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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.001 { kai = new AnotherWorld(); }

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function.005(“魔力暴走[バグ]”);

カイがシリルと秘密を共有したあの日から2年の月日が経っていた。

二人はその間も森のはずれや部屋で、こっそりと研究と実験を繰り返してきた。


ロストワードはカイの手の中で少しずつ形を変え、いくつもの新しい魔術を生み出していた。

一方のシリルも、ロストワードに触れることで膨大な魔力を制御する感覚を磨き、現代の魔術さえも失敗せずに発動できるようになりつつあった。

その成長は、二人だけの小さな秘密の証でもあった。


今日もまた二人は大人たちに内緒で森へと足を運び、ロストワードの実験を始めていた。


「カイー、今日は何をする?」


「そうだね……この間作ったこの魔法陣を試すって言うのはどうかな?」


「それ、いいね!

 まずは私からね」


あれからシリルは積極的に魔術を試そうとしたがる。

ただカイは初めて作った複合属性の魔術ということもあり、心配な部分もあった。


「ごめん。

 今回は初めて試したこともあるから……

 まずは僕がやってみるよ」


今回作ったロストワードの魔術は、風属性と火属性を組み合わせた雷の魔術である。

これは現代の魔術では出来ない魔術である。

そのこともあって、カイは慎重になっていた。


「うん、わかった」


シリルもカイの慎重な姿勢を感じ取ったのか、素直に応じていた。


「じゃ、試すよ」


カイは雷の魔法陣を展開して魔力を込める。

緑色と赤色の光が絡み合いながら魔法陣を駆け巡る。


「ライトニング」


カイはこの新しい魔術をライトニングと名付けていた。

魔術の詠唱を行うと、魔方陣から稲光が走る。

瞬く間にターゲットになっていた木に当たり、大きな焦げ跡が残った。


「うん、成功だね」


「すごーい」


シリルは初めて見る魔法に感動した。

それを作り上げるカイのことも凄いと思っていた。


「とりあえず問題なさそう。

 じゃ、次はシリルがやってみる?」


「うん!」


元気よく答えたシリルは、カイから魔法陣を受け取り展開する。

そしてそこに魔力を流し始めた。

魔法陣はカイの時とは比べ物にならないくらいの光を放ち始めた。

その光には放電にも似た光がところどころ混じっていた。


「ライトニング!」


シリルが詠唱した瞬間、稲光が夜空を引き裂き、耳をつんざく衝撃音と共に森を一瞬昼間のように照らし出した。

放たれた雷撃は轟音と共に離れたところにある木をごっそりとなぎ倒した。

近くに居た鳥は一斉に飛び立ち、小動物たちも散り散りに逃げていった。

そして、雷撃音は森を超えカイたちが住む街にも広がっていった。

それは街の人々が一瞬空を見上げるほどだった。


「うぁ!」


魔術を放った本人も予想だにしていない轟音にビックリしていた。

カイもあまりの衝撃に驚きを隠せなかった。

しかし、すぐ冷静になり分析をはじめる。


「魔力の出力が大きかったのかも……

 風と火のバランスも良くなかったのかも……」


ブツブツ言い始めたカイに、シリルは心配そうにして顔を覗き込む。

ふと我に返ったカイは周りをきょろきょろと見渡しはじめた。


「そう言えば……今の音、大丈夫かな……」


心配するカイ。

シリルも


「たぶん……大丈夫だよ。

 ほら、今はそんなに天気も良くないから……

 雷が落ちたと思ってくれるはず」


平静を装おうとしていたが、内心はびくびくしていた。

それでも、気を取り直して、初めての複合属性魔術がうまく発動できたと二人は喜んだ。


カイとシリルはその後もいくつかの新しい魔術を試してみた。

うまく発動できた魔術もあったり、思った通りに動かなかった魔術もあったり……

それでも二人は楽しみながらロストワードの実験を繰り返していた。


そして宵の明星が際立ち始めたころ――


「あっ、もうこんな時間。

 カイ、そろそろ帰らないと。

 お母さんたちに怒られちゃう」


思ったより時間が経っていたことに気づいたシリルは焦り始めた。


「ごめん。少し夢中になりすぎた」


遅くなって叱られるのはカイも同じだ。

無断で森に行っていたなんて知られると、外出禁止にされてしまう。


二人とも慌てて帰ろうとしたその時――


「あれ?

