function.031(“ライコスの憂鬱”);
壁沿いを歩く三人はしばらく道なりを歩いていた。
ライコスの足取りは依然重い。
「ライコスさん、やっぱりなんか変だよ」
その様子を見ていたシリルがカイにそっと耳打ちする。
「うん、そうだね。
でも、こういう時なんて接していいか分からないなぁ」
前世でも、落ち込んでいる人にどう声をかければいいのか分からなかった。
下手に励ますことで、逆に傷つけてしまうこともある。
だからカイは、何も言わず見守ることが多かった。
「よっぽど嫌なのかな……
無理しなくてもいいのに。
でも、何か理由があるんだろうね」
シリルはライコスがそこまで無理してやる理由がよくわからなかった。
嫌なら嫌でやらなければいいと思っていた。
『何か事情があるのは確かだけど、今はノータッチが無難だな。
……それにしても、あそこまで露骨に嫌そうな態度をとるのは……
ある意味大人じゃない気もするけど』
カイはそう考えながら、苦笑いをするしかなかった。
しばらく歩くと大きな建物が見えてきた。
そこには
『冒険者ギルド・ズーラ支部』
と大きく書かれていた。
「ここですか?」
シリルはライコスに確認するも、首を横に振り、その横にある建物を指さす。
『黒鉄の鉄鍋亭』
と書かれたその店にはひっきりなしに人が出入りしていた。
「そう言えば、そろそろお昼ですね。
先にご飯ですか?」
シリルはさらにライコスに確認する。
しかしライコスは首を縦に振ったのか横に振ったのか分からないような動きをしている。
そのまま無言で店の扉を開けて入っていった。
二人も首を傾げながら、ライコスを追っていく。
「はい、いらっしゃい!
三人?
三人ならそこが空いているからそこに座って」
中にいた女性はこちらを軽く見て、座る場所を大きな声で伝える。
手には配膳する料理を山ほど抱えている。
ライコスはカイとシリルを手招きすると、入口近くの指定されたテーブルへと呼び寄せた。
「まぁ、しばらく待とう。
ここの料理はうまいぜ」
出てくる言葉とは裏腹に態度は沈んだままのライコス。
おいてあるメニューを取ると、カイとシリルの前に置く。
豊富なメニューに目移りするシリル。
「どれも美味しそう」
下を向きメニューを見ては、顔を上げ他のテーブルの料理を見て目を輝かせている。
カイもメニューを見つつ、周りの様子を確認する。
『かなり賑わっているな。
冒険者ギルドの横だし、冒険者が多いのかな』
目だけをキョロキョロと動かしていると、奥の方に少し薄暗い部屋があるのを見つけた。
そこだけは人がほとんどいない場所だった。
『VIPルームとか特別な人向けの部屋なのかな』
気になったカイは目を凝らしてその部屋を見ようとした。
その時
「おまたせ!
何にするんだい」
背は低いが芯の通った引き締まった体つきの女性が大きな声で注文を聞きに来た。
「よっ!
俺だよ俺……」
ゆっくりと顔を上げ女性の方へと向き直すライコス。
「なんだ、ライコスじゃないか!
久しぶりだな。
まだ遊び惚けているのか?
そろそろお前も身を固めたらどうだ」
その女性はライコスを見ると豪快に笑いながら、バシバシと肩を叩いている。
「うるせぇ!
どうしてようと俺の勝手だろ」
ライコスは苦痛に顔を歪める。
「だいたい、お前は昔から、女癖は悪かったし、フラフラしているしで……
実力はあるんだから、そこをしっかり直していかないと」
真面目な顔に戻った女性は、ライコスにくどくどと説教を始める。
「会ってそうそうにそれかよ。
お前は俺のオカンか!」
悪態をつくライコスだったが、女性は気にせず話を進める。
「で、この坊ちゃんと嬢ちゃんは?
もしかして、お前の隠し子か?」
二人の方をジロジロと見ている女性。
カイは目深にフードを被ったまま一礼をした。
シリルもにっこりとして軽く会釈をする。
「そんな訳ないだろ!
こっちはクレア、あっちはエスメの子供だ!
