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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.001 { kai = new AnotherWorld(); }

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function.002(“古書がくれた希望”);

カイは分厚い本をパラっと開いた。

商会の奥にある倉庫兼書庫からは印刷の独特の匂いが立ち込める。

そこにある椅子の埃を払い、チョコンと座った。

前世から探求心は変わらず、この世界に来てからも本を読み漁ってきた。


ここは甲斐が生きていた世界とは別の世界、いわゆる異世界だった。

街には獣人やエルフが闊歩し、草原や山には魔物が徘徊する。

そんな世界だった。


「カイ、また書庫に入っているのか?

 お前は本が好きだな」


振り返ると久々に帰ってきた父のエドアルド・ビンセントが立っていた。


「うん、お父さん。

 いろいろなことが載っていて楽しんだ」


「ねぇ、父さん。

 この荷物はどこに置けばいい?」


「あぁ、こっちの棚に置いてくれ」


書庫の入口から顔を出したのは兄のリカルド。

カイの10歳上で、父と共に各地を巡る買付の旅から戻ったばかりだった。


「お兄さんもおかえり」


「ただいま、カイ。

 まだ小さいのに勉強、好きだな」


「へへへ……」


カイは褒められて嬉しくなって照れた。


「あーっ、お父さんもお兄ちゃんも帰ってるー」


足音がバタバタとすると、息を切らした4歳上の姉シャルロットが入ってきた。


「カイ、またここにいるー

 私と遊ぶ約束でしょ!」


カイの腕を掴んで引っ張って連れて行こうとする。


「姉さん、痛いよ」


カイは抗ってはいるものの、力では勝てない。

成す術もなく引きずられていく。

入口まできたシャルロットの手を押さえ、カイから引き離したのは母クレアだった。


「シャルロット!

 カイが嫌がっているでしょ!

 力ずくで連れて行くのは止めなさい!」


「イタタタ……

 お母さんも痛いよ。

 手加減してよね」


泣きそうな顔をしたシャルロットを見て慌てて手を放す。


「あら、ごめんなさい。

 ついカッとなって……」


「母さんの昔の血が騒いだかな」


エドアルドは笑いながらクレアを覗き込んだ。


「もう、あなたったら」


書庫からみんなの笑い声が響き渡る。

いつものビンセント家の風景だ。

明るく優しさに包まれた一家をカイは気に入っていた。


「ごめん、姉さん。

 父さんたちが買ってきた本も見たいんだ。

 遊ぶのはその後でいいかな」


「仕方ないわね。

 読むんじゃなくて、見るだけよ。

 その後は私と遊ぶんだから。

 早くしなさいね」


「ありがとう、姉さん」


ただ、いろいろなことを本で学んでいたカイだったが、前世でのめり込んだプログラミングほどのものは見つけられずにいた。

前世にはない目新しいことは多いが、ただそれだけだった。


魔術も言語と聞いたので、最初は胸が躍った。

複雑な構文や無限の組み合わせが広がる光景を思い描いた。

母が目の前で魔術を放った瞬間、その光と轟音に鳥肌が立った。

――その時までは。

よくよく中身を聞くと、単純な言葉と魔力の使い方だけだった。

例えるなら、最新のコンピュータだと思って開けた箱の中身が、紙と鉛筆だったようなものだ。

幅も深みもなく、胸の熱は一瞬で冷めた。


それでもまだ見ぬ何かがあるのではないかと思っているカイは、父が買い付けてきた古い書物もすべてに目を通していたのだった。


「父さん、今日は何を買い付けてきたの?」


「今日はとある貴族が集めていた遺跡からの出土品だ。

 珍しいものも多いし、これは高値で売れるぞ」


「遺跡?

 本もあるの?」


遺跡から出たものにも興味はあるが、カイはまず本が読みたかった。


「確かあったと思うが……

 おい、リカルド。

 遺跡の古書はどこだ?」


「そこの棚に置いたよ」


リカルドが指さした棚には表面がボロボロになった数冊の本が重なって置いてあった。


「ねぇ、父さん。

 これ読んでいい?」


「いいけど、読めるのか?

