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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.001 { kai = new AnotherWorld(); }

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function.008(“再始動”);

あれから数日後――


「カイ、おはよう!」


いつもと変わらない笑顔のシリル。


「おはよう」


その笑顔にはにかむカイ。

いつも通りの日常――

そう思っていたのに、今日はなんだかいつもと違う感じがする。

以前に感じていた後ろめたさが無くなっていたのだった。


昨日父から最終的にロストワードの使用の許可が出たが、いくつか条件がついていた。

その一つは……


「おはようございます、カイ

 シリルも準備はいいかしら」


そこに現れたのは、シリルの母エスメラルダだった。

条件の1つは使う時はどちらかの母が付き添うことだった。


「おはようございます。

 よろしくお願いします」


カイは丁寧にお辞儀をした。


母たちが付き添い、危険だったら止める。

当然、カイたちも危険を感じたら止める。

それが二つ目の条件だ。


「さぁ、エドアルドが準備した場所に向かうわよ」


カイたちはエスメラルダとともに町はずれに向かう。


「たしかここですわね」


森を抜けたその先に――

草木が生い茂り、朝露の光がきらめいている。

遠くで鳥が鳴き、風に乗って土の匂いが漂ってくる。

そこには広大な農場の跡地が広がっていたのだった。


そう、最後の条件は……

ロストワードの使用はこの農場跡で行うことだった。


「わーっ」


シリルはただただ広い跡地に驚きを隠せない。

通り過ぎる風がシリルの髪を靡かせている。

その心地よさもより心が晴れやかに感じる。


カイも自分の為に用意されたこの場所を見て圧倒されていた。

ロストワードの許可をしたエドアルドは、誰かに見られては困ると思い、

実験のために急いで広大な土地を購入したのだった。


ただ、見られなければいいはずなのに、ここまで広い土地を用意するなんて……

エドアルドもなんだかんだ言って後押しをしてくれているのだと思うと、

単なる親バカなのかもしれないと、思わず苦笑した。

それと同時に胸が熱くなり、父への感謝もこみ上げてきた。


3人は農場跡の真ん中に到着すると、ロストワードの実験の準備をする。

カイはエスメラルダに作成した魔法陣を見せて、ロストワードについて簡単に説明をした。


「へぇ……そのようになっているのですね。

 今の魔法陣も案外同じ仕組みなのかもしれませんね」


エスメラルダは関心しながら、カイの話に耳を傾けていた。

長年使い慣れていた魔術も、仕組みまではわかっていなかった。

分かっていなかったというか、こういうものだと思っていたのだ。


「僕もそう思っています。

 ただ、中身を見ることが出来ないので……」


カイからすると、今の魔術は元のソースを無くした実行ファイルのようなものだった。

動く現物しかないため、中身を解析できないという感じだ。


「それで、今回は何をしますの?」


エスメラルダの問いかけにカイは即答する。


「先日の暴走が起こらないかを確認したいです」


カイは直した魔法陣の動作が問題ないかを試さずにはいられなかった。

これは前世のプログラマーとしての性分なのかもしれない。


「えっ……」


その言葉を聞いたシリルは指先が震えはじめた。

あの時のことを思い出して、怖くなっていた。


「それをシリルにやらせるの?