お前のところにも連絡きてるだろ!」
ライコスは慌てて大きく手を振り訂正する。
「あぁ、そうだった、そうだった。
あの二人の子か。
大きくなったもんだ」
ふたたび女性は二人をじっくりと見ている。
「あの……
この方は……」
二人の会話をなかなか遮れなかったシリルだったが……
ようやく話が途切れたところでライコスに確認する。
「あぁ、紹介がまだだったな。
こいつは、スカーレットだ」
ぶっきらぼうに紹介するライコスに、紹介された女性はまた苦言を呈す。
「ライコス、お前な……
もっと紹介の仕方ってもんがあるだろ、ホントにもう……」
ライコスはもう聞きたくないのか、そのままぷいっとそっぽを向いた。
「それじゃ、改めて。
自分がスカーレットだ。
この料理屋を旦那とやっている。
昔はこいつ……じゃないな。
ライコスと、クレアとエスメラルダ、
それからラルフと一緒に冒険していたんだ。
今後ともよろしくな!」
スカーレットはそう言うと手を出して握手を求めてきた。
「はじめまして、スカーレットさん。
私はシリルです。父がラルフで母がエスメラルダです」
差し出された手を握りしめたシリルが挨拶をする。
スカーレットはシリルの手をぎゅっと握りしめた後、次はカイの目の前に手を差し出した。
「……カイ……です……」
カイは手を握ると自分の名前だけを伝えて沈黙する。
「カイはクレアさんの息子です。
すごく勉強熱心で、なんでも出来ちゃって……」
沈黙に耐え切れずシリルがカイのことを紹介していく。
「嬢ちゃん、分かったけど、それはこの坊ちゃんが言わないといけないんじゃないかな」
シリルの話を途中で遮ったスカーレットはまだカイと握手をしたままだった。
その手は強い力でカイの手を握りしめていく。
「……っつ……」
思わず痛みで声が漏れる。
「はい……すみません」
カイはスカーレットの言葉の意味を理解すると、慌てて自分の口で話し始めた。
「……母はクレアです……
よろしく……お願いします」
シリルが話したことの繰り返しだったが、自己紹介をする。
「それでいい。
やれば出来るじゃん」
また豪快に笑って握った手をバシバシと叩くスカーレット。
「痛っ……」
力強く叩かれたカイの手は赤くなっていた。
スカーレットの鍛え上げられた筋肉から繰り出される平手打ちは尋常な力ではなかった。
『元冒険者だけあって、握力も筋力も容赦がない……』
苦痛で顔を歪めるカイは内心で悲鳴をあげていた。
「おっと、ごめんな」
スカーレットは手を放すと
「今はまだ忙しいから、詳しい話は後でな。
それまで自分たちの料理、楽しんでくれ」
そう言うと、注文を聞かないまま厨房へと戻っていく。
しばらくすると、注文していない料理が運ばれてきた。
「ったく、あいつは何も聞いてないのに料理出しやがって」
ライコスは出された料理をつまみながら文句を言っている。
シリルもカイもライコスが食べたのを見て、つまみ始めた。
「これ、おいしい!」
出された料理を少しづつつまんでは感嘆するシリル。
「でも……この量……」
目の前には山盛りの皿がドンドンドンと置かれており、とても三人で食べきれる量ではなかった。
「しかも、あいつ、俺の嫌いなもん入れやがって。
どうせ、好き嫌いするなって意味だろうけど。
ほんとムカつく」
ライコスはそういうと、料理に入っているピーマンをひとかけらも残さずにつまみだした。
『いちいちいろいろ言われるから、スカーレットさんに会いたくなかったのか……
まぁ、でも言われるのも分かる気がする』
ライコスの子供じみた行動を見ながらカイとシリルは苦笑するしかなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ライコスがズーラに来たがらなかった理由……それは説教くさい「おかん」こと、元パーティメンバーのスカーレットさんでした!(+まさかのピーマン嫌いも発覚……笑)
豪快で頼もしい(そして握力が容赦ない)スカーレットさんという新たな仲間(?)も加わり、カイたちのズーラ生活がいよいよ本格的に始まります!
賑やかになった三人+1人の旅を「面白い!」「ライコスが可愛く見えてきた」と思っていただけましたら、ぜひ評価やブックマーク登録で応援していただけると励みになります!
次回の更新もどうぞお楽しみに!




