小さな討伐
ラズベリア村に戻ると、まず近くにいた大人に声をかけた。
「村の外れで、グラスラットの巣を見つけました」
そう伝えると、男は眉をひそめた。
「……やっぱりか。最近多いとは思ってたがそんな近くに巣を作っていたか」
「すぐ近くです。このままだと、また被害が出るかもしれません」
言葉にすると、現実味が増す。
子供の泣き顔が、頭に浮かんだ。
「分かった。こっちでも様子は見る」
男はそう言ったが、
「……俺たちも行きます」
気づけば、そう口にしていた。
「お前らがか?」
「場所は分かってるし、できることはやりたいです」
少し考えて、やがて男は小さく息を吐いた。
「……無茶はするなよ」
「はい」
簡単な準備だけ整える。
丈夫そうな棒と、布を巻いた腕。
それだけだ。
「……ちょっと心細いね」
レナが苦笑する。
「でも、やるしかないだろ」
「うん」
互いに顔を見て、小さくうなずいた。
再び、村の外れへ。
草むらに近づくにつれて、空気が変わる。
「……いるな」
視線の先、草が不自然に揺れていた。
次の瞬間。
一匹、飛び出してくる。
「来る!」
軽く踏み込み、横に避けながら棒を振る。
当たって一体、倒れる。
「後ろ!」
レナの声を頼りに振り返ると、もう一匹。
「くっ……!」
間合いが近すぎて反応が遅れる。
そのとき。
「――モチ!」
レナが思わず名前を呼ぶ。
その声に反応したのか、モチがぴょんと跳ねた。
横に避ける。すれ違いざまに、グラスラットに噛みついた。
「……!」
狙ったわけじゃないが、その動きで一瞬足が止まる。
「今だ!」
強く踏み込み棒を振り下ろす。
鈍い音がした後、グラスラットが地面に崩れた。
「モチ、今の……」
「たぶん、たまたま」
レナが少しだけ苦笑する。
モチは何もなかったように腕の中へ戻った。
まだ終わりじゃない。
巣の周りから、さらに影が動く。
「……まだ来るぞ」
二匹、同時に飛び出す。
「ちっ……!」
一歩下がって、距離を取る。
その瞬間、肩の上で小さな気配が動いた。
「……?」
ラグナルが口を開いて ふっ と黒い煙のようなものが漏れた。
「……え?」
一瞬だけ、視界が揺れた気がした。
グラスラットの動きが、ほんのわずか鈍る。
「今!」
間合いを瞬時に詰めて一匹を叩き倒す。
もう一匹が横から来る。
振り向くが間に合わない。
そのとき。
足元のウールが、ふわりと揺れた。
グラスラットの攻撃が、そのままウールに当たる。
だが、反応しない。
ただ、その場で止まった。
「……?」
一瞬の隙をついて振り向きざまに叩く。
最後の一匹も、地面に倒れた。
「……はぁ……」
息を吐く。体が重い。
「……終わった?」
「……たぶん」
周囲を見渡すがもう動く影はない。
⸻
しばらく、その場に立ち尽くす。
風が草を揺らす音だけが残る。
「……やれたな」
ぽつりと呟く。
「うん」
レナも小さく笑った。
「まだ全然だけど」
「それでも、昨日よりは動けた」
確かにそうだった。体も、判断も、ほんの少しだけ良くなっている。
肩の上のラグナルを見る。
さっきの煙。
あの煙は偶然なのかなんなのか
足元のウールは、何もなかったようにそこにいる。
でも、あの一瞬は確かに、
だが全く意味がわからないし考えつくものもない。
「……少しずつ、か」
小さく呟く。
「戻ろう」
「うん」
巣を見下ろす。完全に安心はできないが、ひとまず危険は減ったはずだ。
村へ戻る道。
来たときより、足取りが軽い。
確かに冒険者へ近づいてる気がした。