 なんか焦げ臭くない?」


焼け焦げた木の臭いが二人を包み込む。


「たしかに……」


「最初に使ったライトニングで燃えちゃったかな?」


アタフタするシリルに、カイは


「あれはだいぶ前に使った魔術だし、

 その後アクアでちゃんと火消しはしたはずだから……」


ときちんと後始末したことを伝えた。

その辺りは念には念を入れてやっているはずだとカイは自負していた。


「じゃ、なんでこんな臭いが……」


シリルは自分のせいじゃないかとオロオロしている。

カイは周りを見回して、臭いがする方向を確認する。

すると、さっきカイたちがいた場所の反対からうっすらと煙が流れてきていた。


「こっちだ」


カイはその方向を指さし、走り始めた。

シリルも慌ててカイの後を追いかけた。


生い茂る草木をかき分け、煙が立ち込める方向へ向かうカイたち。

その煙がさらに濃くなっていく。


「これ以上はまずいよ。

 街のみんなに知らせよ」


立ち込める煙に危険を感じたシリルは戻ろうと言い始めた。


「早く消火したほうがいいはずだよ。

 危なくなったら戻ればいいって」


カイは街に大人を呼びにいって、ここに来ていたことがバレてしまうのを恐れていた。

それに魔術を使えば多少の火なら消せると思っていた。

強引に先に進むカイにシリルはつき従うしかなかった。


さらに奥に進むと、火の手が見え始めた。

燃え盛る炎が森を覆い始めていた。


「あっ……あっ……」


その火の勢いにシリルは圧倒されていた。

カイはその炎を見ても冷静さを保っていた。


「シリル、アクアを。

 僕もやるから」


シリルに魔術による消火の指示をしながら、自身もアクアを詠唱し始めた。


「……うん」


シリルは返事はしたものの、焦りからかなかなか詠唱が出来なかった。


カイは落ち着き払った様子で、魔法陣に魔力を込める。

その魔法陣が青い光が満ち始めたかと思うと、水が勢いよく飛び出していった。

それでも、火の勢いが止まらない。


その様子を見ていたシリルは火の手がおさまらないことに恐怖を感じていた。

迫りくる火の音――

熱気で肺が焼けるよう――

目の前に迫る炎に頭が真っ白になっていく。


「シリル、大丈夫だから。

 落ち着いて、アクア!」


シリルが怖がっていることは分かっていた。

それでもこのままではマズいと思ったカイは再度魔術を詠唱するように伝えた。


その言葉にビクッとなったシリルは慌てて魔術を使い始めた。

魔法陣を起動し、魔力を込めはじめた。

青い光がスパークしながら魔法陣を駆け巡る。

その光は今まで見たことが無いような明るさで周りを照らし始めた。


「アクア!」


シリルが詠唱すると、滝壺に落ちるが如くの勢いで水が炎に向かっていった。

その水の量に燃え盛る火も次第に勢いをなくしていった。


「これなら消し切れる」


とカイが安堵したその時――


魔法陣が次から次へと起動し、水が大量に溢れだしてきた。

現れた魔法陣はすぐに魔力に満ち溢れるとともに新たな魔法陣が生み出されていく。

無限ループに陥っているようにも見える。

カイは


「シリル、もういいよ」


と声を掛けたが、


「……」


シリルの反応がない。

ヤバいと感じたカイは、シリルの近くに行き、身体を揺するがそれでも反応しなかった。


「どうしよう……

 魔力の暴走か……

 それとも魔法陣の不具合か……

 こんな時どうすればいいんだ……」


今まで起きたことがない事態にカイは焦り始める。

一瞬、心臓が喉まで出たような感覚になった。


「落ち着け……落ち着け……

 こういう時こそ落ち着いて……」


自分自身に暗示をかけるように呟くカイ。

その時、ふと前世の記憶が頭をよぎった――


『甲斐さん、どうしてもここが想定通りに動かなくて……

 机上で確認して問題ないと思っているんですが、

 実際に動かすとダメで、どうしたらいいですか?』


ピロン――

テキストチャットに困り果てた後輩からのメッセージが送られてきた。


『デバッガでデータを確認している?

