function.017(“Sランク冒険者の実力”);
メタキリタスの遺跡は初級の冒険者には人気だという。
必然的に出てくる魔物はそこまで強くない。
Sランクのライコスにとってはそこまで苦戦することはない。
しかも自分の庭でもあるメタキリタスの遺跡である。
罠の位置も魔物の出現も熟知していた。
「そこ、気をつけろよ。
毒針の罠があるぞ」
「えっ!」
踏み出そうとしていたシリルはビックリして後ずさりする。
カイもシリルの後ろでライコスを観察しながら、慎重に歩を進める。
『どこを見て、罠の有り無しを見極めているんだろう。
それとも頭に入っているのか』
見ていないようできちんと確認している。
余裕があるように見えても、油断はしていない。
出てくる魔物もカイたちが身構える前に倒していく。
魔術を出そうにも出すタイミングが全くない。
『速い……
これがSランク冒険者の実力か……』
まだ遺跡に入ったばかりと言うこともあるが、魔物はそこまで強くはない。
それでもあっという間に倒していくライコス。
それを見たシリルも
「わーっ、すごーい!
さすがSランク!」
感嘆の声をあげている。
それに気分を良くしたライコスは、図に乗って魔物を次から次へと倒していった。
『子供か……この人は……
これじゃ、全然僕たちの出番がないし、戦闘経験が積めない』
カイは調子にのるライコスを見つめながら、ため息をついて苦笑いをする。
その様子は子を見守る親のようだった。
しばらく歩いたところで、広めの部屋のような空間に着いた。
「この辺りで休憩とするか」
ライコスは疲れたーという感じでペタッと床に座り込んだ。
「私たちは全然疲れてないですよ」
シリルは笑ってそう答えた。
隣にいたカイも大きく頷いた。
「そうか?」
「だって、ライコスさんが全部倒しちゃってるし……
私たちの出番、全くなくって。
これじゃ、この遺跡に来た意味の半分ないですよ」
「あんたら、ここには金を稼ぎに来たんじゃないのか?」
ライコスは少し目を泳がせながら、少し抑揚がない喋り方をしていた。
それをカイは見逃さなかった。
『あの態度……
何か僕たちのことを探っているのか……』
そこから、より一層ライコスのことを観察するようになっていった。
「そんな訳ないですよ。
半分は自分たちが強くなるためです」
「もう半分は?」
ライコスはバッと身を乗り出してカイたちの目的を聞き出そうとした。
『僕たちの目的が気になるのか……何故に……』
カイはライコスの行動に疑問を持ち始めた。
「もう半分は……内緒です!」
シリルはペロッと舌をだしてけむに巻いた。
「ちっ……」
ライコスは聞き出すことが出来ずにわずかに舌打ちした。
その音を聞き逃さなかったカイは
『やっぱり僕たちの目的を探ろうとしている。
より警戒をしておいた方がいいかも』
と改めて思い直した。
「そういえばさ、ここの遺跡もいろいろな宝が見つかっているんだけどさ」
カイが警戒を強めたことに感づいたのか、ライコスは話題を変えた。
「やっぱり、宝石の類や貴金属は人気で、みんな持ち帰る。
金になるからな。
それに引き換え、本とか紙みたいなものもあるんだが……
何を書いてあるか分からないし、金にもならないから、そのままさ」
本という言葉に反応したカイはシリルの服の裾をひっぱる。
そのことに気づいたシリルは首を縦に振りながら、ライコスに聞き始めた。
「その本とか紙ってどこにあるの?
ちょっとそういう物に興味がある人が居てね。
もし、あればなんでもいいから持ってきて欲しいって言われているの」
「さぁな……
もう少し進めばあるんじゃないか。
それにしてもそんなものを欲しがる奴がいるとはねぇ。
とんだ変わり者だ」
そう言った直後にカイはライコスと目があったように感じた。
カイは恥ずかしさもあって目線を逸らした。
「変わり者って……
そんなことないですよ!
