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始まりの村と小さな竜  作者:


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タブリスの街

 丘を越えた先で、ユノは思わず足を止めた。

「……でかいな」

 ぽつりと漏れた言葉に、レナも小さくうなずく。

「ほんとに……」

 目の前に広がっていたのは、これまで見てきたどの村とも違う光景だった。

 高く積み上げられた石の建物。広く整えられた道。絶え間なく行き交う人と馬車。

 ラズベリアとは比べものにならない。

 “街”だった。


 門の前には、商人たちの列ができている。

 大きな荷車に積まれた布や木箱。馬のいななきと、呼び込みの声が混ざり合う。

「初めてか?」

 近くにいた門番が、軽く笑って声をかけてきた。

「あ、はい」

「タブリスは初めてか。まあ、迷うなよ」

 軽い調子でそう言われて緊張していた肩の力が、少しだけ抜けた。


 門をくぐる。

 その瞬間、空気が変わった。

「安いよ安いよ!今日だけだ!」「新鮮な果物だ、見ていきな!」「武具ならこっちだぞ!」

 四方から声が飛んでくる。

 左右には店がびっしりと並び、色とりどりの布や、見たことのない道具が並べられている。

 香辛料の匂い、焼いた肉の匂い、甘い果実の香りが混ざり合い、鼻をくすぐった。

「……すごい」

 レナが、きょろきょろと辺りを見回す。

 その足元では、ウールが人の流れを避けるようにぴょこぴょこと動いている。


 ユノは、ふと周囲に目を向ける。

 人だけじゃない。そこら中に、愛獣がいる。

 肩に止まる鳥。 足元を歩く犬のような獣。 荷物を引く大きな四足の生き物。

「……こんなにいるのか」

「みんな、普通に一緒にいるね」

 当たり前の光景のように、人と愛獣が並んでいる。

 誰も気にしていない。けどみんな千差万別だ。


 その中で。

 ラグナルとウールは、少しだけ浮いていた。

 ラグナルは肩の上で静かに丸まっている。

 ウールは相変わらず、何もせずに足元にいる。

 周囲の愛獣は、もっと“役割”を持っているように見えた。

 運ぶ。守る。動く。みんな主人のサポートをしている。

 でも、こいつらは

「……まあ、これからか」

 小さく呟く。


 しばらく歩くと、ひときわ大きな建物が目に入った。

 石造りで、重厚な造り。

 入口の上には、紋章が掲げられている。

「……あれだな」

「冒険者ギルド」

 レナが言う。

 自然と、足が向いた。


 扉を押して中に入る。ざわめきが、一気に押し寄せた。

 テーブルで話す者、酒を飲む者、地図を広げている者。

 そして、首から下げられた金属のタグ。

「……あれ」

「ギルドタグだね」

 近くを通る冒険者のタグが目に入る。

 銅色、銀色。中には光沢のあるものもある。

 色や質で、違いがあるのが分かる。


 カウンターに向かう。

「初めてですか?」

 受付の女性が、柔らかく微笑んだ。

「はい。登録したくて」

「かしこまりました」

 手続きは思っていたより簡単だった。名前を書き、いくつか説明を受ける。

「ランクはブロンズからになります」「依頼は色で分かれていますので、無理のないものを選んでください」

 そして、小さな金属のタグを渡される。

「こちらがギルドタグです」

 手に取る。ひんやりとした重み。

 思っていたより、しっかりしている。

「身分証にもなりますので、大切にしてください」

「はい」

 首にかけると胸のあたりに、金属が当たる感触。

 それだけで

「……なんか、実感出るな」

 思わずそう言うと、レナが笑った。

「うん、ちょっとだけね」


 掲示板の前に立つ。

 紙が何枚も貼られている。

「ホワイト……これが一番簡単か」

「薬草採取、配達……」

 どれも難しくはなさそうだ。

 でも、ちゃんとした“クエスト”だ。

「まずはこれにしよう」

 ユノが一枚を取る。

「うん、これならできそう」


 受付に持っていく。

「こちらでよろしいですか?」

「はい」

「お気をつけて」

 短いやり取り。

 それだけで、何かが変わった気がした。


 外に出る。同じ街なのに、見え方が少し違う。

 ただの通りじゃない。

 “クエスト”に変わっていた。


「……始まったな」

 ユノが小さく言う。

「うん」

 レナが並ぶ。

 ラグナルが小さく鳴く。

 ウールは変わらず、静かにそこにいる。


 タブリスの街で。

 ユノたちの冒険者としての日々が、始まった。

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