function.016(“初の遺跡探索”);
宿に戻った二人は夕食の後、部屋に戻った。
シリルはライトリンクでエスメラルダと話をしはじめていた。
「明日、朝からメタキリタスの遺跡に行くことになったの」
帰ってからもワクワクが止まっていないシリルは楽し気に話している。
『そうなの?
意外と早かったわね。
護衛の方は見つかったの?』
映像越しに見えるエスメラルダは少し心配そうな目でシリルを見ていた。
「うん。
それがね、凄い人なんだよ。
Sランクの人で、ライコスさんって言うんだ。
銀狼族で、なんかものすごく強そうな人だった」
その言葉を聞いたエスメラルダの顔が明るくなった。
『そっ……そうなのね。
Sランクなんて……凄いじゃない。
よく……そんな人が依頼を受けてくれたね』
少しよそよそしい感じになったエスメラルダを横目で見ていたカイは不思議に感じた。
『……エスメラルダさん、なんで慌てたような感じになっているのだろう』
カイは、エスメラルダのことが気になったが、マジマジと見る訳にはいかないと感じた。
そのままちらちらと見ながら、ロストワードの魔術を調整することにした。
「うーん……
何か知らないけど、面白そうだからって言っていたよ。
それとたまには若い子と組むのも~とかも話してたかな」
『ぷっ……
あら、ごめんなさい。
ちょっと、あなた何するのよ、見えないところで何しているのよ!』
エスメラルダが噴き出してわらっていた。
シリルの言葉に反応したかと思ったが、どうやら見えないところにラルフが居て何かをしていたようだ。
『Sランクの方であれば安心して任せられるわね』
気を取り直したエスメラルダの言葉にはホッとした気持ちが現れていた。
その後はとりとめもない話をして盛り上がっていた。
ただ時間もだいぶ経ったこともあり、エスメラルダが
『そろそろ、明日に備えなさい』
ということで、ライトリンクを切ることになった。
ライトリンクを切った後も、シリルはまだまだずっと笑顔のままだった。
「明日、楽しみだね」
「うん、そうだね」
ただカイはライコスが同行する真意が分からずにいた。
『相手の事がわからない以上、こちらの素性を明かすのも最低限にしないと』
用心深く準備することに無駄はないだろうと考えたカイはシリルにこう伝えた。
「あのさ、明日の遺跡探索だけど……
しばらくは、ロストワードは禁止で行こう」
「そうなの?
なんで?」
疑問を投げ返すシリルにカイは
「うん……
まだライコスさんのことがよくわからないから。
ロストワードを見せていい人かどうかも判断つかないし」
ライコスがまだ信用出来ないことを素直に伝えた。
「……心配することないとは思うけど、カイがそう言うなら」
シリルはカイの慎重な言葉に疑問を持ちつつも、素直に従った。
「ありがとう。
普通の魔術は使えるよね?」
「うん、慌てなければ大丈夫。
だいぶ使いこなせるように魔力調整は出来るようになったよ」
シリルも以前は使えなかった既存の魔術を魔力を小さく流すことを覚えて使えるようにはなっていた。
「ただ、疲れるんだよね。
目一杯魔力が使えないから」
「ごめん。
早くライコスさんのことを見極めるよ」
遺跡探索の道中に会話を重ねていけば、おのずと理解が進むだろうとカイは考えていた。
遺跡は他のロストワードの古書を探すこともそうだが、ロストワードの実戦の場でもある。
実戦を積み重ねたいのに、使えないのも本末転倒である。
『まずは様子を見つつ、信頼できそうな人物なら、ロストワードを使おう』
いろいろなことを考え始めてしまったカイはなかなかと寝付けずにいた。
ようやく寝れたと感じたのは外が薄明になったころだった。
――翌朝
「ふぁーーーー」
大きなあくびをするカイにシリルは
「カイも一緒?
