function.003(“シリルの悩み”);
あの本の出会いから3年が過ぎ、カイは8歳になっていた。
古書を読まない日はなかった。
カイの世界は、すっかり魔術言語に支配されていた。
そして今ではあの魔術言語の古書は5冊まで増えていた。
その始まりは、あの時のおねだりからだった――
「父さん……、あの……この本、僕にもらえないかな」
「今日買い付けたばっかりだしな……」
「どうしても欲しいんだ」
「うーん」
頭を書きながら悩むエドアルドに、上目づかいで可愛くねだる。
「ねぇ、ダメ?」
「……わかったよ。
その分、きちんと家のことを手伝えよ」
「はい!」
――あの時から古書に穴が開くほど読み続けていた。
今日も時間を見つけては、自分の部屋で古書を読み、魔術言語の開発や実験を行っていた。
「今日もロストワードの開発するぞ!」
カイは、古書の中の魔術言語を
現代のものと区別するために『ロストワード』と呼んでいた。
――自分で名付けておいて、少し中二っぽいとは思う。
それでも、この名前が妙にしっくりきていた。
本を読んで実験を繰り返すことで、一通りの動きを理解していた。
ただ人前で試す勇気もないので、部屋で出来る小規模な魔術ばかりを開発していた。
「そろそろ、もっと大きな魔術、試したいな……」
大きな実験をしたいという思いは強くなるカイだが、まだ小さいので一人で街の外に行けない。
「もう少し大きくなるまでは、動作検証は無しで開発だけ進めよう」
カイは古書を開いて、頭の中で考えている次の魔術を考え始めた。
その時
――バタン
部屋の扉が開く音がする。
慌てたカイは古書を閉じて、後ろに隠した。
「ねぇ、カイ。
近所の公園に遊びに行こうよ」
そこに現れたのはシリルだった。
シリルの両親がカイの母の冒険者仲間だったこともあり、同じ年に生まれた二人は家族同様に育ってきた。
「あっ……シリル……。
う……うん……」
しどろもどろになりながら答えるカイ。
「何を隠したの?
見られちゃいけないものでも見ていたの?」
「……見られちゃいけない……ものなんて……見てないよ……」
カイは顔を真っ赤にしている。
シリルは不思議そうに
「なんで顔を赤くしているの?」
「な……なんでも……ないよ。
そ……そうだ、公園に行く……んだよね、行こう……」
カイは話題をそらそうと、いつも行く公園の話をした。
「そうだった。
今日も私の友達が来ているの!
カイも一緒に遊ぼうよ」
シリルはカイの手を引き、公園へと連れて行く。
「おーい! シリル、こっちこっち」
「あっ、ライラ~」
カイの手を引っ張ったまま、走り出すシリル。
ライラの前につくと、膝に手を着く。
「その子は……確かカイくんだったよね?
こんにちは!」
「……」
ライラに挨拶されても、カイは砂をつま先で蹴って俯いたままだった。
その後もライラや他の子たちとはほとんど話に加わらなかった。
ライラたちも、最初は気にしていたものの、次第にカイを気にせずにシリルや他のみんなとの話に没頭していた。
「そういえばさぁ、シリル」
ライラは好奇心旺盛な顔でシリルを見ている。
「何?
