静けさ
出発の直前、ユノは、ふと、足を、止めた。
「……ウールも、連れて行くべきか」
肩の上で、丸まる、白い、もふもふを、見つめる。
これまで、戦闘には、一度も、加わったことのない、存在だった。
正体すら、まだ、はっきりしていない。
「大丈夫かな」
レナも、心配そうに、覗き込む。
ウールは、まるで、その言葉に、応えるように、ふわりと、宙に、浮かび上がった。
小さな、体が、月の光を、淡く、反射している。
「……行きたいのか」
ユノが、静かに、聞く。
ウールは、答える、代わりに、ユノの、肩に、そっと、寄り添った。
その、仕草に、確かな、意志を、感じた。
「……分かった」
「一緒に、来てくれ」
セファルが、その、様子を、見て、少し、興味深そうに、目を、細めた。
「その、白い、生き物は」
「未だに、正体が、分からないんだ」
ユノが、答える。
「精霊、かもしれないと」
「言われたことも、ある」
セファルの、目が、僅かに、鋭くなった。
「……精霊、か」
何かを、思い出すように、しばらく、黙り込む。
「もし、そうなら」
「今夜、何かの、力に、なるかもしれない」
「封印にも、精霊の、力が、関わっていると」
「伝承に、あった」
その、言葉に、ユノは、ウールを、改めて、見つめた。
「……頼りに、してるぞ」
小さく、囁くと、ウールが、優しく、瞬くように、淡い、光を、放った。
一行は、満月の下、二手に、分かれて、進軍を、開始した。
セファル、ダレン、モイストの精鋭は、旧市街の、井戸へ。
ユノ、レナ、ティナ、ガイン、そして、ベタの、精鋭たちは、遺跡へと、続く、山道を、進む。
「……緊張するね」
レナが、小さく、呟く。
モチが、その、肩の上で、小さく、震えている。
だが、それは、恐怖からではなく、まるで、闘志を、蓄えているような、震えだった。
「大丈夫だ」
ユノが、静かに、言う。
「みんなで、いる」
ラグナルが、肩の上で、力強く、鳴いた。
小さな、体だが、その、瞳には、確かな、覚悟が、宿っていた。
遺跡が、月明かりの下、次第に、その、姿を、現し始める。
昨夜とは、比べ物にならないほど、多くの、灯りが、揺れていた。
イフリルの、旗が、あちこちに、掲げられている。
「……予想以上の、数だな」
ガインが、低く、呟く。
木々の、陰から、慎重に、様子を、窺う。
遺跡の、入り口付近に、護衛たちが、整然と、並んでいた。
その、中心に、マルコスの、姿があった。
隣には、見たことのない、大型の、獣が、控えている。
漆黒の、毛並みを、持つ、狼のような、姿。
「……あれが、マルコスの、愛獣か」
ダレンから、聞いていた、話を、思い出しながら、ユノが、呟く。
「相当な、強さを、持ってると、聞いてる」
「気を、つけろよ」
セファルからの、事前の、警告が、頭を、よぎった。
その時。
マルコスが、ふと、こちらの、方向に、視線を、向けた。
「……気づかれたか」
ガインが、緊張した、声で、言う。
「いや」
ユノが、静かに、首を、振る。
「まだ、こちらには、気づいてない」
「だが」
マルコスの、声が、夜の、静寂を、切り裂いて、響いてきた。
「――儀式の、準備を、始める」
その、宣言と共に、遺跡の、中心に、複数の、灯りが、集まり始めた。
「……始まったか」
セファルたちとの、合流を、待つ、時間は、もう、なかった。
「行くぞ」
ユノが、静かに、だが、確かな、決意を込めて、言う。
肩の上、ラグナルとウールが、共に、小さく、震えた。
戦いの、始まりを、告げるように。




