function.034(“スカーレットの戦闘指南”);
遺跡の中に入ると、カイはますます近未来的な造りをしていると感じた。
壁には用途のわからない金属製のパネルが埋め込まれ、天井には照明器具のようなものが並んでいる。
扉も取っ手や蝶番が見当たらず、まるで近づけば自動で開きそうだ。
苔や埃に覆われてはいるものの、前世で見た宇宙船の内部を思わせる光景だった。
シリルも見慣れない遺跡の造りに、しきりに辺りを見回していた。
「ほら、ぼさっとするな。
魔物のお出ましだよ」
スカーレットが大きな盾を構えた方向に、熊のような魔物が現れた。
「ほら、こっちだ。
アイアンクロウベアー!」
大きな声で引き付けるスカーレットに、アイアンクロウベアーが腕を振り下ろしてきた。
ガッシーン――
鋭い爪がスカーレットの盾にぶち当たる。
しかし、スカーレットはビクともせずにその爪を受け切った。
「これぐらい、どうってことないよ」
受けた攻撃に耐えたのち、大きく跳ね返すと、アイアンクロウベアーが後ずさりしてよろける。
そこへカイが即座に魔術を立ち上げる。
『シリルの魔術が当てやすいように、動きを止めよう。
対象の上空から圧縮した空気の塊を叩き落とす!』
「エアプレス!」
風圧に耐え切れず尻もちをつくアイアンクロウベアーに、畳みかけるようにシリルが魔術を詠唱する。
「トリプル・アイスランス!」
三つの魔法陣が同時展開すると、氷の槍が現れ、アイアンクロウベアーへと向かっていく。
頭、腹、足に図太い氷の槍が刺さり、あっという間にアイアンクロウベアーが凍り付き、砕けていく。
「聞いてはいたけど、目の前で見ると凄いもんだね」
冷静に見ているように見えたスカーレットも魔術の威力に感嘆している。
「そんなことはないです……
カイが創る魔術がすごいんです」
謙遜するシリルに
「さすが、エスメの子だけはあるね。
あいつの魔術も他の人に比べたら威力が違ったからね」
スカーレットは昔のことを懐かしむようにそう言った。
『今の魔術も使う人によって威力が変わるのかな。
リミッターがあるだけで、魔力の差が威力の差になるのかも』
何気ない一言を聞き逃さなかったカイ。
今まで、現在の魔術にはあまり関心を持っていなかった。
ただ、どういう仕組みになっているか少しだけ気になった。
『なんか見れる方法あるといいんだけど……』
ロストワードで創られた魔術は容易に見れるカイだったが、現在の魔術は暗号化がかかっているのか、まったく中身を見ることが出来なかった。
『もしかして暗号化に関する魔術とかもあったりするのかも』
まだ見ぬロストワードとの出会いを頭の中で妄想するカイだった。
「坊ちゃん、気を抜かない。
ここは遺跡だよ。
何が起こるかわからないんだ」
カイがボーっとしているのを見たスカーレットが、バンと背中を叩く。
「……はい」
ヒリヒリとした背中の痛みで、カイは現実へと戻される。
「先に進むよ」
大盾を背中に背負い直したスカーレットが先へと進んでいく。
その後を追いかけるようにシリルとカイも進んでいった。
そこからは魔物との戦闘の度にスカーレットの指導が飛ぶ。
スカーレットが前線で魔物を引き寄せて足止めをする。
その間に背後からライコスの攻撃を入れた。
グォーーーー
叫び声と共に、ライコスへと向かっていった直後、
「デュアル・ライトニング!」
シリルの詠唱で二つに広がる魔法陣。
そこから稲光が発せられると、魔物が一瞬で黒焦げになった。
ただその余波で、周りの壁の装飾物に電気が走ったような閃光が走る。
「こら、嬢ちゃん。
ここの壁や床は鉱物で出来ているから、電気を通しやすい。
仲間にも被害が出る可能性があるからダメだよ」
スカーレットは状況に応じた魔術の選択をするように指南する。
「はい、ごめんなさい。
気をつけます」
またある時は――
「こっちにきな!」
魔物を引きつけるスカーレットに、激しく襲い掛かっていく。
受け切ったところで、カイが魔術を発動する。
「デュアル・アイスランス!」
周囲の気温が一気に下がり、氷の槍が形成され解き放たれる。
「おっと……」
胸部へ刺さる二本の槍と同時に、スカーレットが慌てて魔物から離れる。