たぶん……」
シリルはフォローしたつもりだったが
『それ、フォローになってないよ』
カイはより気恥ずかしくなっていた。
「あっ、そうそう。
魔物の方は悪かったな。
ここから先は最低限にするわ」
そういうと、ライコスは立ち上がって、二人の背中を押した。
「お前らが前に行けや。
罠は教えるから気にするな」
それからはカイとシリルが前を行き、魔物たちと相まみえていく。
「ウインドカッター!」
カイは物陰から出てきた魔物を怯ませると
「ファイアボール!」
シリルが追い打ちをかけて撃退する。
母たちと一緒に積み重ねた経験を活かした見事な連携だった。
「ひゅーっ、やるね、お二人さん」
それを見ていたライコスも感心するばかりだった。
ここの魔物は二人にとってはライコスのように一撃ではなかなか倒せないものばかり。
ロストワードであれば大丈夫なのだが、ライコスの前では使えない。
そういうこともあり、二人は既存の魔法で連携していった。
また狭いところでの戦闘は皆無だった二人にとっては、逃げ場がなくならないように、追い込まれないようにと考えながら戦ったのは良い経験となっていく。
それを教えてくれたのもライコスだった。
足りない部分を的確に指示し、時にはフォローを入れながら、二人を導いていく。
「たしかこの辺りに本が散乱していた部屋があったはずだ」
少し先に部屋の入口のようなところが見えてきた。
入口にもボロボロになった本が散乱していた。
入口に近づいたカイはそれを拾うと、パラパラとページをめくった。
『これは違うな……』
カイが持っている5冊のロストワードの古書。
これらは全て基礎的な内容のものだった。
いわゆるシリアルに動くロジックが中心だった。
それに、扱う属性も火・水・土・風の基本属性のみしか書かれていなかった。
『ここで他の属性……
特に回復系を司る光属性があれば今後の旅も助かるんだけどな。
そう都合よくいかないか』
シリルも部屋に入って無造作に散らばる本を拾っては中身を読み始めた。
「うーん……
これは、違うかな」
そういうと、持っていた本をポイっと投げつけ、また違う本を手にする。
ライコスは二人の様子を見つつ、入口に立ち、魔物への警戒をしていた。
「なんだか知らないが、こっちは俺に任せておけ。
必要な本があるといいな」
この部屋だけでも数十冊の本が散らばっていた。
カイはそれを丁寧に一つ一つ確認しては、積み上げていった。
一方、シリルは確認してはあっちにポイ、こっちにポイと放り投げていた。
「ん……
あれ、これさっき見た気がする」
何度か一度確認した本を見返しているようだった。
近くの床に散らばった本を確認し終わったシリルは、棚に置いてある本に手を伸ばした。
その時少し何かが光ったような気がしたが、気にせず本を見ていた。
「……
ねぇ、カイ!
これ、そうじゃない?」
シリルはカイの方を向くと、小さくジャンプしながら手招きをする。
カイも少しだけ小走りになって、シリルの方へ向かった。
そして本を受け取り、ページをめくり始める。
魔術言語開発の実践(応用編)
『実践?
それに応用……
今まで見てきた古書とはちょっと違う感じがする。
どんなことが書いてあるのだろう』
高ぶる気持ちが抑えきれないカイは次から次へとページを捲っていく。
そんなカイの様子を見て、シリルも嬉しくなってきた。
「ねぇ、どう?
どう?
私が見つけたんだよ!」
後ろからカイの肩を掴むと前後左右にブンブンと揺らす。
「そんなことしたら、読めないって……」
二人の仲睦まじい姿を入口付近から見ていたライコスも自然と笑みがこぼれている。
「いいものが見つかったのか?
俺にはさっぱりわからな……」
途中で言葉を止めたライコスの表情が険しくなる。
ガガガガガガ――
その部屋の奥から轟音が響いたかと思うと、壁が崩れだし、奥から今まで見たことない魔物が2匹現れた。
「こいつは……」
第17話をお読みいただきありがとうございました!
ついに始まったメタキリタス遺跡の探索。今回はSランク冒険者ライコスの「性能テスト(実力披露)」の回でした。
【今回のエンジニア的みどころ】
チート級の先行デプロイ(ライコスの無双)
罠の位置も魔物の出現も完全把握し、カイたちの出番を奪うほど爆速で処理していくライコス。しかし「褒められて図に乗る」という、仕様書にないポンコツなバグ(挙動)が露呈してカイに苦笑される始末。
目的隠蔽のセキュリティ(カイの警戒)
会話の端々から「僕たちの目的を探っている」と察知したカイ。エンジニアとしての鋭い観察眼で、ライコスへの警戒レベル(セキュリティ制限)を引き上げます。
新規ライブラリのパッチ(新しい古書)
シリルが見つけたのは、これまでの基礎編とは一線を画す古書――『魔術言語開発の実践(応用編)』。応用、そしてマルチスレッド(複合魔術)への足がかりになりそうな不穏なタイトルに、カイの技術者魂が踊ります。
しかし、新書ドロップの余韻に浸る間もなく、部屋の奥の「未定義領域」から壁を崩して想定外の魔物がポップ(出現)してしまい――!?
この不穏な挙動の魔物は一体何なのか。そしてロストワードを封印されたカイとシリルはどう立ち向かうのか。
次回、第18話をどうぞお楽しみに!




