出会い
初めて受けたクエストは、思っていたよりもあっさり終わった。
指定された場所で薬草を採取し、それを届けるだけ。危険もなく、戦うこともなかった。
「……終わったな」
依頼主に袋を渡しながら、ユノがぽつりと呟く。
「うん。ちょっと拍子抜けかも」
レナも苦笑する。それでも、悪い気はしなかった。
ギルドに戻る。中は相変わらず賑やかで、さっきよりも人が増えているように感じた。
「お疲れ様でした」
受付で報告を済ませる。簡単な確認のあと、小さな袋が差し出された。
「こちらが報酬になります」
受け取る。
中には数枚の硬貨。
少ない。でも
「……自分で稼いだんだな」
思わずそう口に出る。レナも同じことを感じたのか、小さくうなずいた。
「うん。なんか……ちょっと嬉しい」
ギルドを出る。
外は夕方に近づいていて、街の光が少しずつ柔らかくなっていた。
「……どうする?」
レナが聞く。
「もう少し歩いてみるか」
せっかくのタブリスだ。少しでも知っておきたかった。
大通りを離れ、少し細い道に入る。さっきまでの喧騒が少し遠くなる。
それでも、どこかで人の気配は続いている。そのときだった。
「うわっ!?」
前の方で、派手な音がした。木箱が転がる音と、一緒に何かが崩れる。
「……大丈夫か?」
駆け寄るとそこには、荷物を抱えたまま転んでいる少年がいた。
「いってぇ……」
頭を押さえながら起き上がる。
年はユノたちと同じくらい。
足元には、工具のようなものが散らばっていた。
「手、貸すよ」
ユノが言う。
「あ、悪い……」
少年が慌てて立ち上がる。レナもしゃがみ込んで、散らばった道具を拾い始めた。
「これ、全部お前のか?」
「そうだよ……はぁ、またやっちまった」
頭をかきながら、苦笑する。どこか抜けている感じだ。
しばらくして、荷物をまとめ終える。
「……助かった、ほんとに」
少年がほっとした顔で言った。
「気にすんな」
「いや、マジで助かった」
少し間を置いて、少年が口を開く。
「俺はレオル。レオって呼んでくれ」
「ユノだ」
「レナです」
「これ、どこまで運ぶんだ?」
「工房。ちょっと奥なんだよな」
「一人で?」
「まあ……いつもはな」
少しだけ気まずそうに笑う。
その様子を見て、ユノは軽く息を吐いた。
「……途中まででも手伝うよ」
「え、いいのか?」
「どうせ帰るだけだしな」
レナも小さくうなずく。
三人で歩き出す。通りは少しずつ静かになり、店の数も減っていく。
「こんなとこに工房あるのか?」
「師匠がこういう場所好きなんだよ」
レオが肩をすくめる。
「人多いの嫌いでさ」
やがて、一軒の古びた建物の前で止まる。
周囲と比べても、少しだけ寂れた印象。
「……ここ」
「ここか」
扉は閉まっているが、中からかすかに金属音のようなものが聞こえた。
「今日はありがとな」
レオが振り返る。さっきまでの軽い感じとは少し違う、ちゃんとした声だった。
「助かった」
「気にすんなって」
「……いや、ちゃんと言っておきたい」
少しだけ真面目な顔でそう言う。
それから、少しだけ迷うようにしてから口を開いた。
「今度さ、時間あったら来てくれよ」
「……ここに?」
「うん。ちゃんと礼したいしさ」
照れくさそうに笑う。
ユノは少し考える。
でも、答えはすぐに出た。
「分かった」
「ほんとか!?」
ぱっと表情が明るくなる。
「じゃあ、またな!」
レオはそのまま扉を開けて中に入っていった。
中から、再び金属音が響く。
扉が閉まる。
しばらく、その場に立つ。
「……変なやつだったね」
レナが小さく笑う。
「ちょっと抜けてるな」
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
帰り道。街の灯りが少しずつ増えていく。
遠くから、まだ賑やかな声が聞こえてくる。
「……なんか、始まってる感じする」
レナがぽつりと呟く。
「ああ」
ユノも小さくうなずく。
さっきの出会い。
たったそれだけのこと。
それでも村にいたことと比べると全てが新しい
宿の灯りが見えてくる。
タブリスでの夜が、ゆっくりと始まろうとしていた。