私もなかなか眠れなくてさぁー」
昨日からずっと続いているシリルの笑顔。
無邪気で可愛らしいその顔を見ていると、眠気も吹っ飛んでいく。
それでも、その笑顔を見ていると
『遠足前の子供だな』
そう思っていた。
それだけ楽しみなのだろうけど、大丈夫かなと心配になっていた。
しばらく歩くと北門に到着した。
ライコスはもう待っていた。
「こっちだ、お二人さん」
カイとシリルを見つけたライコスは二人に声を掛ける。
「ライコスさん、おはようございます!」
シリルは大きく手を振りながらライコスの元へ走っていく。
カイはペコっと頭を下げ、シリルの後を歩いていった。
「今日はよろしくお願いします!」
ライコスの前に立ったシリルは深々とお辞儀をした。
カイもシリルに併せて軽く頭を下げていた。
「おっ、よろしくな!
それにしても相変わらずにーちゃんは無口だな」
愛想よくシリルに挨拶をすると返す刀でカイを弄りはじめた。
『ライコスという人は誰にでも同じように接するのか。
今は一人で冒険者をやっていると聞いたけど、
人と接することが嫌いという訳ではなさそうだ』
カイは目深に被ったフード越しにライコスを観察し始めていた。
「ところで、今回行くメタキリタスの遺跡なんですが……」
シリルはカイが嫌がっているように見えたので、気を利かせてライコスに遺跡について尋ね始める。
「まぁ、ある程度探索つくされたところだよ。
値がつくような宝なんかはもうないな。
それでも時折隠し部屋なんかも見つかったりするし、
珍しい魔物も出ることがあるから、初級の冒険者には人気だな」
「そうなんですね。
じゃ、ライコスさんにとっては楽勝ですね!
来てもらえて安心です」
「ま……まあな」
少し照れたような笑いをするライコスは鼻を親指と人差し指で触っていた。
その様子をつぶさに観察していたカイ。
『あれは癖なのか、それとも何か隠し事があるのか……
そもそも護衛の報酬はそう多くない。
遺跡も初心者向け。
本当にSランクの冒険者が来てもなんのメリットもないはずなのだが……』
会話の様子からもまだまだ真意を測りかねると感じていた。
なんとかライコスの目的を探らなければならないと、遺跡までの道中も観察を続けていたが、特にヒントになるようなことは見つからなかった。
シリルも
「なんで私たちの護衛を引き受けてくれたんですか?」
とド直球な質問を投げかけていたが、前の時と変わらない返答だった。
その時もライコスは鼻を親指と人差し指で触っていたので、これは何か隠すときの癖なのかもしれないと、カイは感じていた。
しばらく移動をすると、遺跡の入口に辿りついた。
「ここがメタキリタスの遺跡だ。
お二人さんは、遺跡探索は初めてか?」
入口に入る前にライコスが二人に確認をする。
「はい。
地元では大人と魔物討伐はしていましたが、遺跡は初めてです」
ニコニコしながらシリルが答えている。
「そうか。
親……じゃなくて大人と魔物を屠っていたなら、ある程度は大丈夫かな。
ただ通路内や部屋だと動ける範囲が限られるからな。
外とは同じようにいかないから注意しろよ」
ライコスが言い直した言葉にカイは少し違和感を覚えた。
『今、親って言わなかったかな。
シリルは大人としか言ってないはずなのに……』
さらに慎重になるカイとは反対に
「わかりました!」
シリルは手を挙げて、まるで先生を信頼している小学生のように大きな声で返事をしていた。
「それじゃ、まずはお前らに合わせて慎重に進むからな。
俺の後についてこいよ」
いよいよこれから二人にとって初めての遺跡探索が始まるのだった。
第16話をお読みいただきありがとうございます!
いよいよ「メタキリタスの遺跡」の入り口に到達しました。
【今回のデバッグ・ログ】
今回は、カイの慎重さが光るエピソードでした。
得体の知れないSランク冒険者・ライコスに対し、カイが下した判断は「ロストワードの実行禁止」。
手の内を明かさない慎重な立ち回りは、まさに石橋を叩いて渡るエンジニアそのものですね。
一方で、通信魔法越しのエスメラルダさんの「挙動」にも怪しいノイズが……。
「Sランクなら安心ね」という言葉の裏にある、何かを知っているような含み。
ライコスがふと漏らした「親……」という失言。
どうやらこの遺跡探索、単なる初心者向けの遠足では済まない「裏の仕様」が隠されていそうです。
次回、第17話はいよいよ遺跡内部での実戦です!
ライコスの実力とは? そしてカイは「実行ロック」を解除するのか?
物語が大きく動き出す次回の更新も、どうぞお楽しみに!




