へ行くときには戻ってくるらしいから、それまでは待ったらどうなんだ」


ラルフは真剣な表情で落ち着いて話をしていた。


「嫌だ!

 そんなに待てない。

 絶対にカイと離れるなんて嫌だ!」


一向に耳を貸そうとしないシリルに、ラルフは少し感情が高ぶるもまだ落ち着いた口調で話を続けた。


「カイは男の子だろ?

 男は危険があっても自分のやりたいことを通すこともあるんだ。

 お前は女の子だし、危険な目にはあわせるようなことはさすがに許可できない」


「そんなことは男の子とか女の子とか関係ないもん!

 カイは私がいないとダメだもん!」


さらに感情をぶつけるシリル。

それに釣られてラルフも高揚してきた。


「何を言ってもダメなものはダメだ!

 危険なところにはい、いいですよって送り出す親なんていないんだよ!」


「私は絶対に行く……」


「カイもいろいろ考えた末での結論だろ!

 あいつは男になろうとしているんだ!

 その気持ちを無下にしちゃいけないんだよ!

 カイが大事なら、シリルはその気持ちを抑えないと!」


ラルフはカイの旅立ちの決意を男として必要なことと捉えていた。

独り立ちするために、シリルから遠ざかることも考えているのではないかと考えていた。


「なんで、私が気持ちを抑えないといけないの?

 カイがそう言ったの?」


「いや……そう言ったわけじゃないけど……」


旅立つことを聞いていたラルフだったが、カイの考えまでは聞いていなかった。

そのこともあって、言い淀んでしまう。


「なら、カイの気持ちを代弁しないで!

 一番分かっているのは私なんだから!」


「それでもな、やっぱり女の子では危険だから……」


シリルの勢いに圧倒されかけているラルフに、エスメラルダが助け舟を出す。


「あのね、シリル。

 世界を甘く見てはいけないわ。

 この近くで魔物退治が出来たからといって、それが全てではないわ」


穏やかでも意思が強い口調でシリルを諭そうとしていた。

しかし、シリルは食い気味に


「そんなこと分かっている!」


と激しい口調で言い返した。


「いいえ、分かっていません。

 お父さんもお母さんも冒険者として過ごしてきたからわかるの。

 この広い世界には、どうにもならない魔物も多くいるの。

 そんな危険なところに大事な娘を送り出すわけにはいかないわ」


いつもの口調とは違い、厳しく言い返すエスメラルダ。

その姿にラルフはおろおろし、シリルはビクッとした。


「でも、カイだってそれは……」


うっすら目に涙が浮かびながらも必死に反論をするシリル。


「そうね、カイも同じよ。

 それでもカイのお父さん、お母さんは許可をしたの。

 断腸の思いだったとは思うわ。

 誰だって子供を危険な目にはあわせたくないもの」


「それじゃ、私も……」


懸命に懇願しようとするシリルだったが


「あなたにもいずれその時が来るかもしれないわ。

 でも、『今』じゃないのよ。

 まだまだここでやらないといけないことがあると思うわ」


エスメラルダからは、ぴしゃりと止められてしまう。


「……」


反論できなくなったシリルは黙り込んでしまう。

何か言い返そうにも言い返せない。


「いい子だから……」


そう言って、我が子を抱きしめようとしたエスメラルダだったが、シリルは手を払いのけた。


「もういい!」


一言そう言い放つと、リビングの扉を開け、外へと出ていってしまった。

慌てて追おうするラルフだったが、エスメラルダはその手を掴んで止めた。

首を振ったエスメラルダは


「今はそっとしておいた方がいいわ

 落ち着かないと何を言っても無駄だわ」


と話し、お互い落ち着ける時間を持とうとラルフに伝えた。

ラルフも心配だったが、エスメラルダの意見に従った。


一方、家を飛び出したシリルは、泣きながら行く当てもなく走っていた。

目の前が滲んで、何が見えているのかもわからなかった。

それでも足は止まらなかった。

まるで心臓が、走れと言っているみたいに。


「どうしてわかってくれないの」


「なぜついていったらいけないの」


「私だけどうしてダメなの」


父母が止める理由は頭では理解しているものの、気持ちの方が勝ってしまっていた。

出てくる感情は禅問答のように頭を駆け巡る。

答えが出てこないシリルは余計に気持ちをかき乱していた。


無我夢中になって走っていたシリルだったが、自然とカイの家に足を向けていた。

そして、静かにカイの家の前でボーっと立ち尽くしていた。

そこにクレアが買い物から帰ってきた。


「あれ?