ライラ」
「お母さんから魔術を習い始めたんだって?」
魔術という言葉に反応するカイ。
『シリルも魔術に興味があるのかな』
同じことに興味を持っているなら、嬉しいなと思いながら耳を傾ける。
「うん……
お母さんが、早めに覚えておいた方がいいって」
心なしかシリルの表情が曇っている。
それに気づかないないライラは、シリルのことを羨望の眼差しを向けている。
「そうなんだー。
うらやましいなぁ。
私のところなんか、そんなことより家の手伝いしろってうるさくて」
「そっ……そうなんだ」
シリルは答えに困りながらも、ありきたりの返答をする。
しばらくその話でライラたちは盛り上がっていたが、シリルは浮かない顔をしていた。
いつも明るいシリルにしては珍しい表情だとカイは感じていた。
その後もしばらくみんなと遊んだ後、夕方になったので、解散となった。
シリルとカイは一緒に家へ帰りはじめる。
「あー、楽しかった」
シリルはあの時の表情とは打って変わって笑顔だった。
あの顔つきはなんだったのかと思うぐらい。
どうしてもあの時の表情が気になったカイはシリルに話しかける。
「あの……さ……
シリルは魔術があまり好きじゃない?」
急に聞かれたシリルはビックリした顔をする。
「なんで?」
「いや……あの……ライラとその話をした時に、あまり嬉しくなさそうだったから」
感じたことを素直に伝えるカイ。
「そっか。
見られていたみたいだね……」
シリルはバツが悪そうに苦笑いをする。
「何かあった?
聞かせてくれないかな」
カイは自身が大好きな魔術を、シリルが嫌いになってほしくなかった。
だから、何か力になろうと考えた。
「……」
しばらく無言になったシリルだったが、意を決したように話始めた。
「実は……魔術が上手く発動しなくてね。
お母さんは焦らずって言うけど……
誰でも簡単にできるのに、私だけできないのが不安で。
周りに置いていかれる気がして、怖いの。
そのことを言うときっと周りから笑われるんじゃないかって……」
不安そうな顔のシリルはそのまま話を続けた。
「早く魔術を使えるようになりたいけど、なかなか上手くいかなくてね。
お母さんみたいに立派な魔術師になりたいという思いだけが強くなっていくの」
さらに伏し目がちになりつつも、言葉を続けていく。
「いろいろと調べているんだけど、お母さんにも原因が分からないって」
「そうなんだ……
シリルも苦労しているんだね……」
「うん……
周りにはなかなか話せなくてね……」
「あっ!
そう言えば、魔術が発動しないって……
それってどういう感じになるの?」
カイは魔術が発動しない現象に興味をいだいた。
だいたい今の魔術はカイが研究しているロストワードと違い、簡易で安全高く作られている。
魔力を通せば発動する。
発動しないのであれば、魔力が極端に少ない場合だ。
でも、シリルはエルフの血を引いているし、魔力が少ないってことは考えづらい。
いったい何が起きているのだろうとカイは高揚感を感じていた。
「うーん、どういったらいいんだろうな……
魔力を魔法陣に込めはじめると、光っていたのが急にフッと消えちゃうような」
カイはその現象を聞いて、ハッと感じた。
今までのロストワードの開発でも同じようなことがあったからだ。
もしかしたら、シリルのことを助けられるかもしれない。
ロストワードと現代の魔術言語に通じるものがあるかもしれないと感じたカイは
「ねぇ、シリル。
今度さ、僕の部屋でちょっとした遊びをしてみない?」
「何、急に? 遊び?
それと私が魔術を使えないのと何か関係あるの?」
「……遊びって言ったけど、本当はちょっとした実験なんだ。
もしかしたら、シリルの役に立つかもしれない。
詳しいことはその時にまた教えるよ」
もったいぶって先を話さないカイにシリルは
「えー!
気になる!」
膨れた顔をしてカイの背中を叩くシリルだが、目は笑っていた。
「痛いって……
また今度話すから、待って……」
じゃれつくシリルにカイは困っていたが、それ以上に芽生えた疑問にワクワクが止まらなかった。
『なぜ、シリルには魔術が発動しないのか』
この疑問を追求したいと思う欲が心の中でどんどん大きく膨らんでいく。
それはただの好奇心ではなかった。
解けない謎を前にした時の、高揚感。
カイの胸に、確かな炎が灯った。
第3話までお読みいただきありがとうございます!
ついにシリルが登場しました。
彼女の魔術が発動しない理由に、カイがどうプログラミング的アプローチで挑むのか……
次話以降をお楽しみに!
次回の第4話は、本日12:00に更新予定です。
5/5(火)まで、毎日9時・12時・21時の3回更新で一気に駆け抜けますので、ぜひお付き合いください!
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