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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.001 { kai = new AnotherWorld(); }

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function.004(“シリルとロストワードの実験”);

数日後――

シリルは少し緊張した面持ちでカイの部屋の前に立っていた。


「何緊張しているんだろう、私」


あの日のカイの言動、表情が頭の中から離れない。

シリルの前では物腰が柔らかくて落ち着きがある顔をしていることが多いカイ。

しかし、あの時は何か目の奥に秘めた熱い思いを感じた。

あんな表情をするのだと、心が揺さぶられていた。


「ふぅー」


緊張を和らげるために、大きく息を吐くと部屋の扉をノックした。


――コンコン


「カイ!

 シリルだけど……」


普段と同じつもりで声を掛けていたはずが、少しうわずっていた。

それにいつもならノックをせずに扉をバタンと開けているのだが……

今日は妙に畏まってしまっているのが自分でもわかった。


「シリル?

 いいよ、入って」


聞こえてきたカイの声はいつもと変わらない。

少しホッとするシリルだが、扉を開けるとそこには普段と違う光景があった。

そこには数冊の古びた魔術書と見慣れない魔法陣がいくつも折り重なるように置いてあった。


「何これ……」


いつもと違う部屋の雰囲気に圧倒されてしまうシリル。


「とりあえず、ドアを閉めてくれるかな」


変わらぬ声のカイだったが……

そこにいるカイの表情はいつもと違っていた。

そう、あの時見た顔と同じだった。


「ねぇ……この魔法陣って何?

 見たことないのだけど……」


「あぁ、これね。

 それはおいおい話すから。

 まずは、お母さんたちに習っている魔術をやって見せてよ」


声は落ち着いているカイだったが、好奇心が抑えられない。

前のめりでシリルに近づくと、上手く発動しない魔術を見せてとせがんできた。


「う……うん、わかった」


戸惑いながらも初級の水魔法アクアの魔法陣を書くと魔力を流し始めた。

起動した魔法陣が薄い青の光を帯び始めたその時――

プツンと電気がきれたように、暗くなってしまった。


「へぇ……

 こんな感じになるんだ……

 やっぱりあの時の実験と同じ感じだ」


カイはシリルが起動した魔法陣をじっくりと見始める。

思いのほか顔が近くに来ているので、シリルは恥ずかしくなった。


「ちょっと、カイ。

 顔近づけすぎ!」


「ごめんなさい。

 ちょっと気になったからつい……」


カイも少し頬を赤らめながら、とっさに離れた。


「それでやってみせたけど……

 カイは私が失敗するのを見たかったの?」


「それもあるけど……」


シリルは自分の失敗した姿を見てみたかったと言われると感じて怒りがこみ上げてきた。


「私が上手くいかないのを見て楽しいの?」


「ごめんなさい

 そういうつもりじゃなくて……

 どういう動きになるのかを確認したいっていう意味で見たかっただけだから」


カイはシリルが怒っているのを見て、慌てて説明をはじめた。


「この現象は、このアクアの魔法の限界値以上に魔力を流した時に起こるんだ。

 言わばリミッターというのかな」


「リミッター?」


聞きなれない言葉に戸惑うシリル。

その表情を見たカイは通じていないことを理解して、かみ砕いた説明をした。


「暴走させないような安全装置があるって感じかな。

 想定以上の魔力が来た時に、起動しないように止まるようになっている感じ」


「想定以上?

 私の魔力が?」


ますます混乱するシリルに、何事もないようにカイが話を続けていく。


「とりあえず、この魔法陣を使ってみてよ。

 百聞は一見に如かずだし」


「ヒャクブンハ……??」


「何でもないよ。

 まずはいいから、これを使ってみて」


カイが取り出した魔法陣は、シリルが母から教わったものとは違っていた。

なんだかすごく複雑に入り混じっているように見えた。


「これを?

 大丈夫なの?