 父さんも少し見たけど、何のことかさっぱり分からなかったぞ」


「それでもいいので、読ませて」


カイはエドアルドから古書を読む許可を得ると、急いで古書のある棚に向かった。

そんなカイを見て、エドアルドとリカルドは顔を見合わせ苦笑いを浮かべていた。


カイは棚から古書を丁寧に取り出し、壊れないようにゆっくりとめくり始めた。

表紙を開いた瞬間、黄ばんだ紙からほこりが舞い上がり、

その一粒一粒が光に溶けるように消えた――

まるで、封印が解けたかのように。


開いたページにあるタイトルはかすれていてところどころしっかりと読めない。


 …術…語開……向…ガイドブック


何かのガイドブックなのだろうか。

なんとなくカイはこのタイトルに親近感を覚えた。


『よく前世で技術書を読んでいたけど、似たような雰囲気があるな』


ワクワクしながら次のページをめくる。


 第1章:はじめに

  本書は、魔術言語を実際の魔術開発・応用に用いるための技術ガイドである。


この書き出しもなじみがあるものだった。


『でも……

 魔術開発?

 応用?

 母さんから聞いたことと違うな』


あの時たしか姉さんを教えている母さんが……


――「魔術は魔力がある程度あれば誰にでも扱えるのよ。

   その体系もしっかりしていて、この数百年変わっていないわ。

   術によって使用する魔力量は違うから、うまく使えないこともありますわね。

   だから魔力をうまく使えるようにすることも大事よ」


――そんなことを言っていたと思う。

カイは続けて本を読み進める。


  構文による柔軟な制御・応答が可能なこの言語は、開発者の思考を

  そのまま魔術として形にできる。

  この言語の習得は簡単ではないが、習得すれば、独自魔術の生成・

  魔力制御の最適化・多重詠唱処理などが可能となる。


『これも、母さんから聞いたこととは食い違いがある。

 教えてもらった魔術言語はシンプルでアレンジも出来ないし、多重詠唱もなかったはず』


気になり始めたカイは次へとページをめくっていった。


 第2章:魔術言語の構成要素

  2.1 エレメントクラス Element

   属性(Element)は、各魔術に付与される根源的な性質である。

   この属性により、対象との相性補正・基底ダメージ値・クリティカル発生率などが

   内部的に定義される。


『この構文は……』


目の前に現れたのは前世で慣れ親しんだプログラミング言語そのものだった。

さらに夢中になって読みふけるカイ。

大半を読んだところで一息つき、パタンと本を閉じる。


「はぁ……

 ふぅ……」


カイは一気に読んだ疲れはあるものの、その疲れも心地よく感じていた。


『これ……知ってる。

 いや、知ってるなんてもんじゃない……!』


背筋が震えた。胸の奥で、封じられていた熱が一気に解き放たれる。

そしてワクワクが止まらなかった。


『他にもこの言語の本はあるのだろうか。

 古書にしかないのかな……』


どれほど時間が経ったのかも分からなかった。

カイがニヤニヤしながら本を見つめて思いをはせていると、

不意に、背後から影が差し――


「もう、カイ!

 本は少しだけって言ったじゃない!」


カイが顔を上げたそこには……

シャルロットが仁王立ちしていた。


「姉さん……」

読んでいただきありがとうございます。


父が買い付けした古書の中に見つけた本に前世の記憶がリンクしたカイ。

ふたたび向き合えるものが見つかって気分も上がっていることでしょう。

この後、見つけた古書をどうしていくのか?

魔術を作り上げることはできるのでしょうか?


【次回の更新について】

明日、朝9時頃に第3話を更新予定です。

GW中は毎日数回更新していきますので引き続きお楽しみください。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけますと、執筆の大きな励みになります。


引き続き、よろしくお願いいたします。

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