function.038(“二人の査察官”);
三人がズーラに来て、ひと月ほどたった。
休みを交えながら、遺跡の探索を続けている。
しかし、一番の目的のロストワードの古書は見つけられていない。
今日もカイとシリル、ライコスは朝から遺跡探索に行くために、冒険者ギルドへと向かっていた。
「今日はスカーレットさん、来る日だったよね」
シリルはスカーレットさんから聞く母たちの旅の話が楽しみで仕方がない。
「もうあのばばぁはいなくてもいいんじゃね?
だいたい俺もこの遺跡の事、分かってきたしな」
いちいち口うるさく言われることもあり、ライコスはスカーレットのことを煙たがっている。
「ライコスさんはもう少しスカーレットさんの言うことを聞いたら?」
シリルはスカーレットの話を毎回素直に受け止めて、改善してきている。
そのこともあってか、だんだんとパーティーでの戦い方も上達してきたと感じていた。
「俺は臨機応変にやった方が実力を発揮できるんだよ。
あんなセオリー通りに動いていたら、俺の良さなんか出ないのさ」
スカーレットの指摘はわかっていると言わんばかりのライコス。
「そういうものなのかなぁ。
私は凄く勉強になっているけど……」
シリルはライコスの言っていることがしっくりとしない様子だ。
「それは戦闘経験が少ないからさ。
そういう奴らには、あいつの指南は聞いておいた方がいい」
ライコスは煙たがっている割には、なんだかんだでスカーレットのことを認めていた。
カイやシリルにはスカーレットの言うことを聞くようにと話していた。
そんな話をしながら冒険者ギルドまで歩いていった。
冒険者ギルドにつくと、何やらギルド全体がバタバタとしている様子だった。
いつも入口の前で待っていたスカーレットも奥の受付で何やら話をしていた。
「よぅ、スカーレット。
何してんだ?」
ライコスは受付で話し込んでいるスカーレットに声をかける。
「おはようございます!
スカーレットさん」
元気いっぱいのシリルが大きな声で挨拶をする。
「……おはよう……ございます」
カイも自分なりの精一杯の声で挨拶をする。
「坊ちゃんも嬢ちゃんもおはよう!」
スカーレットは二人に挨拶をするとまた受付嬢と話を始めていた。
「俺は無視かい!
それにしても、なんだか騒がしいな」
スカーレットに突っ込みながら、周りを見渡すライコス。
「なんだお前もいたのかい。
あぁ、いろいろとあってな。
今、緊急の依頼の話を聞いているところだ。
自分を指名だそうだ」
スカーレットへの指名の緊急依頼があるらしく、その話をしていたようだ。
「緊急の依頼?」
慌ただしいギルドはそのせいかと納得したライコスは、スカーレットに依頼内容を聞き始めた。
「あぁ、上の方からの話でな。
急に護衛の依頼を引き受けなきゃいけなくなった。
なんでも、不可解な現象の調査とかで……」
不可解な現象と聞いたカイは嫌な予感がした。
「急な依頼で申し訳ございません。
ズーラで随一の方とお聞きしたもので、是非にと……」
奥から聞き覚えのある声がしたと思うと、姿を現したのはメタキリタスの調査に来ていた査察官のトリスだった。
カイはその姿を見て、心の中で激しく動揺をした。
その動揺をなるべく顔に出さないようにとポーカーフェイスを装う。
「この人の護衛の依頼だよ。
お前たちはどうする?
自分への指名依頼だから、別行動で探索に行ってもらってもかまわないぞ」
スカーレットはカイたちについてくるかどうかを確認する。
ライコスもシリルもトリスの姿を見て唖然としていて、どう答えようか悩んでいた。
「えっと……
あなた方は確か、メタキリタスでぶつかってしまった……
あの時は慌ただしくゆっくりお話も出来ませんでしたし、これも何かの縁です。
是非私の護衛をお願いできれば…」
トリスは三人の顔を覚えていたようで、カイに話しかけてきた。
カイはトリスの顔を見上げると、平静を装いながら脳裏を巡らせる。
『ここで断れば変な勘繰りを入れられてしまうかも。
素直に依頼を受けたほうがいいかもしれない。
それに……
メタキリタスでどこまで調査していたのかも聞けるチャンスかも』
カイはふぅーっと息を吐くと、
「……わかりました。
……お供させていただきます」
表情を変えずに答えてはいるものの、心臓はバクバクと激しく鳴っていた。
シリルとライコスはカイが引き受けたことにさらにビックリした様子だ。
シリルはカイに近づくと小声で耳打ちする。
『ねぇ、カイ。
引き受けて大丈夫なの?』
メタキリタスを離れた原因の相手だったのに一緒に行こうとするカイの真意を測りかねていた。
『わからないけど……
どこまで調べているか、気になるし、そういうことも聞けるかなと……』
カイは心配するシリルにきちんと話をした方がいいと思い、どうして引き受けたかを伝えた。
『カイがいいのなら、私は別にかまわないけど……』
シリルはカイが考えあってのことと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。
ライコスは二人の様子を見てニヤニヤとしながらも、カイに向けて親指を立てエールを送っていた。
逃げてばかりじゃダメだと言わんばかりだった。
「じゃあ、あんたと自分たち4人でということでいいかい?」
トリスに再確認をするスカーレット。
「はい。
よろしくお願いいたします」
そう言うとトリスは深々と礼をし、スカーレットに握手を求めていた。
その時
「おい!
オレの護衛のほうはどうなってるんだ!」
バンッ――
机を叩く大きな音と共に怒声が奥から聞こえてきた。
対応している受付嬢がビックリして慌てて、さらに奥の部屋へと駆け込んでいく。
その声を聞いたトリスが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「申し訳ございません。
当協会の者が暴言を……」
どうやらトリスとは別にもう一人同じような査察官が来ているようだ。
「あいつも一緒じゃなくていいのか?」
親指で指差すスカーレットにトリスは
「まぁ……
あの方は別口なので……」
そう言うと多くを語らなかった。
「急いでいるって言ってるんだろ!
早くしろ、早く!
魔術管理局局長からの直々の指令なんだよ。
お前らがもたもたしているせいで、俺の評価が下がったらどう責任取ってくれるんだ!」
イライラしている声が聞こえてきた後に
ガンッ――
何かを蹴るような音も聞こえてきた。
横暴に振舞う査察官を横目にトリスは
「さぁ、こちらは護衛も決まりましたし、さっさと遺跡へ向かいましょう」
カイとライコスの背中を押すと、入口へと向かっていった。
『別口とはなんだろう……
それにしても二人も調査にくるなんて、何がどう伝わっているのだろう……』
二人の査察官を交互に見ながら、思案を巡らせるカイだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
メタキリタスから逃げる原因となった査察官・トリスとの予期せぬ再会……!
心臓バクバクになりながらも「逃げずに敵(?)の調査状況を探る」という選択をしたカイ、肝が据わっていて格好いい決断でしたね!
そして奥で暴れていたもう1人の横暴な査察官の存在も気になるところ……。
査察官が2人も派遣されるほど、カイたちの「痕跡」は大事になっているということでしょうか(笑)。
カイの決断にドキドキした方や、今後の調査の行方が気になった方は、ぜひ評価やブックマーク登録で応援していただけると大変励みになります!
次回の更新もどうぞお楽しみに!