「坊ちゃん、ちょっと魔術が早かったよ。
坊ちゃんたちの魔術は威力が強いから、前衛を巻き込んじゃう。
こういう時は、きちんと前衛が離れてから、魔術を使うこと。
わかったね?」
スカーレットは自分が危ない目にあっていても、怒らずに事実を伝えて丁寧に教える。
「……はい」
カイも素直に聞き入れて胸に刻む。
またある時は――
『すばしっこいな……
氷で足を封じよう』
「フリーズ」
カイが魔術を唱えると、魔物の足元が凍りつき動けなくなる。
「シリル!」
カイが呼ぶと同時にシリルが魔術の詠唱をする。
「エアカッター!」
魔法陣から射出された高密度に詰め込まれた空気の刃が魔物を頭から切り落とした。
その様子をみたスカーレットは
「連携は見事だ。
ただ、嬢ちゃんの方がトドメを刺すことが多過ぎる。
たまには役割を変えないと、ワンパターンになるよ。
知能が低い魔物だと問題ないが、コボルトやオーガといった知能がある魔物だと、
すぐ見破られるよ」
上手くいったような連携でも即座に問題点を指摘する。
「はい!」
「……はい」
いくつもの難局を乗り越えてきた経験からくるのだろうか。
カイはスカーレットの的確な指導に頼もしさを感じていた。
『味方への誤爆はゲームになかったし、力任せでも通じない。
現実での戦いはいろいろと考えないといけないようだ』
洗練された冒険者としての立ち回りにカイは密かに感銘を受けていた。
「ライコス、今日は大人しいな」
スカーレットは後ろを歩くライコスに声をかける。
「うっせぇよ。
今日はお前に任せているだけだよ」
戦闘でも指南でもあまり出番がないライコスは、精いっぱいの強がりで返す。
「本当かい、それは……
なぁ、嬢ちゃん、ライコスはきちんと教えてくれているか?」
以前は人の事を指導することがなかったライコスに疑問を持つスカーレットは、シリルに三人だった時の様子を確認する。
「はい、メタキリタスの遺跡の時にしっかりと教えていただいています」
シリルはライコスがメタキリタスで教えてくれたことを話し始めた。
「ほれみたことか。
俺だってきちんとやっているさ」
シリルの話にライコスもドヤ顔で応える。
「へぇ……
ライコスも変わったね。
見違えたよ」
スカーレットは驚いた様子で、ライコスのことを称賛していた。
「……褒めたって何にもでねぇよ」
ライコスは照れくさそうにしながら、頭を掻いて視線を逸らした。
「さてと、ここが目的の場所さ」
指さす方向には大きな扉が見える。
固く閉じられた金属の扉をスカーレットが力をいれて開ける。
ギギギギギギ――
扉を開け切る前から、古びた紙の匂いが漂ってくる。
「ここがこの階層にある一番近い場所だ。
冒険者たちが漁った後で散らばっているが、まだ多くの本が残っているよ」
スカーレットがそう伝えるや否やカイは中へと走り出す。
「ちょっと、カイ、待てよ。
罠があったらどうする!」
ライコスがそう言って止めようとするがカイには聞こえていない。
急いでカイを追いかけようとすると
「大丈夫だよ。
ここには罠なんかないから」
スカーレットはライコスの肩をちょんと掴んで止めていた。
「もう、カイったら……
いつも本を目の前にすると何にも聞かないんだから!」
ぷくーっと頬を膨らましたシリルがカイを追いかけて中へと入っていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ゲーム知識だけでは通じない「仲間への誤爆」や「地形による属性伝導」、「行動パターンの癖」まで的確に突くスカーレットさん、流石の頼もしさでしたね!
ライコスがシリルにちゃんと教えていたことを褒められて照れるシーンも、熟練冒険者コンビらしくて微笑ましい一幕でした。
そして目的の部屋に着いた瞬間、罠の警戒も忘れて本へ一直線なカイと、呆れるシリルのやり取りも(笑)
「スカーレットの指導が勉強になる!」「シリルのプク顔が目に浮かぶ」と思っていただけましたら、ぜひ評価やブックマーク登録で応援していただけると嬉しいです!
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