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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.002 { lostWord = adventure.Explore(kai,cyril); }

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27/38

function.027(“本、禁止!”);

翌朝――


「カイ、おはよー」


シリルの元気な声が部屋の中に響き渡る。


「ん……っ……

 今日は探索もないはず……

 もう少し寝たい……」


一伸びしたカイは、すぐさま布団を被り丸まりこむ。

いつものように夜遅くまで、ロストワードの古書を読んで魔術をつくっていたようだ。


「もう外は明るいよ。

 せっかくだし街に行こうよ、街に」


シリルは布団をガバーッと引きはがす。

カイは顔を覆いながら


「僕、見つけた古書をもう少し読みたい……」


ボソッと呟いた。


「それは、いつもやっているでしょ!

 今日ぐらい変わったことしてもいいよね!」


シリルは頬を膨らませて仁王立ちしている。


「……わ……わかったよ」


カイは渋々同意した。

それでもシリルの笑顔を見て、少しだけ嬉しい気持ちになっていた。


「今日、市をやっているみたいなの。

 私、いろいろ見てみたい!」


シリルは寝ているカイの手を取り、起こすとそのまま外へ連れ出そうとしていた。

カイは慌てて


「ちょっと待って……」


シリルをいったん止めると、出かける準備をしはじめる。

シリルはもう準備が整っていたのか、そのまま部屋の外へ向かっていた。

カイも手櫛で頭を整えた後、バッグと古書を持ち、扉へと向かうのだった。


宿を出てしばらく歩くと、街の賑わいも増してきた。

あちこちから威勢のいい声が聞こえ、活気づいていた。


「ねぇねぇ、カイ!

 こっちこっち。

 これ、おいしそー」


カイの手を引っ張るシリルは、甘い匂いが漂う露店の前で止まる。


「おばさーん、これ二つくださーい」


「はいよ」


シリルは焼き菓子を受け取ると、持っていたお金をおばさんの手のひらに置く。


「1、2、3……

 はい、ちょうどだね、毎度あり」


「ありがとー

 はい、これ!」


シリルは受け取った焼き菓子の1つをカイに手渡した。

カイは古書から目を離さないまま、それを受け取る。


「……ありがとう……」


もらった菓子をそのまま頬張るカイ。

その様子を見たシリルも焼き菓子を口に運ぶ。


「おいしーね」


「……うん……そうだね……」


カイの方を向いて話すシリルだが、カイの目線は古書に向いたままだった。

その態度に少しだけ不満な顔を見せるシリル。

それでも気を取り直して、市場のあちこちを見て回る。

カイは相変わらず本を手放していなかった。

片手をシリルに引っ張られながら、ついてはいくものの、立ち寄る店々にはまったく見向きをしていなかった。


「カイ、この服、どう?」


胸に服を当ててひらひらとカイに見せる。


「……いいんじゃないかな……」


ちらっとシリルを見ると、再び本へと目線を落とす。

その態度にシリルの堪忍袋の緒が切れてしまう。


「カイ!

