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始まりの村と小さな竜  作者:


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グラスラットの気配

朝のざわめきが、まだ村の中に残っていた。


子供のことが、頭から離れない。


「……行くの?」


 隣でレナが小さく聞く。


「ちょっと様子だけでも見てくる」


 そう答えると、レナは少しだけ迷ってからうなずいた。


「私も行く」


 止める理由はなかった。


 村の外れ。


 背の低い草が広がる場所まで来ると、人の気配はぐっと少なくなる。


「この辺って言ってたよね」


「ああ」


 足元を見ながら進む。何か痕跡がないか、そんなことを考えながら。


「……これ」


 レナがしゃがみ込む。


 指差した先には、小さな足跡のようなものがあった。


「グラスラットか?」


「たぶん。昨日見たのと似てる」


 思ったより近い。村のすぐ外だ。


「こんな近くに生息してるのか?」


「どうだろう。でも、ちょっと多いのかも」


 昨日の張り紙を思い出す。


 “出没注意”。


 つまり、最近増えているってことだよな。


 さらに奥へ進む。草むらが、さわりと揺れた。


「……来る」


 小さく呟いた瞬間。影が飛び出してきた。


「っ!」


 反射的に身構える。


 現れたのは、昨日見たのと同じ魔物、グラスラット。


 ギタリーフよりも一回り大きい。

 目つきが明らかに違う。


「ユノ!」


「ああ!」


 飛びかかってくる。枝じゃなく、今度はしっかり構える。


 体が、昨日より少しだけ動いた気がした。


 横に避ける。すれ違いざまに、棒を振る。


 当たるが、倒れない。


「くそっ……!」


 グラスラットがすぐに立ち直る。


 動きが速い。


「もう一匹いる!」


 レナの声。


 後ろから、もう一体。


「ちっ……!」


 距離を取る。


 ラグナルは肩の上でじっとしている。

 ウールも足元で動かない。


 当然だ。まだ戦えない。


「レナ、石!」


「うん!」


 レナが拾った石を投げる。一体の動きがわずかに止まる。


「今!」


 踏み込み、体重を乗せて振り下ろす。


 鈍い音。


 一体が地面に倒れる。


 もう一体が横から飛びかかってくる。


「――!」


 とっさに腕で防ぐが、少し遅かった。痛みが走る。


「ユノ!」


「大丈夫だ!」


 押し返す。


 距離を作って、もう一度構える。


 呼吸が荒い。でも、目は離さない。


 グラスラットが低く唸る。


 ――来る。


 今度は、先に動いた。


 踏み込んで、横から叩く。


 当たった。


 姿勢を崩したグラスラットに追撃を与える。


 「キュウ」


 声をあげて倒れた。


「……はぁ……」


 その場に立ったまま、息を整える。


「大丈夫?」


「……なんとか」


 腕を見る。浅い傷。昨日の子供と同じだ。


「これくらいか……」


 思っていたより軽いが、油断すればすぐ深い怪我を負うだろう。特に子供は。


「……見て」


 レナが少し離れた場所を指差す。草が不自然に倒れている。


「……通り道か?」


「それにしては多い」


 よく見ると、小さな穴のようなものがいくつかある。


「……巣?」


「かも」


 思ったより、近い。村からこんなに近い場所に。


「……知らせたほうがいいな」


 自然と口に出ていた。レナが少しだけ考える。


「変に不安を煽るようなことにならないかな?」


「……でも」


 昨日の様子を思い出す。


「……俺たちで、やれるかもしれない」


 ぽつりと呟く。レナがこちらを見る。


「ユノ……」


「もちろん、無理はしない」


 視線を外さずに言う。


「でも、このくらい対処できないと……冒険者って言えない気がする」


 しばらく沈黙が続く。風の音だけが、草を揺らす。


 やがて、レナが小さくうなずいた。


「……うん。一緒にやろう」


 その言葉で、少しだけ肩の力が抜けた。


 肩の上のラグナルが、小さく鳴いた。


「キュ」


 足元ではウールが静かにこちらを見ている。


 まだ、何もできない。


 だが、


「……頼むぞ、お前らも」


 そう言うと、ラグナルはじっとこちらを見返してきた。


 巣のような穴をもう一度見下ろす。数は少なくない。


「……一回戻ろう」


「うん」


 準備も何もない。


 無理に突っ込むのは危険だ。


「ちゃんと準備して、もう一回来る」


 そう決めた。



 来たときより、少しだけ足取りが重い。


 でも――


 確かに前に進んでいる感覚があった。


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