次への一歩
ラズベリア村に戻ると、すぐに人が集まってきた。
「お前たち、無事だったか!」
昨日話をした男が駆け寄ってくる。
「はい。巣の周りにいたやつは倒しました」
そう答えると、周りがざわめいた。
「本当にやったのか……」
「まだ若いのに……」
驚きと、少しの感心が混ざった声。
少しだけ、胸の奥が熱くなる。
「助かったよ。あのままだと、子供たちも安心して外で遊べなかった」
男はそう言って、大きくうなずいた。
「……ありがとうございます」
自然と、頭を下げていた。
誰かの役に立てたという実感が、初めてはっきりと形になった気がした。冒険者になったという気がした。
村の広場に戻る。
朝とは違って、穏やかな空気が流れている。
「……なんか、不思議だね」
レナがぽつりと呟く。
「何が?」
「昨日までは、ただ歩いてただけなのに」
少し考えてから、続ける。
「今日は、ちゃんと“冒険者っぽいこと”してる」
「……まあな」
完全にそう言い切れるほどじゃない。
だが
「少しは、近づいたんじゃないか」
「うん」
レナが笑う。
そのとき、肩の上で小さな声がした。
「キュ」
ラグナルが、じっとこちらを見ている。
足元ではウールがいつも通り揺れていた。
「……お前らも、頑張ったよな」
そう言うと、ラグナルは小さく鳴いた。
ウールは特に何も変わらない。
でも、あの一瞬の動きはまだ謎だった。
まだ分からないことだらけだが、それでも、少しずつ進んでいる。
「これからどうする?」
レナが聞く。答えは決まっていた。
「次の街に行く」
「タブリス?」
「ああ」
ラズベリアより大きい街。
ギルドもある。冒険者として、本当に始まる場所だ。
「……行こう」
レナは迷わずうなずいた。
昼過ぎ。
簡単な準備を整える。
村の人たちが何人か見送りに来てくれた。
「気をつけろよ」
「無茶すんな」
「また来い」
口々に言われる。少し前まで、ただのよそ者だったのに。今は、少しだけ違う。
「……また来ます」
そう答えると、何人かが笑った。
村の外れに立つ。
見慣れた風景ではないけど、どこか落ち着く場所だった。
「……短かったな」
「でも、みんな優しかった。」
レナの言葉に、小さくうなずく。
一歩、踏み出す。そのとき。
「キュ」
ラグナルが、少しだけ強く鳴いた。
何かを感じたように、前を見ている。
「……どうした」
その視線の先。遠くに、うっすらと見える影。大きな街の輪郭だった。
「……あれが、タブリスか」
思わず呟く。遠いのに、存在感がある。
ここまでとは違う場所。違う人間。違う世界。
「……行こう」
「うん」
レナが並び、ウールが足元でついてくる。
ラグナルは静かに前を見ていた。モチもトコトコ歩いている。
まだ何もできないし、強くもない。
分からないことばかりだ。
それでも
確実に、一歩を歩み出した。




