function.029(“次なる目的地”);
宿屋に戻ったカイたちは部屋に集まっていた。
そのころにはカイの心音も落ち着きを取り戻していた。
『しまったなぁ……
あのデュアルアイスランス、すぐ消えると思っていたけど……
僕の想定より遥かに長くあの場に留まっていたのか……
きちんと氷を溶かしておけばよかったかな……』
心の中であの時の後悔が沸々と沸き上がってきて、険しい顔になるカイ。
「カイ、どうしたの?
そんな怖い顔をして……
それにさっきからずっと黙って……」
シリルは見たことのない表情をしているカイに恐る恐る話しかける。
「……ごめん。
ちょっといろいろと考えちゃって……」
カイは顔を上げ、シリルの方を見る。
カイは心配をかけまいと、いつも通りの笑顔になろうとしていた。
しかし、周りから見ると、少しだけ柔和になっている程度の顔だった。
「カイ!
あの魔術協会の奴、いろいろと調べていたな。
ありゃ、なんだ?」
顔色がよくないカイにライコスが直球で問いただす。
「はい……
そこは……ごめんなさい。
僕が事を見誤っていた所為で……
もう少し上手く立ちまわっていれば……」
険しい顔のまま、ひとことひとこと、言葉を絞り出すカイ。
「そんな終わったことはどうだっていいって。
この後、どうするかってことだ」
いつまでもうじうじと過去の事を悔やんでいるカイにライコスはきつめな言葉を投げかける。
「……はい……」
ますます顔が険しくなるカイ。
言葉があまり出てこない。
「ライコスさん、止めて!」
シリルはカイとライコスの間に入って制止しようとした。
「わりぃ、わりぃ。
別に怒っている訳じゃないんだ」
両手を上げて降参のポーズをとるライコス。
しかし、そのまま話は止まらなかった。
「反省はすべきだと思うがな。
過去は変えられねぇ。
今は、この後どうするかってことが大事なんだ。
未来はいくらでも変えられるからな」
ライコスは反省するカイを諭すように話をした。
それでも俯くカイに
「失敗は誰にだってある。
それを活かすも殺すもお前次第だろ!
魔術協会が出てきたからって、ここで終わらせるのか?
お前の情熱はそんなものか!」
「いいえ……」
カイは首を振りながら小さな声で否定する。
「なら、わかるだろ?
どうすればいいか」
ライコスの言葉の後に長い沈黙が続く。
「……」
しばらく考え込んでいたカイだったが、
「はい……」
と小さく頷いた。
「お前の思う通りに動いてみろ!
それが一番の近道だ!」
そう言うと、ライコスはドカッとソファに座った。
カイはまたしばらく考え込んでいた。
『……
あまり考え込むなということかな……』
そう思いながらもまだ頭の中でいろいろなことを考えてしまっていた。
その姿を心配したシリルがカイの元へと近づく。
「カイ……
何があっても私はカイの味方だよ」
俯いていたカイが顔を上げるとシリルはいつもの笑顔だった。
「うん……
ありがとう……
ごめんね」
カイはブルブルと大きく顔を横に振る。
自分の中に湧いてくる負の感情を外に吐き出すように。
『僕は……
僕は……
もっともっとロストワードを……
もっともっと知りたいんだ』
生気が失われていたカイの目に力がみなぎる。
その姿を見たシリルの目からは涙が溢れていた。
「カイ……」
シリルは溢れた涙を服の袖でゴシゴシと拭った。
カイは、そのシリルの姿を見て、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
二人の様子を少し離れたところで見守っていたライコスも、満足げな表情を浮かべて、お茶を一口すすっていた。
部屋の空気が少しずつ柔らかくなり、いつもの空気に戻りつつあった。
カイはゴホンと咳払いをして、気持ちを切り替えるように現状の整理を始めた。
「あの……ライコスさん……
メタキリタスの遺跡はほぼ調べ尽くしたって話でしたよね」
「あぁ、俺の知る限りではな」
ライコスはお茶を飲みながら答える。
「そうなるとこの遺跡を潜っても古書が見つかる確率は低いですね……
ライコスさん、どこか近くに同じような遺跡を知っていますか?」
「そうだなぁ……
近場だと……
ふぅ……
まぁ、心当たりはあるぞ……」
急に歯切れの悪い返答になるライコス。
何故か顔も引きつっている。
「???」
その様子を見たシリルは何故ライコスがそんな顔をしているかが分からなかった。
「それはどこでしょうか?」
カイもライコスの様子は気になったが、差し迫った問題を優先した。
「……えっと……ズーラの街だ……」
頭を掻きながらバツが悪そうに話すライコス。
「ズーラですか?」
このメタキリタスから数日馬車で移動した先にある街だ。
ズーラにも同様の遺跡があるようだ。
「あぁ……
そこなら、今のお前たちなら探索も難しくないだろう」
どうやら、魔物の強さもこことも大きな差はないようだ。
「それなら、ちょうど良さそうですね」
カイは新たな古書、新たな技術と出会えるかと思うと、急にワクワクし始めた。
その様子とは裏腹に、今度はライコスがトーンダウンしはじめる。
「どうする?
