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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.002 { lostWord = adventure.Explore(kai,cyril); }

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26/26

function.026(“見落とした仕様”);

その後、探索を切り上げた三人は街へと帰ってきた。

何故かライコスは探索に入る前より元気になって、テンションも上がっている。


「なぁ、お前ら、あの時なんの魔術を使ったんだ?

 最近ちょっと膝とか腰とか重いなぁと思ってたんだけど……

 それもすっかり無くなったようで気分爽快だぜ!」


「カイがあの場で創ったの!

 どう、凄いでしょ!」


シリルは自分のことのように話して満足気な表情になっている。

その横でカイは浮かない顔をして、ずっと考え込んでいる。

会話が弾む二人の横をただひたすら黙って、宿まで歩いていった。


二人を送り届けたライコスは


「俺は明日、ちょっと野暮用があるんでな。

 悪いが探索は休みにしてくれ。

 続きは明後日の朝、また北門に集合でな」


別れ際にそう言うと、足早に帰っていった。

部屋に戻り、荷物を置いた二人は、宿の食堂で夕食を取り始めた。

カイはその時も食べてはいるものの、考え込んでいるようでずっと黙っていた。

その表情にシリルは心配で仕方がない。


「カイ、どうしたの?

 遺跡からずっと黙っているし……」


カイは食事の手を止めて顔をあげる。

シリルの不安そうな顔を見て、心配させないようにと悩んでいることを打ち明ける。


「うん……

 ちょっとね……

 あの魔術の挙動が気になって気になって……」


問題なく発動した魔術が気になっているようだ。

シリルはそれを不思議に感じた。


「???

 ライコスさん、ちゃんと治っていたよ?」


「……それはそうなんだけど……」


煮え切らない顔のカイを見て、シリルは気持ちの察しがついた。

こういう時のカイは、ロストワードのことで頭がいっぱいになっている。

話しかけても上の空の返事だけだ。

そっとしておこうと考えたシリルは


「わかった。

 カイが気になることがあるなら仕方ないけど、根をつめないでね」


と気遣いの言葉をかけて、その後は特に何も話をせずそのまま食事を取り終えた。


部屋に戻ると、いつものようにカイはロストワードの本を読み、シリルはライトリンクで家族と話をしていた。

その様子を伺いながらカイは今日見つけた古書のページをめくる。


『僕はどこで見落としをしたのだろう……』


いつもなら最初のページからゆっくりと読んでいくのだが、想定外の挙動が気になったカイは第3編のページを開いて読んでいった。


 第3編:外部因子インジェクションへの例外処理


 1. 概要

 本編では、生体オブジェクトの外部より注入、あるいは混入された、非正規の有害コード

 (各種毒素、麻痺因子、精神汚染ポインタ等)に対する防御、および排他制御について

 定義する。


 外部因子インジェクションが発生した場合、生体システムは速やかにこれを例外として

 捕捉し、生命維持器官に汚染が波及する前にエラーハンドリングを実行しなければ

 ならない。


 これらを適切に処理しない場合、オブジェクトの動作停止を引き起こす原因となる。


 3-1. 未知の有害プログラム(毒・麻痺因子)の検知と捕捉


先ほどはライコスのケガのこともあり、時間との戦いだった。

改めてしっかりと順番に読んでいく。

ゆっくりと丁寧に読み進めていくが、ライコスの時に起きた挙動については書かれていない。


『……やっぱりないな……

 僕の創ったプログラムのバグかな……』


だんだんと自信がなくなってきたカイ。

デトックスのロストワードを表示しようとウィンドウを開きかける。


『いやいや……

 まだ読み途中だし、中途半端はまた想定外の挙動に繋がってしまう。

 しっかりと読んでからにしよう』


顔をブルブルと横に振って、一息つくカイ。

後ろから、シリルの笑い声が聞こえてくる。


「フフフッ……。

 へぇー……」


その楽しそうな笑顔を見て、カイは少しだけ心を落ち着かせた。

そして、ウィンドウの操作を止め、改めて本に向かい読み進めていく。


 項1:動的確認

  術式発動後、まず対象の全魔力回路、および血流に対して、動的な確認を実行する。

  正常とは異なる因子、あるいは不正な引数を持つ外部因子を検知した場合、ただちに

  例外処理へと移行する。


 項2:汚染の隔離

  検知された未知の有害因子は、即座に暗号化された仮想領域内へ隔離される。


指先で一文字一文字を確認し、分からないところがあれば、また戻り一つ一つ確認していく。

今度は一語一句逃さぬようにと気迫がこもった作業を続けていた。

そして、第3編最後のページまで辿りついた。


『このページが最後みたいだけど……

 やっぱりあの時の挙動のこと、書いてないなぁ……』


不安に駆られつつも、最後のページを読んでいく。

すると、最後の最後の欄外に小さな文字を発見する。


 【補足:入力魔力が及ぼす動作について】

  本処理は、実行時にインジェクションされる魔力量に応じて、処理が自動的に

  拡張される仕様を持つ。


  定格入力時: 有害因子の検知、および隔離

  閾値超過時:注入された魔力量が規定値を超過した場合、これを緊急の『一括最適化』

        と判断する。その場合、有害因子の排除にとどまらず対象オブジェクトに

        蓄積された全不調(疲労、老廃物、経年劣化ダメージ)を強制リフレッ

        シュする。


「あーっ」


思わず大きい声をあげてしまうカイ。

それにビックリしたシリルが


「どうしたの?」


心配そうにカイの方へ振り向く。

画面越しに見えるエスメラルダも驚いた表情でカイの方へと視線を向けていた。


「ううん……

 何でもないよ。

 そんなに大したことじゃないから。

 ほら、エスメラルダさんも気にしているから、そのまま話していて」


カイも振り向き笑顔になって、シリルを安心させようとした。


「……

 それならいいけど。

 私に手伝えることがあったら言ってね」


シリルはまた画面の方へと振り向くと家族との会話を始めていた。

その様子を見ていたカイは改めて本へと視線を送る。


『何これ……

 目立たないように小さな文字で書いてある……

 ソフトウェアの利用規約みたいだ……

 はぁ……

 これじゃ、あの状況なら見逃すか……』


何か一気に疲労感がこみ上げてくる。


『これは仕様だったのか……

 それならあの動きも説明がつく』


それと同時に自分のミスじゃなかった安堵感も広がってきた。


『しかし、この仕様……

 こんな魔力量を持つ人なんていないだろうと、遊び心で入れたんじゃないか。

 それとも、昔の人はシリルぐらいの魔力量を持つ人も多かったのかな……』


改めてこの仕様を見つつ、苦笑いしか出てこないカイだった。

第26話をお読みいただき、ありがとうございました!


「解毒だけのはずが、なぜか膝や腰の痛みまで治って気分爽快なライコスさん」と、「どこで記述ミス(バグ)をしたんだ……」と生きた心地がしなかったカイ。

原因を探して古書を読み破る勢いで調査した結果……見つかったのはページの端っこに小さく書かれた【過剰魔力による強制リフレッシュ仕様】でした!


まさに「ソフトウェアの利用規約の隅っこに書いてあるやつ」であり、シリルの規格外な魔力量が引き起こしたまさかの「隠し仕様(隠し機能)」の発動。

自分のミスではなかったことに安心しつつも、仕様書のトラップに脱力するカイでした。


「利用規約の罠、あるあるすぎる!」「ライコスさん、ちゃっかり全身リフレッシュされてて草」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価、いいねで応援していただけると励みになります!

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