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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.002 { lostWord = adventure.Explore(kai,cyril); }

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28/38

function.028(“痕跡の噂と査察官”);

翌日--


この日から三人はまた遺跡の探索を開始した。

メタキリタスの遺跡の隅々を網羅するように何日も何日も探索を繰り返した。

ある日は何百冊も散らばる部屋で本と格闘し、またある日は新しく開発したロストワードの魔術を試しながら、三人は探し続けた。

しかし、それ以降ロストワードの古書を見つけることが出来なかった。


「今日もこの辺りで終わりだな」


日が落ち始め赤くなり始めた空を見上げるライコス。


「はい」


大きな声で返事をするシリルの横で、カイは深いため息をつく。


「はぁ……

 今日も見つからなかった……」


カイの失望した顔を見たシリルは、なんとかしなきゃと思い、ライコスに確認する。


「ねぇ、ライコスさん、この遺跡で見てないところありますよね?」


「ん?

 そうだな……

 だいたい調べつくしたと思うがな」


カイを励ましてほしいというシリルの思いに気づかないライコスは、ありのままを話していた。

そんなライコスにぷくーっと頬を膨らませるシリル。


「もう、そうじゃなくて!

 ライコスさん!


「なんで怒っているんだ、お前は……」


ライコスは不思議に思ったが、構わず話を続ける。

 

「まぁ、遺跡はここだけじゃねぇ。

 そろそろ別の遺跡へ行く頃合いだってことだ。

 調べつくした遺跡より、可能性は高いだろう」


ライコスの言葉を聞いたカイの顔は少しだけ覇気を取り戻していた。

その様子を見ていたシリルはカイに目いっぱいの笑顔を向けていた。


「ねぇ、カイ。

 ライコスさんが言う通りだからさ」


「うん……

 そう……だね……」


カイ自身もなんとなくは感じていたことではあった。

ただ数回の探索で2冊もロストワードの古書が見つかったことに、期待が膨らんでしまっていた。

さらに探索をするたびに成果が出ない日々が続いていたこともあり、ネガティブな感情に支配されてしまっていた。


「大丈夫だから。

 他に行けばまた絶対に見つかるよ」


前向きなシリルの言葉にカイも気持ちを切り替えないといけないと思い始めた。

カイの足取りも少しだけ軽くなっていく。

三人はそのまま遺跡を後にして、街へと向かっていった。


メタキリタスの街へ着いた三人は、冒険者ギルドへ今日の成果を報告するために立ち寄った。


「よう、ゼニア!

 今、戻ったぜ」


受付カウンターの前に立ったライコスは大きな声で奥にいるゼニアを呼ぶ。


「おかえりなさい、三人とも。

 シリルちゃんも、カイくんもケガとかしていない?

 このおじさんに振り回されてない?」


ゼニアは大きく一礼をすると、笑顔で三人に話しかける。


「あのなぁ、おじさんって……

 俺はそんな歳じゃないって。

 ちゃんと子守りしているから大丈夫だよ」


不満げな顔をするライコスにゼニアは二人に話を振った。


「シリルちゃんたちからしたら、おじさんだよね」


「……」


「……」


シリルもカイも返答に困り、苦笑いするしかなかった。


「それより……

 今日の報告と、これ買い取りの素材」


ライコスはゼニアの目の前にいくつかの素材をボンと置く。


「いつもありがとうございます。

 承知しました。

 少々お待ちください」


素材を受け取ったゼニアは受付の奥へと向かっていった。

三人は素材の精算を待っていると、後ろから声が聞こえてきた。


「……あの、少しだけ話を聞かせてもらえませんか……」


冒険者の身なりとは違うしっかりとした服装の男が冒険者を捕まえて話を聞こうとしている。

ギルドに入ってきた時から、この辺りでは見かけないような恰好だったこともあり、カイは気になっていた。


『何を聞いているのだろう』


男も大きな声ではないため、しっかりと聞き取れないが、話を聞きつつメモを取っていた。

その後も次から次へと冒険者へ声をかけ、いろいろと聞きまわっている。


『あれだけ聞きまわっているということは、調べているのだろうか。

 何か問題でもあったのかな』


男が聞いている内容が気になり始めていたカイはさらに聞き耳を立てていた。


「……の部屋……が……かった……と言う……を聞いた……」


『よく聞こえないな……』


もう少し集中して聞こうと前のめりになっていくカイ。

その時


「お待たせしました」


カウンターにゼニアが換金したお金と共に戻ってきた。


「ゼニアさん、あの人、何しているの?」


シリルも気になっていたのか、聞きまわっている男のことを確認する。


「あれは、魔術協会の方ね。

 なんでも未知の魔術の調査とかで、首都からこっちに来たみたいよ」


「へぇ……そうなんだ」


魔術協会と言えば、シリルの母のエスメラルダが


『金に意地汚い連中』


と罵っていたのをカイは思い出す。


『そんな風には見えないけどな……』


一生懸命に聞き取りしている様子からその男が金の亡者には見えなかった。


『ん?