 シリルちゃん?

 どうしたの、こんなところで……」


「おばさん……わたし……わたし……」


シリルは溢れ出る感情に涙が止まらずに、クレアの胸に飛び込んでいった。


「ここじゃ、なんだから……

 うちに入りな」


クレアは優しくシリルの頭を撫でると、家の中に連れて行った。


「カイー、シリルちゃんよ」


クレアが大きな声で呼ぶと、カイが部屋から出てきた。


「どうしたの?」


リビングにきたカイは心配そうにシリルを覗き込んだ。


「私……

 私も……

 私もカイと……行く!

 行きたいの、連れて行って」


今まで溜めていた想いが溢れだしシリルはカイに気持ちをぶつけた。


「あっ……

 聞いたんだ……」


もう話が伝わっていたことに驚くカイ。


「うん……」


涙ぐみながらうなづくシリルに、カイが話を続けた。


「でも、危険な旅だよ。

 シリルを危険な目には……」


カイもシリルには危険に晒せないと考えていた。


「うん……

 わかっている……

 お父さんにもお母さんにもそう言われた。

 それでも、それでも行きたいの」


それでも引き下がらないシリルの決心は相当なものだった。


「困ったなぁ……」


想定外のことにカイは困惑していた。

どうしたものかと考えていたところに、クレアが話に割り込んできた。

クレアは優しく微笑みながら


「シリルちゃんの覚悟は立派だね。でも、……男の子を困らせる覚悟も、いるんだよ?」


「母さん、それフォローになってないから……」


そのやり取りに、少しだけ場の空気が緩んでいた。


「あのさ、シリルちゃん。

 私はエスメラルダ……じゃない、お母さんたちの心配もわかるし、

 付いていけばとは気軽には言えないよ。

 でもカイについていかないといけない理由があれば、承諾してくれるかもね」


そうシリルに言いつつも、カイに目配せをする。


「あっ……」


思わず声が出てしまったカイ。

あることを思い出したのだった。


「なんかありそうだね、カイ」


「うん……

 あるにはあるけど……

 本当にシリルを連れて行っていいのかな?」


カイの中でもやっぱりまだ危険を伴う旅へシリルが付いてくることへの抵抗感があった。


「まぁ、決意は固いようだし、シリルちゃんの両親が納得するならいいんじゃない?」


その気持ちとは反対にクレアはあっさりと答えた。

あまり重い決断にならないようにとの配慮しているようだった。


「シリル……

 本当に付いてくるの?」


再度気持ちを確認するカイ。


「うん、絶対についていく」


シリルも決意を固めた表情で答えた。


「わかった。

 ただし、お母さんたちを説得することが条件だよ。

 僕は自分で決めた旅だから、君にも同じように“自分の言葉で”決めてほしい。

 だから明日、シリルのお母さんたちに話をしにいこう」


シリルも感情的になって外へ飛び出したことはまずかったと思っていた。

それにこのままではいけないとも思った。

しっかりと自分の気持ちをわかってもらいたいと決意を新たにするシリルだった。

第11話までお読みいただきありがとうございます!


「私はカイとどこまでも一緒に行く」

静かに、けれど鋼のような決意を固めたシリルの姿に、胸を打たれた方も多いのではないでしょうか。

親としての「愛ゆえの反対」を真正面から受け止め、涙を流しながらも自分の足でカイの元へ駆け出した彼女の覚悟。それは、3年間共に歩んできた二人だからこそ辿り着いた答えだったのかもしれません。


カイが突きつけた「自分の言葉で説得する」という条件。

明日の説得は、シリルにとって人生最大のデバッグ作業(説得)になるかもしれません。


これにてGWの3回集中更新は一旦の区切りとなります。

ここまでカイとシリルの成長を共に見守ってくださった皆様、本当にありがとうございました!


【重要なお知らせ】

皆様の熱い応援のおかげで、明日5/6(水・振替休日)も特別に「延長戦」として【9時ごろ】と【20時ごろ】の2回更新を行います!


連休の最後の日まで、二人の物語は止まりません。

明日の更新では、いよいよシリルによる両親への「再挑戦」、そして……?

ぜひ明日も、二人の門出を見届けてください!


「シリル、頑張れ!」と応援したくなった方は、ぜひ評価やブックマークをいただけますと、二人の旅の大きな追い風になります!

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