 だいたい、そういう時は想定外のデータが流れていたりするものだよ』


カタカタとキーボードを叩く音が部屋に響き渡る。

今まさにそのメッセージを送ろうとしたところで、

プッツリと頭の中の映像が切れて我に返った――


「あっ、そうか……

 デバッガか……」


カイ自身、デバッガのような魔術が存在しているかどうかはわからなかった。

でも何故かその時は『出来る』と確信めいたものがあった。

すぐに魔法陣を組み立てはじめる。

胸の鼓動が速くなるのを抑えながら必死に数式を組み立てていく。

それでも、最初から分かっていたかのようにスラスラとロストワードが出てくる。

カイの気持ちにロストワードが応えているようだった。

その魔法陣の組み上げが完了すると間を置かずに、シリルの魔法陣にかざした。


「デバッガ」


新たな息吹を与えられた魔法陣が、シリルの魔法陣と共鳴する。

光と光が交わり大きな光となり辺りを包む。

光に包まれたかと思うと、闇がカイを覆い始める。

そこにはロストワードが浮かび「コードの海」が視覚化されはじめた。

青白い光の糸が幾重にも走り、まるでプログラムの構造そのものが空間に展開しているようだった。

そう、ロストワードの世界に入り込んだかのように。

そこにシリルの魔力が流れ込んでいく様が次から次へと浮かび上がっていった。

シリルの魔力がまるでデータの流れのように見えてきた。


膨大な魔力の流れを感じ取りながら右や左、上を隈なく確認するカイ。

すると、ある箇所が赤く光り始めた。


「あっ、ここか。

 ここでオーバーフローしているのか」


本来なら終了に向かうところで、余剰魔力がまた入口に流れ込んでしまい、終了にならずに、再起動を繰り返しているようだ。

どうやらシリルの魔力がカイの想像を遥かに超えていたために、無限ループをしてしまったようだ。


「原因が分かれば、対策はできる」


カイは急いでアクアの魔法陣に書かれているロストワードを組み直す。

修正が終わり内容を反映すると、瞬く間にシリルの魔法陣が終息に向かっていった。


「ふぅ……

 なんとか直せた」


疲れ果てたカイは地面に座り込む。

そこにはゲリラ豪雨が降った後のように水が溢れていた。

シリルはまだ呆然としているが、意識はあるようだった。


「カイ……?

 うっ……頭が……」


ぼんやりカイを見ていたシリルも弱弱しい声を出したかと思うと、頭を押さえて地べたに腰を落としてしまった。

その様子を見て、少しホッとしたカイだったが、そこに足音が近づいてきたのを感じた。

座ったまま、音がする方に視線を向けるカイ。


バキ――


枝を踏む音が聞こえる。

まだ熱が冷めやらぬ森の揺らめきの中に影が二つ。


サーッ――


その顔を見た瞬間、カイの血の気が引く音が聞こえた。

そこにいたのは――カイの父エドアルドとシリルの父ラルフだった。

二人は驚きと安堵が入り混じったような表情を浮かべていた。


シリルは虚ろな瞳をわずかに見開き、声を震わせる。


「……お父……さん……?」

第5話までお読みいただきありがとうございます!


「魔力が多すぎて処理が終了せず、再び開始地点に戻ってしまう」

――これこそが、この世界における魔力暴走の正体、すなわち「オーバーフロー」でした。

前世のデバッグ経験を活かし、空間そのものを「コードの海」として視覚化して解決するカイ。

まさにプログラマーにしかできない救出劇でしたね。


しかし、一難去ってまた一難。

最も見つかってはいけない相手に、現場を押さえられてしまいました……。


次回の第6話は、明日 5/4(月)9時頃に更新予定です!


明日も、9時・12時・20時の3回更新で物語をハイスピードで展開していきます。

怒られた後の二人はどうなるのか? 二人の秘密の研究は終わってしまうのか?

続きをお楽しみに!


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