 実は私……以前に魔力が上手く使えなくなったことがあって……」


カイはシリルの言葉が少し気になったが、目の前の実験への興味が大きく、あまり深く考えなかった。

それでも不安そうなシリルを見て


「僕が試しているから大丈夫。

 信じてよ」


と伝えた。


意を決したシリルは


「うん、わかった。

 カイを信じる」


と言うと、カイが手渡した魔法陣に魔力を流し始めた。

すると魔法陣の白群の光が次から次へと繋がり、明るさが増していった。


「うわぁぁぁぁ……アクアぁぁぁぁ」


驚きながら詠唱するシリルの顔を見てカイはほくそ笑む。

そして魔法陣の光がすべて繋がると、そこには大量の水が部屋の空間に現れた。


「ほらね、大丈夫でしょ?」


満足げな顔をしたカイは、シリルと目線を合わせた。


「で……出来たの?

 私が使ったの?」


「うん、そうだよ。

 やっぱり僕の仮説は正しかった。

 シリルは自分が思っているより魔力を流し過ぎていたんだ。

 だから、魔術がうまく発動しなかったんだ」


自信満々に説明をし始めるカイに、シリルが飛びついた。

すると空中に浮かんでいた大量の水が二人にビシャッと降り注いできた。


「冷たい!」


同時に出た二人の声が部屋に響き渡る。


「ありがとう、カイ!

 私でも魔術が使えるんだ!

 嬉しい!」


飛びついた勢いでカイを押し倒してしまったシリル。

そこでふと我に返る。

慌てて手を放して起き上がった。


「ごめん。

 つい嬉しくて……」


「シリルが喜んでくれて、僕も嬉しいよ」


カイは照れくさそうにそう答えた。


「でも、この魔法陣って、見たことないものだけど……」


改めて魔法陣を確認したシリルが疑問をぶつけてきた。


「……そうだね。

 そこが問題というかなんというか……」


どう話そうか困ったカイは言い淀んでしまう。


「言いにくいことなら言わなくてもいいけど……」


「言いにくいというか……

 これ、家族にも内緒のことだから……」


「内緒?」


「実はね……」


カイは、古書で見つけたロストワードのこと、家族に見つからないように研究をしていたことなど、これまでのことをシリルに伝えた。

もちろん、異世界から転生してきたことは伏せているのだが……


「だから、ごめんなさい。

 せっかく使えるこの魔法陣は外では使えないんだ」


残念で仕方がないといった顔をするカイ。

でもシリルは笑顔で


「仕方ないわね。

 二人の秘密ってことで」


と意に介していなかった。

魔術を使えた喜びの方が大きく上回っていたのだった。


「あっ、でも……

 ここに来てこの魔術使ってもいい?」


「うん。

 僕も他の人にも試してもらいたいし」


「じゃ、決まりね」


「うん、決まりで」


二人は顔を合わせて、笑いあっていた。


シリルは笑顔になりながらも、まだ胸の奥に小さな不安を抱えていた。

それでも初めて


『自分も魔術師になれるんだ』


と実感していたのだった。


一方、カイも自己完結の研究だったロストワードに多少の不安をいだいていたのだが……


『今までやってきたことは間違いじゃなかったんだ』


と自信を持つことが出来た。

その喜びも噛みしめていた。


今日ここから、カイとシリルのロストワード探求が幕を開けた。

だが、その道程が栄光と同じだけの苦難を伴うことを――二人はまだ知らない。

第4話までお読みいただきありがとうございます!


「魔術が使えない」というシリルの悩みの正体は、実は彼女が「高性能で大容量すぎるハードウェア」だったからという結果でした。

現代の魔術仕様リミッターでは彼女の魔力を支えきれなかったのです。


カイが組んだ独自の「魔法陣ソースコード」によって、ついに初成功を収めた二人。

ここから二人の、秘密の共同研究が始まります。

しかし、物語の最後に少し不穏な予感も……? 


次回の第5話は、本日20時頃に更新予定です!


GW集中更新、夜の部もぜひお楽しみください。

面白い、続きが気になる!と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけますと、執筆の大きなエネルギーになります!

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