function.035(“雨のち晴れ”);
古書が散らばった遺跡内の部屋へ入ったカイは座り込んで本を掴んだ。
『これだけあれば、見つかるかも』
ワクワクしながら本をペラペラとめくる。
目当ての本じゃないと分かると、丁寧に床に置いて、次の本を取る。
またページを捲り、首を傾げてため息をつくと、その本をさっき読んだ本の上に積み上げていく。
「私も手伝うね」
シリルはカイから少し離れたところに行くと、本を拾って確認する。
「俺、本見るとチカチカするから嫌なんだよな」
文句をいいながらもライコスも床に座り、パラパラと本を捲っていく。
「たぶん、これ、俺が読めるから違うな」
パタンと本を閉じるとポイと放り投げる。
「コラ!
もっと丁寧に扱うんだよ。
遺跡はみんなの共有財産だ!」
その姿を見たスカーレットはライコスを一喝する。
「こんなの誰も拾っていかないじゃん……」
スカーレットから顔を逸らして小さな声でつぶやくライコス。
「は?
なんか言ったか?」
近くの本を丁寧に拾いページを捲っていたスカーレットが問いただす。
「なんでもねぇよ」
ライコスは持っている本をポンと近くに置くと、次の本を取りに行った。
しばらくは黙々と本を確認する4人だったが、カイ以外はそこまで集中力が続かない。
「ねぇ、スカーレットさん。
昔、お母さんたちと一緒に冒険していたんだよね?」
シリルは手を止めずに、母たちの昔の様子を聞き始めた。
「あぁ、そうさ。
いろんなところを回ったよ」
スカーレットは懐かしむような顔をする。
「お母さんってどうだったの?
なかなか冒険していたころの話、してくれなくて……」
シリルは小さいころにいろいろと冒険の話を聞きたくて母に訊ねたことを思い出す。
「そうかもしれないね。
エスメはあの頃、必死だったからね……
あいつは……」
言葉を続けようとしたスカーレットに
「そのことはもう終わったことだから、それ以上は……」
ライコスが口止めに入った。
「そうだった、そうだった。
まぁ、とにかくエスメは当時いろいろと嫌なことが重なっていてね。
あまり思い出したくないんだよ」
ハッとしたスカーレットは言葉を濁す。
「そうだったんだ……
お母さんに無理言っちゃってたかな……」
当時そんなことだとは知らずにわがままを言っていたことを悔やむシリル。
「そうさなぁ、でも悪いことばかりではなかったよ。
あっ、そうそう、思い出した。
エスメが入ってすぐのころだったかな。
いいところ見せようと思ったのかラルフが張り切って……」
スカーレットがエスメラルダがパーティーに加わった頃の話をし始めた。
カイは変わらず本を探しているが、気になったのか聞き耳を立てていた。
「お父さんが?」
父の名前も出てきてビックリしたシリル。
「そうそう。
ある遺跡のボスに挑んだ時、陣形組む前に一人で突っ込んでいってさ」
ニヤニヤと笑いながら話すスカーレットに
「あぁ、そんなことあったな」
ライコスが同調する。
「なんとか倒せたから良かったものの……
あとでエスメにこっぴどく叱られてた」
その時の様子を思い出したのか豪快に笑うスカーレット。
ライコスも釣られて笑い始める。
「お父さん……」
家での様子に重なったのか、シリルは苦笑いする。
「お前の立場もなかったよな」
ライコスは当時から諫める役どころのスカーレットが成す術がなかったことを話すと
「そうだったな。
しかも入ったばかりのエスメに、正論で怒られていたしな」
スカーレットは大きく頷いていた。
その後、その話を微妙な表情で聞いているシリルに気づいたのか
「フォローする訳じゃないけど、ラルフはいいリーダーだよ。
ちょっと暴走するところはあったけど、それは前向きさの現れだよ」
スカーレットは、取り繕うようにラルフの良さをアピールしていた。
「そうそう、いいリーダーだったよ。
少し抜けてるけど」
続けてライコスもフォローをしていたが、
「二人とも、それあまりフォローになってないですよ」
二人の余分な一言に、シリルは少しだけ顔を膨らませている。
それを見たライコスとスカーレットは顔を見合わせ笑い始めた。
その横では、カイだけが黙々と本のページをめくっていた。
一冊、また一冊と確認するたび、読み終えた本が横へ積み上がっていく。
本の山が高くなるにつれて、カイの表情も険しくなっていった。
「さぁ、そろそろ終わりの時間だ」
辺りの日が陰り始めたであろう時間。
スカーレットがパンと手を叩いた。
終了の合図である。
『はぁ……
結局見つからなかった……』
落ち込むカイにシリルは
「仕方ないよ。
また頑張ろう」
笑顔で声をかけた。
しかしカイは、こくんと頷きながらも、悔しさを露わにしていた。
街に戻る馬車の中でもカイの表情は変わらなかった。
ここ最近ずっと思うように本が見つかっていないことも重なっていた。
そう簡単に見つかるものではないとは分かっていても、新しい知識を渇望していた。
その欲求が抑えきれなくなったのか
「あの……スカーレットさん……
もどったら、あの部屋を見させていただいてもいいですか?」
と頼み込んだ。
スカーレットは苦笑いしつつも
「仕方ないねぇ……
昨日の時間ぐらいまでならね」
と了承をした。
カイの顔はパッと明るくなっていく。
シリルもその様子をみて安堵するとともに苦笑いするしかなかった。
街に着き、黒鉄の鉄鍋亭の近くに来た4人。
カイはウズウズしているようだが、今回は走り出さないで我慢しているようだ。
3人に歩調を合わせている。
「フフフッ……
我慢しなくていいよ、早く行っといで」
スカーレットはカイの背中をバンと叩く。
カイは一礼すると、一目散に走って黒鉄の鉄鍋亭へ入っていった。
「分かりやすいね、あの子は」
スカーレットはガハガハと笑っている。
「まぁな。
でも、その分周りが苦労するな」
ライコスがそういうと、シリルの顔を覗き込む。
「なんで私なの?
