function.039(“トリスという男”);
ガタガタガタガタ――
カイたちは遺跡までの道のりを馬車に揺られていた。
「護衛の依頼を受けていただき、ありがとうございます。
私の力では遺跡には入れないですから。
本当に助かります」
トリスはスカーレットに対して改めてお礼を言う。
「そんなの別にいいんだよ。
困った時はお互いさまってね」
深々とお辞儀をしているトリスに対して、スカーレットは首を横に振りながら答えた。
「それにしても急に調査ってなんだねぇ……
何かあったんかね?」
「それがですね。
つい先日メタキリタスで氷漬けの部屋が見つかりましてね」
その言葉にカイはビクンと反応してしまう。
それでも平静を装い、そのまま聞き耳を立てていた。
「へぇ……
そいつは初耳だね。
で、それはどうだったんだい」
スカーレットはカイたちから事情を聞いていたが、知らないふりをして返事をする。
「行った時にはもうほとんど残っていなくて……
魔物が未発見の魔法を使ったのではないかと考えたのですが、
その魔物も見つからず……
結局何が起きたのかは分からずじまいでした。
研究者として恥ずかしいばかりです」
メタキリタスでの調査について事細かに説明するトリス。
「それで何でここに?
メタキリタスの件とは関係ないだろ?」
スカーレットはここに来た理由を続けて確認した。
カイは、聞きたいと思ったことをスカーレットが聞いてくれているので、助かっていた。
「はい。
そうなのですが、新たにこの遺跡で不可解な現象が起きているとの噂を聞きましてね。
上からも『もう一人と二人体制で調べてこい!』なんて言われまして……」
その上司の声マネなのか、声色を変えながら身振り手振りで話をする。
その様子を見て、シリルはクスクスと笑っている。
カイはトリスの『不可解な現象』という言葉を聞いて、一人で考え込みはじめた。
「そうなんかい?
自分も最近はこいつらと探索しているけど、そんな現象みたことないよ」
そう言いつつも、スカーレットはその話は以前から知っていた。
カイやシリルには耳に入らないようにしていたが、今、ズーラの冒険者の間でまことしやかに囁かれている噂があった。
それは、遺跡内で奇怪な現象が多発しており、何かよからぬことが起こる前兆なのではないかとの噂だった。
その噂が広まり始めたのは、ちょうどカイたちが来て少ししてからだった。
『まぁ、メタキリタスの氷漬けも、ズーラの噂も、
全部この坊ちゃんたちの仕業だろうけど』
スカーレットは、心の中でそう思いながら、トリスの話を聞いていた。
その横でカイは、頭の中をフル回転させている。
『氷の件はともかく、ここでのことはなんのことだろう……
使っているところは、他人には見られていないはず。
使う場合も慎重に使っていた。
今回はアイスランスも残さないようにしていた……
それとも本当に不可解な現象が起きていたのか……』
噂になりそうなことをしていないかを、遡りながら考えていた。
そんなカイに目もくれず話を続けている。
「噂が届くころにはたいてい話が大きくなるものです。
ですから、今回は現状の調査です。
噂だけで判断は出来ないですから、情報収集も合わせて行うつもりです」
トリスは今回の目的を話した後、目を輝かせながら話を続けた。
「この数百年の間、新しい魔法ですら発見されていません。
遺跡に多々ある魔法陣も我々には解読不能で、何も出来ません。
もし、今回の現象が、未知で未解明の魔物の魔法だったら……
遺跡の魔法陣がなんらかで起動したのだったら……
そう思うと、楽しみでしょうがないのです。
未知のものを発見する喜び、どう動いているかを知る嬉しさ……
何ものにも代えがたいものです」
捲し立てるように話すトリスは、恍惚とした表情を浮かべていた。
考え込んでいたカイもその熱弁に
『新しいものを触る、弄るってワクワクする……
この人、なんとなく、僕と似た感じがする』
シンパシーを感じずにはいられなかった。
その後もトリスの大熱演大会は遺跡に着くまで続いていた。
トリスの熱い思いに、カイの心配もどこかに飛んでしまうほどだった。
「さぁ、遺跡に着きましたよ。
これから未知との遭遇……ワクワクしますね!」
馬車の中から元気よく飛び出したトリスは、大きく背伸びをし、遺跡へと向かっていく。
「おい、あんちゃん。
ここからは自分の言うことを聞いてもらわないと困るよ。
護衛対象が前に出てどうするんだ」
スカーレットは先に進むトリスを捕まえると自らの後ろに引っ張り戻す。
「そうでしたね。
申し訳ございません。
つい新しい発見があるかと思うと……」
頭を掻きながらペコペコと謝るトリス。
「あんちゃんは、このぼっちゃんと嬢ちゃんの間にいなよ」
スカーレットはそう言うと、カイとシリルの間にトリスを押し出した。
「よろしくお願いします、トリスさん」
シリルは丁寧にお辞儀をして挨拶をする。
「……お願いします」
カイはトリスの馬車での話で親近感を持ってはいるものの、まだ正体のつかめないトリスへの警戒感は残ったままだ。
トリスにはいつも通りに言葉少なに挨拶をすると、その横に居たシリルに近寄った。
「今回はロストワード禁止で」
小声でシリルに耳打ちをする。
「うん、わかってる」
シリルも小声でカイの耳元に囁いた。
「何か二人で内緒話ですか?」
その様子に気づいたトリスが二人のところに近づいてきた。
「なんでもないですよ!
