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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.001 { kai = new AnotherWorld(); }

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function.007(“母たちの決心”);

肩を落とすカイにシリルはそっと寄り添い、カイの手をぎゅっと握った。


「大丈夫?」


カイの耳元で囁くシリル。

あまりの落胆ぶりにシリルも慰める言葉も見つからない。


エドアルドもカイの姿を見て、決断が間違っていたようにも感じていた。

それでも、カイのことを考えた末の決断だ。

カイの落ち込みも一時的なものだろうと思うようにした。


「そうだな。

 それがいいかもな」


ラルフもエドアルドの決断に賛成をした。


しかし、その決断に異を唱える者がいた。

エスメラルダとクレアだった。

それまで重苦しく沈んでいた空気を、クレアの一言が軽やかに切り裂いた。


「何それ?

 ロストワードって?

 なんか面白そう」


クレアは目を輝かせ、未知のことにワクワクを感じていた。


「長年生きていますが、そのような魔術があったとは聞いたことがありません。

 まだまだ世の中には知らないことがあるのですね」


エスメラルダも落ち着いた言葉とは対照的に興奮を抑えきれなかった。


「あなた!」


母二人の強い言葉が重なり合う。


「はいっ」


父もハモるように返事をする。

その表情は若干緊張しているようだった。


「こんな楽しそうなこと、禁止してどうするの?」


クレアはエドアルドの決断にダメ出しを始める。


「この世界になかったものが生まれるかもしれないのよ。

 それを私たちの息子がやろうとしているの。

 後押ししない親なんていないでしょ!」


「いや、いろいろ考えた末にだな……」


あまりの勢いにしどろもどろになるエドアルド。

苦渋の決断をしていたのだったが、あっさりとクレアに否定されてしまった。


エスメラルダもラルフに語りかける。

静かな口調だが、目は笑っていない。

ラルフからするとそう見えていた。


「あなた、また何も考えないでエドアルドの意見に乗ったのではないですか?

 本当にあなた自身できちんと考えて同意されましたか?」


「えっと……その……」


「どうなのですの?

 あなた」


圧力を強めるエスメラルダ。

それに対してラルフは


「す……すみません。

 何も考えてませんでした!」


とペコペコと頭を下げた。

普段からエスメラルダになかなか頭が上がらないラルフは圧に堪え切れなかった。


「別に謝ってほしいわけではないですわ。

 どうだったかお聞きしただけなのに……」


少し不満げなエスメラルダ。

でもすぐに笑顔になる。


「さてと……じゃ、これで禁止はなしね~」


「よかったな、二人とも」


クレアも笑顔で二人の肩をポンと叩く。

カイとシリルはキョトンとしてしまう。

しかし、真っ暗だった世界に小さな光が差し始めていたのを感じた。


「いや、無しにした訳じゃ……

 それに魔術協会が何を言ってくるか……」


エドアルドはたとえ許可したとしても、魔術協会が黙っている訳ないとは思っていた。


「うーん……」


その言葉を聞いて、クレアも以前冒険者の時にいろいろと難癖を言われたことがあった。

そのことを思い出し、エドアルドの言うことも一理あると脳裏によぎりはじめた。

しかし、エスメラルダは


「あんな金の亡者たちのいいなりになるのはごめんですわ。

 何かあれば、金金金と……

 魔術の未来を見てない人たちに、カイやシリルの頑張りを汚させたくないわ」


激しい怒りをにじませる。

エスメラルダも以前に何回か揉め事を起こしていたことを思い出していた。


「うん、やっぱりそうよね。

 やっぱりあいつらのことでこのことを止めるのは不愉快に感じるわ」


一度はエドアルドの言い分を聞きいれそうになったクレアだった。

しかし、エスメラルダの一言で、また元の意見に戻っていった。


大人たちの議論は熱を帯びていった。

カイとシリルは言葉を挟むこともできず、ただただ見守るしかなかった。

ただカイの心の奥で、何かが少しずつ蘇り始めていた。

母たちの声に、閉じていた心が少しずつほどけていくのを感じた。


「君たちが言うこともよくわかるが、それでも睨まれたら……」


「そこは私たちが守るところじゃなくて」


「そうですわ。

 カイたちを私たちが守らなくてどうするの?」


クレアとエスメラルダは危ないことより子供たちの可能性を信じていた。

それを大人のしがらみでダメにすることだけはしたくなかった。


「しかしだな……」


それでもエドアルドは子供たちを危険にさらすことだけはと思って反論しようとした。


「何か言った? あなた?」

「何か言いましたか? エドアルドさん」


クレアは鋭い眼差しで射抜き、エスメラルダは冷たい微笑を浮かべたまま視線を逸らさなかった。


「なぁ、何とか言ってくれよ、ラルフ……」


助けを請うエドアルドに、ラルフは壁に向かって落ち込んでいた。


「……すみませんすみませんすみません……」


その姿を見てこれはもう撤回するしかない状況まで追い込まれたと感じた。


「わかった、わかったから二人とも。

 禁止は無しにする」


その瞬間、カイの胸に重くのしかかっていた闇が、少しだけ晴れたように感じた。


「ほ……本当にいいの?

 このままロストワードを使っても」


「……」


エドアルドは無しにしたものの、やっぱり引っかかるものがあり、即答できないでいた。

いい考えが思いつかずに、眉間に皺を寄せていた。


「問題ないわ、カイ。

 さっき禁止しないって言ったんだから。

 ね、あなた」


「そうですわね。

 ぜひこの魔術を私にも教えてほしいですわ」


クレアとエスメラルダはエドアルドの沈黙に割って入り、話を進め始める。


「ありがとう、母さん、エスメラルダさん」


カイは笑顔になりながらも、涙がボロボロとこぼれていた。

夢中になって追い求めていたロストワードを、まだ使える――

そう思うと、喜びが胸いっぱいに広がった。

それと同時にホッとした気持ちも湧き上がってきた。

嬉しさと安堵が入り混じり、胸の奥から熱いものが込み上げていた。

その感情が涙に変わって溢れ出すしかなかった。


「よかったね、カイ」


シリルはこの間もずっとカイの手を握っていた。

そして、カイの夢が続けられることを一緒に喜んだ。

その目から涙がスーッと流れていた。

その涙は、カイの夢を共に背負う誓いの光を帯びていた。

第7話までお読みいただきありがとうございます!


父・エドアルドからの禁止命令。絶望の淵に立たされたカイを救ったのは、他でもない二人の母でした。

「後押ししない親なんていないでしょ!」

クレアの力強い言葉と、エスメラルダの(少し怖い?)説得により、無事に『ロストワード』の研究続行が決定しました。


現実的なリスクを案じる父と、可能性を信じる母。

どちらも二人を想ってのことですが、カイにとってはこれ以上ない救いとなりましたね。


次回の第8話は、本日20時頃に更新予定です!


公認となった二人の研究は、ここからさらに加速します。

しかし、お父さんたちが懸念していた「魔術協会」の影も気になるところ……。

5/5(火)まで続くGW集中更新、夜の部もぜひお見逃しなく!


「お母さんたちナイス!」と思った方は、ぜひブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。

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