別にいいんじゃないですか。
フラフラ遊んでいるより、夢中になれるものがあるのなら」
そう言いながら、カイの様子を笑顔で見ているシリル。
「こりゃ、一本取られたね、ライコス」
シリルの一言にスカーレットがライコスの腰をパンと叩く。
「そ…そんな、俺は遊んでねぇし」
慌てて否定するライコスに
「私もライコスさんのことを言ったわけじゃ……」
シリルも手を横に振りながら、たとえ話だったと否定していた。
カイは黒鉄の鉄鍋亭の奥の部屋へ入ると、また本と向き合っていた。
遺跡でやっていたように、本を取っては確認し、見終わると丁寧に積み上げていく。
活気づく店内とは正反対に、そこだけは静寂に包まれ本のページを捲る音だけが聞こえてくるようだった。
『これも違うなぁ……
もしかしてここにもないのかなぁ……』
あれから数時間探しているが、まだ見つかっていない。
『でも、まだこれだけ本があるんだし、絶対1冊はあるはず』
信念を変えずにひたすら本を探しているカイ。
かなりの量の本が溢れているこの部屋の1/3ほどは見終わっていたが、諦めずにいた。
この部屋の四隅のうちの一角はほぼ見終わり、一番下にあった最後の本を手に取る。
随分奥に入っていたこともあり、本にはだいぶ埃がついていた。
パンパンパン――
埃を手で落とすとそこに本のタイトルが浮かび上がる。
深淵の真眼書
ここで見てきた古書とは少し違う感じのタイトルに、唾を飲み込むカイ。
そしてページを捲った。
理を観測せし者へ
世界は要素の組み合わせのみにて成り立つにあらず。
万物には等しく、その存在を形作る『定義』と『構造』が刻まれている。
愚者は火を放ち、水を生む現象のみを魔術と呼ぶが、
賢者はその現象の裏に流れる『情報』そのものを読み解く。
本書は、世界に干渉するための攻撃の手立てにあらず。
対象の内に秘められた魔力の巡り、構造の歪み、そして隠された状態を
『ありのままに視界へ投影』するための仕様を記したものである。
属性の加護に頼らぬ者よ、眼を開け。
汝が目にするのは、世界の象形ではなく、剥き出しの真実なり。
『ロストワードの本のようだけど……
定義……構造……情報……?
今までのとは何か違う感じがする』
カイの顔が少し綻んでいる。
さらにその先へと読み進める。
一、万物の構成情報の読み出し
対象の内に秘められた『魔力残量』および『構造』を視界に投射する手法
二、気配と構造の追跡
遮蔽物の向こうに存在する動体・魔力反応の解析
三、理の綻びの暴き
術式や生命体が抱える『歪み(弱点)』の可視化
『これは鑑定のようなものなのかな。
ステータスとか弱点とかが見えるようになるようだ』
待ちに待ったロストワードの古書が見つかり、大きくガッツポーズをするカイ。
「おーーーーっ」
思わず大きな声で叫んでしまった。
その声にビックリした店内の客が一斉にカイの方を向いた。
その視線に気づいたカイは、頭をペコペコと下げていた。
「カイーーっ!
見つけたの?」
そこにシリルが入ってきて、ばーっと抱きつく。
「うん、ようやく見つけた」
満面の笑顔のカイにシリルはさらにぎゅっと抱きしめていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
探しても探しても見つからず落胆していたカイですが、あきらめずに粘り続けた結果……ついに待望のロストワードの本『深淵の真眼書』を発見しました!まさに「雨のち晴れ」な展開でしたね!
昔のエスメラルダやラルフの冒険談も興味深く、本に夢中なカイを優しく肯定して一緒に喜ぶシリルの健気なハグには思わずほっこりしてしまいます(笑)。
ついに手に入れた「鑑定・解析系」と思われるこの魔術、一体カイにどんな視界をもたらすのでしょうか……!?
「カイ、おめでとう!」「シリルのハグが可愛すぎる!」と思った方は、ぜひ評価やブックマーク登録で応援していただけると大変励みになります!
次回の更新もどうぞお楽しみに!




