function.023(“痕跡”);
ライコスと北門で合流した二人は、ライコスと共に再び遺跡の探索を開始した。
「今日はこっちへ行くぞ」
「はい!」
さっきからずっとウキウキのシリルはスキップをしている。
「なぁ、なんかあったのか、アイツ?」
シリルの態度に疑問を持ったライコス。
親指でシリルを指しながら、小さな声でカイに確認する。
「……いや……何も……
昨日……見つけた……古書の……ロストワードの……
試し……するから……かな……」
たどたどしく答えるカイ。
知り合って間もないライコスにはまだまだ慣れない。
「おっ、早速試すんか。
そりゃ、俺も楽しみだな」
「……僕も……楽しみです……」
前世でも自分が作った機能がうまく動いた時の喜びは変えがたいものがあった。
その時の気持ちを思い出したカイの顔は少しだけ緩んだ。
「なーに、にやけてるんだよ」
ライコスはカイの頭を抱え込むと、手をグリグリと押し当てた。
「……っ」
前を進んでいたシリルはカイの小さなうめき声を聞き逃さなかった。
「ライコスさん!
カイをいじめないで!」
両手を腰に置いて顔を膨らませてライコスの前に立っている。
たれている目じりが少しだけ上がっているが、あまり怒っているようには見えない。
「へいへい」
パッとカイから手を離すと両手を挙げて降参のポーズをとった。
シリルはカイの手を取り引き寄せるとギュッと抱きしめる。
「朝から見せつけてくれるなぁ、お前ら」
ニヤニヤした顔で二人を見るライコスに
「わ……私は、カイを、守っているだけです~」
そう言いながら、シリルは顔を赤らめてバシバシと背中を叩いていた。
「俺が痛いって」
ライコスは顔をしかめながら、少し距離をおいた。
「さぁてと、そろそろ切り替えて……
お前らさ、初級とはいえさ、遺跡なんだから、油断するなよ」
急に真面目なモードになったライコスに
『お前がそれを言うのか』
と、カイは心の中でツッコんでいた。
そんなやりとりをしながら、三人は遺跡の奥へと進んでいく。
このメタキリタスの遺跡は魔物の強さもそれほど強くない。
そのこともあり、冒険を始めて間もない冒険者たちには人気の遺跡だ。
「人が多いね」
シリルは見かけたパーティーが多いことに驚いていた。
「うん……
これだと今はちょっと試すのは厳しいね」
カイもせっかく創った魔術を試せる機会が無く、残念で仕方がない。
「こっちへ行けば、あまり人はいないはずだ」
この遺跡を熟知しているライコスは、左の方を指さすとそちらへと向かっていく。
カイとシリルも後ろをついていった。
しばらく歩くと、周りにいた人影がまばらになっていった。
「なんでこっちには人がいないんですか?」
シリルは不思議に思ったのか、ライコスに訊ねる。
「あぁ、こっちはちょっとだけ、魔物が強いからな」
ライコスは誇ったような顔をする。
『さすが、ライコスさんだ。
この遺跡をどれだけ探索したのだろう』
カイはライコスの凄さに、素直に感心せざるを得なかった。
簡単そうに進んでいるのも、この遺跡を何十回、何百回と探索した結果なのだろう。
普段の様子からはSランクの威厳を感じない。
それでも、クレアやエスメラルダに信頼されているのは、こういう努力をしてきた賜物なのかもしれない。
「この辺りなら、誰もいなさそうだな。
ちょうどあそこにウィスプがいるから試したらどうだ?」
人気が無い部屋の一角に、青白い炎がいくつか揺れ動いていた。
「やった!
ようやくカイの魔術が試せる!」
一歩前へ出たシリルがカイの創った魔術を試そうとした。
しかし、カイが制止した。
「シリル、今回は僕も扱える属性だから……」
「そうだったね。
ごめん、忘れていた」
カイが扱える属性の魔術はカイが最初の確認をすることになっていた。
慎重に創っているとはいえ、バグが潜んでいる可能性もあり、危険を伴うこともある。
カイが試せるものは、極力、カイが試すことにしていた。
カイを先頭にして部屋に入るとすかさず魔術を詠唱した。
「デュアルアイスランス」
カイの目の前に二つの魔法陣が同時に生成され、緑と青の光が交差する。
二つの光が魔法陣を満たすと細長い氷の槍が同時に生成されはじめる。
「デバッガ」
その二つの魔法陣の傍らでカイは別の魔法陣を重ね合わせるように展開する。
重なる魔法陣からカイの目の前にロストワードが広がっていく。
そのロストワードの海を眺めながら、データのように流れていく魔力を事細かに追っていく。
『ここまでは問題なく動作している』
ほどなく、カイの背丈ほどの氷の槍が魔法陣の前に現れると、勢いよく飛び出してウィスプへ向かっていった。
つぶさに魔力の流れを観察していたカイだったが、考えていた通りにロストワードの上を走っていく様を見て、満足そうな笑みを浮かべた。
『よし、最後まで想定の動きだった』
放たれた2本の槍が同時にウィスプに刺さると、そこから氷が広がる。
瞬時に氷で全身を覆われたウィスプはその場で砕け散った。
「な……なんなんだ、おい!