他にも候補はある。
少し遠くなるがな」
「そうですね……」
カイとしては少しでも探索する時間が欲しかった。
近場の遺跡へ向かうか、それとも時間をかけて別の場所を目指すか。
しばらく考え込んでいると、
「なぁ、ズーラに行くのか?」
ライコスは大きなため息とともに確認をする。
「だって、ライコスさんが、もうここは全部見たって言ったじゃないですか?
それなのに……
ズーラに何かあるんですか?」
シリルはライコスの煮え切らない態度に直球で疑問をぶつける。
「いや、まぁ……」
ライコスはしどろもどろになっている。
「でも、行くのは私たちだけでしょ……
あっ、ズーラで何か問題が発生している?
だから行かせたくないってこと?」
ライコスの態度が何故そうなるかが分からないシリルはズーラ自身に何かが起きているのではないかと考えていた。
「いやいや、そんなことは起きてない」
ライコスはきっぱりと否定した。
「じゃあ、なんで……」
ますますシリルはライコスの態度に疑問が増してきた。
「まぁ、なんだ……
エスメとクレアには、最後まで付き合うようにと言われてるから」
「えっ、お母さんたちに?」
母たちの名前が出てきてビックリするシリル。
カイもライコスの言葉には驚いた。
「あぁ、そうだ。
もう前金も貰ってるしな。
だから、お前らが向かう先には俺も付いていくんだが……」
「ライコスさん、ありがとうございます。
心強い味方だね、カイ」
付いてきてくれる嬉しさに笑顔になるシリル。
カイも横で大きく頷く。
「……まぁ、俺も俺でお前ら見ていると飽きないしな」
そうは言いつつもまだ煮え切らない態度のライコス。
カイもライコスがなぜそこまで嫌そうな態度をとるのかが分からなかった。
「それはそれでだ……
お前らのことを考えると次のステップにズーラは最適だと思う。
俺もついていくし、探索も問題ないだろう
ここに居てももうメリットは無いしな」
ライコスは自分自身を納得させるように言った。
「そういう話なら、なんでそんなに嫌そうな顔しているんですか?」
シリルはまたまた直球でライコスに伝える。
「……
まぁ、俺の個人的な問題だ。
気にするな」
詳細を話したがらないライコス。
「気にするなと言われても……」
ますます困惑するシリル。
しかし、カイはこれ以上突っ込まない方がいいだろうと思い、シリルの肩をポンと叩くと首を横に振って見せた。
「……カイがそう言うなら、もう聞かない」
「あぁ、助かるよ」
ライコスは安堵した表情を浮かべる。
「まぁ、それでも向こうに行けば分かっちゃうがな」
カイやシリルに聞こえないような声でボソボソと独り言をつぶやいた。
「……ライコスさん、シリル、じゃあ、ズーラに行くってことでいいでしょうか?」
改めて確認を取るカイ。
「……おう」
「うん」
ライコスは少し憂鬱そうに、シリルは元気よく返事をした。
こうして三人の新たな目的地はズーラに決まったのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ライコスの熱い鼓舞とシリルの優しさのおかげで、カイも無事に前を向くことができました!
そして次なる目的地は「ズーラ」に決定です!
ライコスがなぜか嫌そうな顔をしていた理由とは……?(笑)
次回からはいよいよズーラ編がスタートします!
新たな舞台でカイたちがどんな出会いや冒険を繰り広げるのか、ぜひ楽しみにしていてください。
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