 待てよ……

 未知の魔術の”調査”?』


ゼニアが口にした言葉が頭の中に浮かんでくる。

カイの背中に、冷たいものが走った。


『他の冒険者に見られないように注意して使っていた。

 痕跡も残した覚えもない。

 でも、万が一、ロストワードのことだったら……』 


絶対に関わらない方がいいと感じたカイは一気に冷や汗がにじむのを感じていた。


「どうしたの、カイ?」


視線を落とすカイに何かを感じたシリル。


「……なんでもないよ……

 それより、疲れたから、早く帰ろうよ」


そう言うと、カイは受付に置いてある袋をガバッと取ると足早に入口に向かい始めた。

ライコスとシリルはカイの慌て様に何が起こったのかわからなかった。


「……じゃあな、ゼニア」


ライコスは手を挙げてゼニアに別れを告げるとカイを追いかけていった。

シリルもゼニアに一礼をして、カイの元へと向かった。


「……絶対にバレたらまずい……

 今はまだ……」


ブツブツといいながら下を向き早足で扉に向かっていくカイ。

もうすぐ扉に手がかかるというところで……


ゴツン――


横から走ってきた人とぶつかり、カイは転倒してしまう。


「痛っ……

 あっ、ごめんなさい。

 慌てていたものだから、前を見ずに……」


走ってきた人はカイに手を差し伸べる。


「……こちらこそ……」


カイは首を横に振り、その手を取り立ち上がり顔を上げる。

その目の前に居たのは、未知の魔術の調査に来ていた男だった。

その状況にカイは口をポカンと開けるしかなかった。


「あなたも冒険者?

 私は魔術協会の査察官のトリスと申します。

 ちょっとお聞きしたいのですがいいですか?」


『まずい……』


心の中で焦るカイだったが、目の前にいる状況で逃げたり答えなかったら怪しまれるだけだと思い


「……はい……

 なんで……しょうか……」


話をする以外の選択肢が出てこなかった。


「あの、このメタキリタスの遺跡で氷漬けの部屋が見つかったと噂を聞きまして……」


『!!

 もしかしてあの時の……』


カイは心の中ではビックリしているものの頑張って表情に出さないようにしていた。


「上から調べてこいと言われて来たのですが……」


『!!

 噂が首都にまで広まっているの?……』


ますます焦るカイだが、表情を一切変えない。


「それに私としても大変興味をそそられることでしたので……」


トリスの話に対して、首をコクコクと縦に振りながら聞いているふりをするカイ。


「あっ、そんな私のことはどうでもいいですね、失礼。

 それで、あなたは、その氷漬けの部屋は見かけましたか?」


トリスの問いかけにカイは首を大きく横に振る。


「……そうですか。

 まだ子供の冒険者じゃ、そんな奥の部屋までは行かないか」


トリスは笑顔になると、カイの背後から歩いてきた人物に視線を移した。


「あなたはこの子の付き添いの方?

 何か知っているのではありませんか?」


「あぁ?

 俺か?

 知らねぇなぁ。

 最近はずっとこいつらと一緒だったしな」


ライコスは頭を掻きながら、そう答える。


「……そうですか。

 子供たちと一緒ならそんなに奥まで行ってないですね、と。

 失礼しました」


トリスは再び柔らかい笑顔になると、カイたちの前から立ち去っていった。


「自然現象にしてはこの時期に凍るのもおかしいし……

 かといって魔術に氷属性はないし……」


その後もブツブツと自問自答を繰り返しながら、ギルドの冒険者たちに声をかけていた。


『ふぅ……

 そこまで深く聞かれなくて良かった』


安堵の表情を浮かべるカイの元へシリルとライコスが合流した。


「カイ、大丈夫だった?

 ぶつかって転んでいたけど……」


シリルはカイに近寄ると足元や肘にケガがないかを確認していた。


「うん……

 大丈夫だよ……」


心配するシリルにカイは少しだけ笑顔になり、心配させないように冷静を装っていた。

しかし、シリルたちの声の向こう側で、カイの心臓はいつまでもバクバクと、うるさいほどの音を立て続けていた。

第28話をお読みいただき、ありがとうございました!


メタキリタスの遺跡を調べ尽くし、成果が出ない日々に落ち込むカイ。

気持ちを切り替えて次の場所へ向かおうとした矢先……ギルドで出会ったのは、噂を追って首都からやってきた魔術協会の査察官・トリスでした!


「氷漬けの部屋」という過去の痕跡から足がついたことに冷や汗が止まらないカイ。

ぶつかった弾みで直接話しかけられるという大ピンチを迎えますが、なんとかポーカーフェイスとライコスの適当(?)な受け答えでその場をやり過ごすことができました……!


バレたら一発アウトの極限状態の中、心臓をバクバクさせながらも耐えきったカイですが、トリスとの因縁はここから始まっていきます。


「カイの焦りっぷりにヒヤヒヤした!」「ライコスの適当さが役に立った(笑)」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや星評価、いいねで応援していただけると励みになります!

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