 さすがにそれは出来ないですわ」


エスメラルダは娘のことを思いやり、カイの実験を止めようとした。


「さすがにシリルにやってもらおうとは思っていません。

 まずは僕の魔力量で問題ないか確認します。

 その後、エスメラルダさんに試していただこうと思います」


カイは丁寧に手順を説明した。

シリルの恐怖に強張る顔をしているのは見えていたし、強引に進めるつもりもなかった。

エスメラルダさんなら、上級魔法まで使いこなせる魔力量を持っているはず。

そう考えたカイは、エスメラルダに暴走時に近い魔力量を流してもらえれば、安全性が確認出来ると踏んでいた。

そうすれば、シリルもまた使えるようになるのではないかと思っていた。


「そうね。

 それなら、問題ありませんわ。

 私なら魔力量もコントロール出来ますし、暴走する危険も少ないと思いますわ」


長年の経験もあるのか、すんなりと自分が試すことを良しとしたエスメラルダ。

魔力の調整にも自信があるのだろう。


「無理を言ってごめんなさい」


カイは無茶ぶりだと思っていたこともあり、素直に頭を下げていた。


「いえいえ。

 それが親としての務めですわ。

 この子にも、安心してまたロストワードを使ってほしいですしね」


エスメラルダは、母親として当然のこととして、意に介していなかった。


「それでは、まずは僕から始めます」


カイはそう言うと改良を加えた魔法陣を展開する。

青白く光り始めた魔法陣から低い起動音が流れてきた。


その音を聞いたシリルは身体がこわばってしまう。

息も荒くなり、魔法陣から目を逸らしてしまう。

それを見たエスメラルダは、シリルの両肩にポンと手を置いた。


「無理しなくていいのよ。

 まずは落ち着きなさい」


優しく言葉を投げかけた。

手に汗を握り、息を止めていたシリル。

けれども、母の手の温もりが、少しずつ勇気を与えてくれた。


「アクア!」


カイが呪文を唱えると、水が勢いよく飛び出していった。

目の前に広がる草木を濡らし、進んだ水の塊は、しばらくすると弾け飛んだ。

そこには小さい虹がかかり辺りを照らしていた。


恐怖が勝っていたシリルも片目を薄くあけ、その様子を見ていた。

七色に光った水しぶきに心が落ち着く感じがした。


「僕の魔力では問題ありませんでした。

 次はエスメラルダさんで試していただきましょう」


「わかったわ」


エスメラルダはカイから貰った魔法陣を展開し、魔力を込めはじめた。

カイはその傍らで、別の魔法陣を展開する。

カイの行動が不可思議に感じたエスメラルダは


「カイ、何をするつもりなの?」


と問いかけてきた。


「魔法陣の中を確認させてください」


そう言うと、カイの魔法陣が赤色に染まっていく。

その魔法陣をエスメラルダが展開した魔法陣に重ね合わせる。

魔法陣に重ねた赤色の光が、青白い光と混ざり合い、まるでコードの流れを可視化するデバッガのように魔力の流れを示した。

二つの光が重なり合う光景に、シリルの心は奪われていった。


「デバッガ」


魔術に魔術を重ねることを見たことがないエスメラルダも驚きを隠せない。

今の魔術では、魔術を重ねることは大厄災の原因と恐れられ、固く禁じられている。

そのこともあり、このままアクアを発動してもいいものかと悩んでいた。


「カイ、大丈夫なの?」


エスメラルダは不安を口にしたのだが


「はい、気にせず魔力をあげてください」


カイの力強い言葉を信じることにした。

エスメラルダが魔力量を上げると、さらに青白い光が増していった。


その時カイは――

コードの海の中で、エスメラルダの魔力が上がっていくのを見守っていた。

暴走の時に起こっていたオーバーフローが起きないか、他に問題がないかを事細かに確認する。


『今のところオーバーフローは起きていない。

 大丈夫そうかな』


問題が起きないことを確信したカイは


「そのまま発動してください」


とエスメラルダに告げた。


「わかったわ。

 アクア!」


呪文を唱え終わると同時に魔法陣からは先ほどとは比にならない水の大玉が現れた。

その水玉は高速に空へと舞い上がっていった。

エスメラルダは


『もし暴走したら…』


と一瞬頭によぎったのだが、水玉は静かに思い通りの形で天空へと伸びていった。


天へと上がった水玉はやがて晴れ渡る空に大粒の雨を降らせていた。

光が屈折して煌びやかな雨粒があちこちに落ちていく。

煌びやかな雨粒が落ちるたびに、シリルの胸の恐怖は洗い流されていく。

代わりに希望が満ちていくように感じた。


「うわっ」


エスメラルダも水の量に言葉を失っていた。

上級魔法でも見たことがない量だった。

改めて、ロストワードの凄さだけでなく、この子たちの未来を切り開く力を感じずにはいられなかった。


その光景を見つめていたシリル。

胸の奥には、再び挑みたいという小さな光が、静かに灯りはじめていた。

第8話までお読みいただきありがとうございます!


ついに「公認」となった二人の研究が再始動しました。

エドアルドが用意してくれたのは、なんと広大な農場跡地。口では厳しいことを言いつつも、息子のために最高の「テスト環境サンドボックス」を用意するお父さんの優しさに、カイと一緒に胸が熱くなってしまいました。


そして、カイが編み出した「デバッガ」の魔術。

魔力をデータの流れとして可視化し、安全を一つずつ確認していくプロセスは、まさにプログラマーの鑑ですね。

エスメラルダの協力によって、ロストワードの安全性が証明され、シリルの心にも再び希望の光が灯りました。


次回の第9話は、明日 5/5(火)9時頃に更新予定です!


GW集中更新もいよいよ最終日へ。

公認となったことで、二人の開発はさらなる高みへ向かいます。

新天地でどんな「新機能」が実装されるのか、ぜひお楽しみに!


「お父さん、太っ腹!」と思った方や、二人の再出発を応援したい方は、ぜひブックマークや評価でエールを送っていただけると嬉しいです!

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