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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.002 { lostWord = adventure.Explore(kai,cyril); }

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22/26

function.022(“新しい技術”);

賑やかに話が弾むシリルたちを横目にカイは新しく手に入れた古書を読み進めていた。


表紙には


 多重……術への手引き:一魂に……ける複数術……の同時紡織とその調停……ついて


と書いてあった。

古い書物ということや長年遺跡に放置されていたこともあり一部かすれている部分もある。


(いっこん?

 ぼうしょく?

 なんか技術書っぽくないタイトルだなぁ……

 あの場でパラパラと見た時は、確かにロストワードが記載されていたのだが……

 これは作者の趣味かな)


タイトルに疑問を持ちつつ、次のページをめくる。


 【目次】

 第一章:単一紡織の限界と、精神の偏り(かたより)

 第二章:精神の「分魂わけみたま」、および並行領域の開拓

 第三章:二つの術式が同時に同じ経路を奪い合う『衝突』とその回避

 第四章:同時に放つ術式と、時差を設ける術式、および複合現象への道


ここを見ても作者の想いというか趣味というか……

技術的なことを精神的なことに置き換えているのだろう。

思わず苦笑いが出る。


 【はじめに(序文)】

 世の多くの魔術師は、一つの術式を編み終えてからでなければ、次の術式を紡ぐことが

 できない。火を放ち、その後に風を呼ぶ。彼らはそれを「世界の絶対たる理」と信じ込

 んでいる。


このことは今の魔術にも息づいている。

魔術を同時に発動することは出来ない。

どんなに偉大な魔術師も、早いだけで同時発動できない。

そう思いながら、カイは読み進める。

相変わらずシリルとライコスは騒がしくライトリンクで話をしている。


 だがそれは、理などではない。単に彼らの精神が、最初の一歩によって全て占有され、

 硬直しているという「未熟な仕様」に過ぎない。


この文を見つけたカイはロストワードを発見してからずっと疑問に感じていたことを思い出す。

今まで見つけたロストワードの古書はどれも順次処理しか書かれていなかった。

しかし、読めば読むほど前世のプログラム言語に似た内容が多かった。

これなら絶対にスレッドやフォーク、マルチプロセスといった並列処理が存在するはずだと考えていた。

それでも仕様が分からない以上、リスクは大きいため、今までは手を出してこなかった。


だが、この本は『順次処理は世界の理ではない』とはっきり断言していた。

その言葉を見たカイの好奇心は止まらなかった。


別の机で話を続けているシリルたち。

ライトリンクの向こうからは、またエスメラルダの厳しい声が聞こえてきた。

ライコスがまた何かやらかしたのだろうか。

その様子も気になりはしたが、先が気になるカイは本を読み進めた。


 本書が教えるのは、一人の人間の中に、同時に稼働する複数の『臨時の精神(分魂)』を

 立ち上げる術である。この並行なる紡織が叶えば、術式間のあらゆる隙間は消滅する。


 ただし、初学者に厳しく警告する。

 二つの異なる魔術が、同時に、同じ精神の通り道を奪い合えば、術式は即座に崩壊し、

 術者の魂は永続的に硬直して二度と戻らなくなるだろう。

 同時に二つの火を灯すということは、常にその『衝突』を御する過酷な調停の戦い

 なのである。


 これより、未知なる多重心術の深淵へ歩みを進める、恐れ知らずの若き紡ぎ手たちへ、

 その基礎的な理を公開する――


(やっぱりこの本は並列処理のことを書いているようだ。

 これをしっかりと読み解けば、二重詠唱……だけじゃない。

 多重詠唱も可能になる)


ワクワクが止まらないカイは次から次へとページを読み進めていった。

シリルの笑い声もライコスのおどけた声も集中しているカイには届かない。

そして、その分厚い本を一気に読み切ってしまったのだった。


(なるほど……

 多重心術とはスレッドのことだろう。

 分魂はフォークやマルチプロセスのことかもしれないが、まだ読み解く必要がありそう。


 少なくとも、複数の魔術を同時に走らせる仕組みは存在する。

 それだけは間違いない。


 多重心術では魔力の共有が可能で負担が少ない。


 第三章には『衝突』や『調停』について書かれていた。

 たぶん排他管理のことだと思うけど……


 この先は、もう少し読み込んで確認したいな……)


いろいろなやりたいこと、したいことの妄想が湧き出るカイはニヤニヤが止まらない。

その顔に気づいたライコスが


「そんな訳の分からない本読んで何が楽しいんだが……

 面白い顔しているぞ」


と茶々を入れてきた。

その言葉にハッとしたカイは顔を真っ赤にした。


「はっはっはっはっ。

 何かそんな恥ずかしいこと考えていたのか?

