function.030(“別れのち新天地”);
次の目的地が決まった三人はすぐさま準備に取り掛かった。
翌日にカイとシリルは街へ出て、旅支度を整えた。
ライコスも抱えていた仕事を片づけたり、知り合いに任せたりしていた。
話し合いをしてから三日後――
肩掛けの鞄と荷物が入ったリュックを背負うカイ。
寝泊まりをしていた部屋を端から端まで見渡した。
1ヶ月ほどしかいなかったが何故か愛おしく感じる。
『なんかあっという間だったなぁ……』
少し感傷にふけっていると
「カイ!
準備出来た?
早く行こうよ!」
いつものように元気のいいシリルが扉を開けて入ってきた。
「うん、行こうか」
階段をおり、宿の受付へと向かう。
受付にはいつもカイたちの帰りを明るく出迎えてくれた宿の女将さんがいた。
カイたちのことをいつも気にかけてくれて、いろいろと世話を焼いてくれていた。
『子供が二人いっぺんに出来たみたいだわ』
と笑っていた女将さん。
二人が挨拶をすると、大粒の涙を流し、最後まで抱きしめてくれた。
宿を出た二人は、ライコスと合流するため、冒険者ギルドに向かった。
何度も往復した道はいつもの変わらない風景なのだが、二人の心持ちが違うためか、なんとなく見え方が変わって見える。
「もう、ここも最後なんだね」
シリルがポツリと言葉を漏らす。
「落ち着いたらまた来よう」
シリルの少し寂しそうな顔にカイはまたいつか来ることを約束した。
「うん、そうだね。
また来ようね!」
シリルは顔を上げ、またいつもの笑顔に戻っていた。
『……決めたのだから、前を向かないと……』
本当の目的は魔術協会から距離を置くこと。
それが一番安全な選択だった。
合理的な選択だと頭では分かっていても、シリルの無邪気な笑顔を見るたび、胸の奥がギュッと締め付けられた。
そう自分に言い聞かせると、前を向きシリルの後を追いかけていった。
冒険者ギルドに到着すると、受付の前にライコスが立っていた。
カウンター越しにはゼニアがいた。
「ゼニアさ~ん!」
シリルは受付へ一直線に走っていく。
カイはゆっくりと歩きながら軽く会釈をする。
カウンターの奥からゼニアが寂しそうな、でも温かい笑顔を向けてくれた。
「二人とも行ってしまうのですね。
寂しいわ」
シリルに抱きつかれたゼニアの目は少し涙が溢れていた。
「ゼニアさん、ごめんなさい。
急にここから離れることになって」
シリルはゼニアから離れるとそう言って深く頭を下げていた。
「そろそろかなとは思っていたのよ。
ライコスさんが付いているとはいえ……
この短期間でここの遺跡をこれだけ探索した二人だから」
「うん、ライコスさんのおかげ」
シリルはまるで自分の事のように自慢げな顔をする。
「そう、俺のおかげだ!」
それに輪をかけるような勢いでドヤ顔をするライコス。
その顔を見たシリルとゼニアは顔を見合わせ思わず噴き出してしまう。
「ふふふ……」
「ぷーっ……その顔……ライコスさん……」
何故笑われているかが分からないライコスは
「何がおかしいんだよ!」
と二人に食って掛かっていた。
そのやりとりで、どこか感傷的な雰囲気になっていた場が和んでいく。
「……ゼニアさん……
あの……先日いたあの方は……」
カイはゼニアへの挨拶の後、ギルド内の様子を伺っていた。
あれほど騒がしく聞きまわっていたトリスの姿が見えなかった。
気になったカイはゼニアさんへ確認をする。
「あの方……あの方……」
ゼニアはどのことを聞かれているかまったく分からなかった。
カイは心の中で大きく深呼吸をした。
探りを入れていると悟られないように平静を装った。
「……あの、魔術協会の……」
「あぁ、トリスさんね。
あの後も大変だったのよ。
連日入ってくる冒険者に次から次へといろいろと聞いていて……
ギルドとしても魔術協会からの話だし、断りづらかったのよ」
魔術協会というキーワードで一発でわかったゼニア。
困った顔をしながらも、その後の様子を事細かに話し始める。
「……今日はいないようですけど……」
カイはそれだけいろいろと調べていたのに今いないのが不思議だった。
するとゼニアはカウンターにある依頼書の写しを手に取った。
「たしか、依頼を出していたはずだったけど……」
ページをペラペラとめくる。
「あっ、これこれ。
聞きながらも、直接見たいって遺跡の探索の護衛を募って……
今日探索に出発しているようですね。
そこそこの報酬だったから、冒険者の間で奪い合いになっていたわ」
『百聞は一見にしかず……か……』
前世の言葉が頭に思い浮かんだカイ。
カイ自身も物事はきちんと実物を見て判断している方だ。
同じような肌感が一緒なことに少しだけ親近感を覚えた。
「あっ、そうそう。
旅立つ直前で悪いけど、ギルドカードを出してくれる。
Dランクに昇格よ。
依頼もいっぱい達成してくれたし、
ギルド長もこんな短期間での昇格は異例だって驚いていたわ」
ゼニアは二人から預かったギルドカードを手に取ると、ランクの書き換えを行った。
「ありがとうございます!」
「……ありがとう……ございます……」
シリルはギルドカードを受け取ると大喜びをしている。
カイはカードをまじまじと見ながら、少しだけ顔が綻んでいた。
「まぁ、俺様のおかげだけどな」
ライコスはまた思いっきりドヤ顔をしていた。
「そうですよ!