今、二つ同時に魔法陣出てなかったか?」
今まで見たことがない魔術にライコスが驚いて腰を抜かしている。
「これが……昨日発見した古書に書かれていた……ことです」
「どう?
すごいでしょ!」
カイが説明をしようとしたが、被せるようにシリルが出てきてドヤ顔をする。
「ねぇ、カイ。
今の、問題なかったよね!?
次は私、私!」
何か言いたそうなカイを横目にシリルはすぐにも魔術を使いそうな勢いだ。
慌ててカイはデバッガの準備をする。
「デュアルアイスランス」
「デバッガ」
シリルの詠唱と同時に、カイもデバッガの詠唱を重ねた。
シリルの手元に二つの魔法陣が展開されると、カイもデバッガの魔法陣を重ねていく。
『相変わらず膨大な魔力と、尋常ではない演算速度だ』
カイの目の前に広がるシリルのそれは膨大な魔力の光と尋常でない速さで処理されていくロストワードだった。
その速度のせいか魔力のせいかは分からないが、時々黄色く点滅する光が見え隠れはしたものの、概ねはカイの想定内での動作にはなっていた。
『あの黄色の光……
前にもあったな……
でも、今回も何かおかしいところがある訳でもない……』
見逃さないようにと細心の注意をして、その後も見守っていたが、あの黄色の光は現れなかった。
その頃、シリルの目の前には二つの3メートル以上の大きな氷の槍が一瞬で現れた。
その槍の太さは直径が50センチほどにもなっていた。
大きくて太い槍はあっという間に放たれるとウィスプ5体を押しつぶし、部屋の壁にぶっささる。
そこから氷が瞬く間に部屋中に広がり、部屋全体が氷で覆われてしまった。
「すげー……」
危うく氷に飲まれそうになったライコスは慌てて部屋を出ていった。
撃った本人であるシリルも氷が覆われる前に避難した。
カイもデバッグを止めて、一緒に部屋を出て無事だった。
「またやり過ぎちゃったかな?」
シリルがてへっと笑いながら舌を出す。
「ちょっとね……」
魔力が膨大なシリルが撃てばこうなることは概ね理解しているカイは、落ち着いて答えていた。
しかし、ライコスは
「ちょっとじゃねーよ、これ」
改めて氷漬けの部屋を覗いて、驚きを隠せない様子だった。
「なぁ、これ、このままで大丈夫か?」
この世界の魔術にない氷魔術の痕跡を心配するライコスに
「……魔術の氷……なので……しばらくしたら……消えます」
カイはしばらくしたら無くなることを伝えた。
「まぁ、それならいいのかな。
それにしても、これ、すげーな、どうなっているんだ?」
氷をカチカチと叩きながらライコスはカイに訊ねた。
「……それは……また後で……お願いします。
それよりか、もう一つの目的の……」
「あぁ、別の場所の本探しだったな。
こんなすげーのがバンバン出来るんだったら、
面白そうだし、もっといろいろ出来るようにしてやらねーとな」
三人はその部屋を後にして、さらに奥へと向かっていった。
――それから数時間後
ある冒険者パーティーが探索をしていた。
「何、これ……」
通りかかった部屋の中が氷で覆われていた。
「ここって凍るぐらい寒いところだっけ?」
「いや、この地方は暖かい方だから、氷なんて滅多に出来ないよ」
「じゃあ、これはいったい……」
「ここで、何があったんだ……」
第23話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに実装された二重詠唱。カイの2本同時も素晴らしい完成度でしたが、シリルが放つと直径50センチ、長さ3メートルの巨大氷槍が部屋ごと氷漬けにするという大惨事(仕様外の超高火力)に……(笑)。これには流石の元Sランク・ライコスさんも腰を抜かすしかありませんね。
しかし、カイのデバッガに一瞬映った「黄色の点滅光」が少し気になります。今のところは正常に動いているようですが……?
そしてラスト、誰もいないはずの部屋に残されたあまりにも不自然な氷の痕跡。これが街の冒険者たちに目撃されてしまい──。
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