 その本はエロいことでも書いてあるんか?」


その言葉を聞いたシリルも顔を真っ赤にして怒り始めた。


「ライコスさん!

 カイはそんなこと考えてませんよ!」


映像の向こうのエスメラルダやクレアにも聞こえたのか


『ライコス!』


二人の怒声が部屋の中に響きわたった。


――翌朝


二人はまた北門へと向かっていた。

昨晩ライトリンクでの話が終わった後、ライコスと話をして、またすぐに遺跡へ行くことにした。


カイはあくびを押さえていたが、目からは涙が滲んでいた。


「カイ、朝方まで何していたの?

 遺跡に行くって話になったんだから、しっかり寝て体調整えないと」


シリルは母親のような小言を言い始める。


「ごめん……

 せっかく遺跡へ行くなら、新しいことを試したくなって。

 新しい魔術を作っていたから……」


カイはライコスが出ていた後も、本を繰り返し読み、試作の魔術を作っていた。

ライコスに隠す必要もなくなり、大手を振ってロストワードを使えることもあって、新しいことを試したくなっていたのだった。


「まぁ、カイのことだから、新しい古書見つけてそうなるとは思っていたけど。

 でも、本当にしっかり休まないと、いつか倒れるよ」


心配そうに顔を覗き込んむシリルに、カイは申し訳なさを感じ


「うん、ごめん。

 気をつけるよ」


と素直に謝るのだった。

シリルはカイがしっかりと謝ってくれたことが嬉しかった。

その憂いも消えたからか、新しい魔術の事が気になり始める。


「そう言えば新しい魔術って、昨日の本のこと?」


「うん、そう。

 今までの魔術って、単発で発動していたよね」


「そうだね。

 それってお母さんたちも言っていたやつだよね。

 複数同時には撃てないって」


エスメラルダが二人に教えてくれた魔術の基礎の中にその話があったのを思い出す。


「今までの常識だとそうだった。

 でも、今回見つけた本には、それが出来るって書いてあったんだ」


新しい本の素晴らしさを切々と語り始めるカイ。

シリルは一生懸命に話すカイの言葉に耳を傾けた。


「えーっ、何それ? すごいねー!」


そして驚きのあまり、感嘆の声を上げてしまう。


「まずは試しだから……

 とりあえず二つ同時に発動する魔術を創ってみた。

 アイスランスで」


照れくさそうな顔をして謙遜するカイの両手をシリルはガシッと掴み、顔を寄せる。


「それって、今まで一本だった氷の槍が二本出るの?」


「そ……そうなるかな。

 今日どこかで試せればいいんだけど……」


カイはシリルの顔が近くて恥ずかしさのあまり顔を背けていた。


「うん、絶対試したい」


カイとまた新しいことが出来ると思うと満面の笑顔になるシリルだった。

第22話をお読みいただき、ありがとうございました!


ついに見つかりました、前世のエンジニアなら誰もが知っている「並列処理マルチスレッド」の技術書……ではなく古書!

今の魔術界の「同時発動は不可能」という常識を「未熟な仕様」と言い切る作者、最高にロックで技術者していますね(笑)。

カイのニヤニヤが止まらない気持ちもよく分かります。


ライコスさんの最低な(?)茶化しのせいで実家総出で怒られていましたが、翌朝のシリルとの距離感は相変わらずごちそうさまです。


ついに「二重詠唱(アイスランス2本同時)」の試作パッチを当てたカイ。果たして遺跡でのテスト運用の結果は……!?

面白い、続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価、いいねで応援していただけると開発(執筆)の大きなエネルギーになります!

次回もお楽しみに!

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