 いい加減にしてよね。

 さっきからずっと本ばっかり。

 ここからは本、禁止!!」


突然の出来事に呆気にとられるカイ。

それでも、すごい剣幕で怒るシリルの顔をみて、ハッとする。

急いで本を鞄の中へとしまう。


「うん、それでよろしい。

 今日は私と遊ぶんだから!」


シリルは満足そうに頷く。

さっきまでの怒った顔はすっかり消え、満面の笑顔になっていた。


「まだまだ日も高いから、ここからもっと楽しもう!」


そういうとシリルは再びカイの手を引っ張っていく。

カイも顔を上げて、街の景色や立ち寄る店の商品を目に刻みこむ。


『そう言えば、こんな感じで街を見て回るのいつ以来だろう』


このロストワードの古書を見つけてからは、夢中になって構築と実験を繰り返す日々だった。


「小さかった時にみんなでこうやって街で買い物したね」


笑顔でそう話すシリルにカイは苦笑いで返すしかなかった。

シリルが話すように小さい頃に家族と一緒に街へ出かけたのかもしれない。

ただその記憶はあまりなかった。


「次はこっち行こう」


手を引っ張られるカイの姿にシリルは幼い頃を思い出していた。


『あの頃もこんな感じだったかな……』


小さいカイの姿を思い出したシリルは優しい顔でカイを見つめていた。


次の店に入るとカイは並んでいたアクセサリーが目に入る。

思わず手に取って眺める。


『これ、魔道具かな。

 この部分に魔法陣が描かれている』


「何か気に入るものがありますか。

 これはアイスウォールの術式が埋め込まれておりまして……」


店の人が説明を始めると熱心に聞き始めるカイ。

シリルはまた魔術のことかとは思ったが、どんなきっかけでも周りの世界に興味を持ち始めたカイを見守っていた。


行く先々で見える世界は昔と違うように見えはじめたカイ。

道具や仕組み、物事をきちんと見ていなかったことに気づきはじめた。


『あぁ……

 僕はあまりにも周りを見ていなかった……

 もうちょっと興味を持たないといけないな』


そう思うと、少しでも気になるものがあると、店の人たちに聞いて回っていた。


その後も二人はいろいろと見て回っているとあっという間に夕方になっていた。


「そろそろ宿にもどろうっか?」


「うん、そうだね」


カイとシリルは赤く染まる空の下を宿へ向けて歩き出した。

少し歩いたところで、大勢の子供たちの集団に出くわした。

その先には神父と修道女の人たちが手を振って見送っていた。


「……あれ、何?」


その光景を不思議そうに見つめるカイ。


「えっ、何って……」


カイの言葉にビックリするシリル。


「?」


そのシリルの顔にカイは呆気にとられていた。

気を取り直したシリルは改めてこの光景の説明を始める。


「5歳になると教会に集まってお祝いをする洗礼式だよ。

 カイもやったでしょ?」


「そんなことあったっけ?」


「えーっ、覚えてないのー?

 一緒にやったんだよー」


カイが覚えていないことに少しだけ呆れているシリル。


「そう……なんだ……」


カイは一生懸命思い出そうとするも何も頭に浮かんでこない。


「この洗礼式はこの世を創造した神、マギア・オル・ヴェルス様のご加護を頂くための儀式だよ」


(マギア・オル・ヴェルス……。前世のゲームのボスみたいな名前だな)


そんな場違いなことを考えているカイを余所に、シリルは創造神のマギア・オル・ヴェルスについて事細かに話し始めた。


「……へぇ……」


懸命に話すシリルにカイも今までの無知を取り戻すかのように聞いていた。

シリルが一通り話し終わる頃には、子供たちもそれを見送る神父の姿もなくなっていた。


「思い出した?」


「う…うん」


思い出したわけではないが、とっさに返事をしてしまったカイ。

その返答に上機嫌になったシリルは


「今日はいっぱい遊んだね。

 楽しかった。

 また休みの日に出かけようね」


「そ……そうだね……」


カイは本を読みたい気持ちが抑えきれなかったのか、はっきりと答えられなかった。


「その時も、本は禁止だからね!」


シリルはカイの気持ちが分かったのか、最後に念押しは忘れていなかった。

第27話をお読みいただきありがとうございました!


怒ったり笑ったり、カイの手を引っ張って街を巡るシリルの健気さが詰まったお出かけ回でした!

幼い頃の思い出を懐かしむシリルと、前世の記憶ゆえに当時の記憶が薄く苦笑いするカイ。二人の距離感と、どこか優しく温かい空気に癒やされます。


「また休みの日に出かけようね。その時も、本は禁止だからね!」としっかり釘を刺されてしまったカイですが、次回は一体どうなってしまうのか……?


ほっこりした二人の時間を気に入っていただけた方は、ぜひブックマークやいいねで応援していただけると嬉しいです!

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