遺跡での対応の相談です」
慌てたシリルは笑顔で取り繕った。
その横でカイもシリルに同調するように大きく頷いた。
「お二人はだいぶお若いようですが、もう冒険者をしていらっしゃるのですね。
ちなみにおいくつでしょうか?」
トリスはカイとシリルの背格好で子供に見えたらしく、年齢を聞いてきた。
「えーっと、13かな」
「同じです……」
シリルは元気よく答え、カイは小さな声で反応した。
「へぇ……
まだ学校へ入る前なのですね。
それで冒険者を……
何か理由でもあるんですか?」
子供なのに冒険者をしているカイたちを不思議に感じたトリスはさらに質問を重ねた。
「えーっと……うーんと……」
その質問にシリルはなんて答えようか困ってしまう。
ちらちらとカイの方に目線を送る。
カイも本来の目的は言えなかったので、いろいろと考えを巡らせた。
「……そうですね。
腕試しというか、なんというか……
たまたま親の知り合いがこのお二人でしたので……
その……武者修行といいますか……
……力をつけたくて……」
小声でボソボソとそう話をするカイ。
うまく考えがまとまらない中、思いついたことを話し始めた。
「そうなのですね。
それでスカーレットさんのような実力者の元で冒険をしているのですね。
若いのに凄いですね、立派です」
トリスは二人の目的に驚きつつも、褒めちぎっていた。
「ありがとうございます」
「……いや……」
素直に受け取るとシリルと謙遜するカイ。
受け取り方は正反対でも、喜んでいるのには変わらない。
「優秀な方に師事するのは実力を伸ばすのに最適ですよ。
私も師に付いて数年が経ちますが、日に日に成長する実感があります。
出来る人の背中を追うというのは、それだけ価値のあるものです。
親御さんもさぞ断腸の思いでお二人の背中を押したことでしょう」
適当に取り繕った目的でここまで感動されてしまうと、なんだかものすごく申し訳ない気持ちになるカイだった。
「三人でおしゃべりもいいけど、もう遺跡に入ったんだから、集中しなよ。
特にライコス、お前だよ」
真ん中で喋る三人に注意をするスカーレットだったが、何故か最後はライコスへの指摘が入った。
「なんで俺になるんだよ!」
後ろでしっかりと警戒していたライコスは急に怒られたことに納得がいかない。
「そりゃ、お前だからだよ。
そんなことはどうでもいいから、しっかり後ろ頼んだよ」
スカーレットは理由にならない理由を話して、ライコスに檄を飛ばす。
ライコスはそれでも納得が行かないようで、ふくれっ面をしながら後ろをついていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
査察官トリスとの同行が始まりましたが……「未知の解明にワクワクするオタク気質」なトリスに、まさかのシンパシーを感じてしまうカイ(笑)。
必死にやらかしのログ(痕跡)を遡って分析する裏で、スカーレットさんには「全部この坊ちゃんたちの仕業だろうけど」と見抜かれていたり、適当な苦しい言い訳に大感動されて申し訳なくなったりと、緊迫感の中にも笑いが詰まった回となりました!
警戒しながらもどこか波長が合ってしまう二人と、内緒話をするカイ&シリルの可愛さに「クスッと来た!」「続きの探索が待ちきれない!」と思っていただけましたら、ぜひ【評価】や【ブックマーク登録】で応援していただけると執筆の大きな力になります!
次回はいよいよズーラ遺跡の内部調査へ。どうぞお楽しみに!