ライコスさんのおかげです!
ねぇ、カイ」
「……うん」
シリルはライコスに向き直ると深々と頭を下げていた。
その後ゼニアに別れの挨拶をした三人はライコスが手配した荷馬車に乗って旅立っていった。
ゼニアは三人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
一方そのころ、メタキリタスの遺跡内では――
「ここが氷の部屋だったところですか?」
トリスとその護衛の冒険者たちが遺跡のとある部屋に辿りついた。
「時間も経ってしまったので、さすがに氷は溶けてしまっているようですね……」
トリスは部屋の隅々まで確認をしたが魔術の痕跡は見つからなかった。
「ただこれだけ大きな穴が空いているということは……
そこに一瞬で空間ごと凍結破壊するような、膨大な魔力負荷がかかったということ。
……やはり、未知の超広域魔術か?
それとも魔物がまだ見ぬ魔法を使ったのか……
どのみち闇雲にさがしても仕方ありません。
……まずは仮説として『魔物の固有魔法』と定義しましょう。
もし未知の生態による魔法なら……
それを解析して人間側の魔術へ還元できるかもしれない……
そうすれば、これまで数百年誕生してない新たな魔術が生まれるかもしれない……」
ブツブツ言いながら頭の中で妄想を広げるトリス。
「さぁ、次は魔物の調査ですよ。
ここにいる魔物を全部私に見せてください!」
トリスは意気揚々と遺跡内を駆けずり回るのだった。
数日後――
三人は馬車に揺られていた。
ライコスは退屈で仕方ない。
何もすることがないから、馬車の中で横になって寛いでいる。
シリルは外の景色をずっと眺めている。
あまり代わり映えのない景色に見えても、シリルにとっては目の保養になっていた。
色づく木の実や鳥のさえずり、移り変わる雲まで、何もかもが愛おしく見えていた。
「空気が美味しい」
大きく深呼吸して背伸びをすると、また再び外を眺めている。
一方、カイは道中ずっと古書を読んでいた。
古書を読みながら、傍らにはウインドウを開いていた。
本を読んではその画面に向かっている。
向かい終わると、脳内のキーボードを叩く。
叩き終わると魔術を動かす。
ひたすらそれを繰り返す。
「ふぁぁぁぁ……
あいつ、よく飽きないな。
ずっと同じことしているぞ」
ライコスはカイを指さしながらシリルに話しかける。
「いつものことだよ。
あれがカイだもん」
少しは構ってほしかったシリルだが、カイの性格もわかっている。
こういう時は静かに見守ることにしている。
カイの真剣な眼差しを見て、安心したシリルは再び外に目を向けていた。
「だんな、そろそろズーラに着きますぜ」
馬車の御者が前の方を指さすと、大きな塀に囲まれた街が見えてきた。
その街の名前を聞いた途端、ライコスは
「はぁ……
着いちまったか……」
先ほどまでは退屈そうにしていた顔も一気に憂鬱な顔へと変わっていく。
その様子を見ていたカイ。
『よっぽどこの街のことが嫌いなのか……
それとも嫌な何かがあるのか……』
理由は街に着けば分かると言うことでその後も何も聞いていない。
『まぁ追々分かるのだろう』
そう思いながらライコスに向けていた視線を再び古書へと変えていった。
馬車は、外壁の入口の前まで到着し、三人を下ろすと、再び元の道を戻っていった。
「ズーラに到着したな……
はぁ……
まぁ、気乗りしないがこっちに向かうぞ」
ライコスはそう言うと、ぐるっと囲う城壁に沿って歩き始めた。
その足取りは、まるで気の進まない用事に向かうように重かった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
メタキリタスの人々との温かいお別れを経て、二人も無事にDランクへ昇格!
そして、なんだか検討違いな方向(魔物の固有魔法…?)で納得してテンションが上がっているトリスさんを後目に、カイたちはついに新天地「ズーラ」へ到着しました!
憂鬱そうなライコスの理由も気になるところですが、次回からは本格的にズーラ編がスタートします!
ここまでカイたちの旅を見守ってくださり本当にありがとうございます。
「メタキリタス編お疲れ様!」「ズーラ編も楽しみ!」と思っていただけましたら、ぜひ評価やブックマーク登録で応援していただけると、今後の執筆の大きな力になります!
引き続き、カイたちの冒険をよろしくお願いいたします!




