異変
翌朝、教会を出た一行は、すぐに、ヘルメリアへと、戻った。
朝日が、まだ、街全体を、柔らかく、照らしている時間だった。
「……レイナルドの、屋敷へ、直接、向かおう」
ガインが、先頭に立ち、道を、急ぐ。
「執務室じゃ、ないんですか」
レナが、聞く。
「今日は、休みのはずだ」
「屋敷にいる」
商業ギルド本部から、少し離れた、閑静な区画に、レイナルドの屋敷は、あった。
落ち着いた、佇まいの、屋敷だった。
だが、その、門の前に、着いた瞬間。
異様な、空気を、感じ取った。
「……門が、開いてる」
ユノが、鋭く、言う。
普段は、しっかりと、閉ざされているはずの、門が、半端に、開いていた。
「まさか」
ガインが、顔色を、変え、駆け出す。
門を、抜け、屋敷の、玄関へと、急ぐ。
扉も、僅かに、開いていた。
「レイナルド様!」
ガインが、大声で、呼びかけながら、中に、踏み込む。
応答は、なかった。
静まり返った、屋敷の中。
家具は、乱れ、床には、争った、痕跡が、残っていた。
「……遅かったか」
セファルが、低く、呟く。
「まさか、こんなに、早く」
「マルコスが、動いたって、ことか」
ユノが、拳を、強く、握る。
「あるいは」
ダレンが、険しい表情で、言う。
「マルコス様の、指示を、受けた、別の、誰かか」
「昨夜の、時点で、既に」
セファルが、屋敷の中を、注意深く、見渡しながら、言う。
「この事態を、想定していたのかもしれない」
「私たちが、遺跡から、戻る前に」
奥の、書斎に、進むと、机の上に、一枚の、紙が、残されていた。
急いで、書かれたような、乱れた、筆跡。
「……レイナルドの、字だ」
ガインが、震える手で、拾い上げる。
『三つ目の、鍵は、渡さない。』
『だが、抵抗すれば、命はない、と言われた。』
『……もし、これを、読む者がいるなら』
『私を、探すよりも』
『満月の夜、封印の、中枢を、守ることを』
『優先してほしい。』
短い、メッセージだった。
だが、そこに込められた、覚悟は、痛いほど、伝わってきた。
「……連れ去られたのか」
レナが、震える声で、言う。
「たぶんな」
ユノの、声も、硬かった。
「でも、抵抗して、簡単には、渡らない、って」
「言ってくれてる」
ティナが、そっと、机の、紙に、触れる。
「レイナルドさんは」
「まだ、こちら側に、いる」
その、言葉に、部屋の、重い空気が、わずかに、和らいだ。
「……時間が、ない」
セファルが、低く、言う。
「マルコスは、レイナルドを、人質に」
「三つ目の、鍵として、強制的に、使おうと、しているのかもしれない」
「本人の、意志に、関係なく」
「そんなことが、可能なのか」
ダレンが、聞く。
「フェリオン殿の、話では」
ティナが、慎重に、答える。
「鍵となる、資格は」
「ダリオスに、認められた、繋がりを、持つ者、というだけ」
「本人の、意志が、なくても」
「強制的に、使われる、可能性は、否定できない」
その、可能性に、全員の、顔が、強張った。
「……レイナルドを、助け出す」
ユノが、静かに、だが、確かな、決意を込めて、言う。
「同時に、満月の夜に、備える」
「二つとも、やらなきゃ、いけない」
「時間との、勝負だな」
ガインが、拳を、強く、握る。
「まず、レイナルドが、どこに、連れ去られたのか」
「手がかりを、探そう」
屋敷の中を、隅々まで、調べ始める。
争った、痕跡。
乱れた、書類。
そして、微かに、残る、複数の、足跡。
「……この、足跡」
セファルが、庭に、続く、足跡を、追いながら、言う。
「まだ、新しい」
「それほど、時間は、経ってない」
「昨夜遅く、あるいは」
「今朝、早くに」
その、推測に、一縷の、希望が、見えた。
「まだ、間に合うかもしれない」
ユノが、静かに、言う。
「追おう」
満月の夜まで、あと、二日。
新たな、危機に、直面しながらも。
一行は、決意を、新たに、レイナルドの、足取りを、追い始めた。




