対峙
「……仕方ないな」
マルコスが、静かに、目を、細めた。
「力ずくで、押し通るしか、ないか」
その一言を、合図に。
護衛たちが、一斉に、剣を、抜いた。
「来るぞ!」
ユノが、鋭く、叫び、剣を、構える。
レナが、素早く、杖を、掲げた。
「風よ――!」
淡い、風の刃が、迫る、護衛の一人の、足元を、払う。
体勢を、崩した相手に、ダレンが、素早く、踏み込んだ。
「悪いが、本気で、いかせてもらう」
剣を、打ち合わせる、金属音が、遺跡の、静けさを、切り裂いた。
「マルコス様、まだ、間に合います!」
剣を、交えながら、ダレンが、叫ぶ。
「間に合う、だと?」
マルコスの声が、冷たく、響く。
「私は、五年前から、この日のために」
「全てを、賭けてきた」
「今更、退けと、言うのか」
「五年、費やしたからこそ」
ガインが、別の護衛と、剣を、交えながら、声を、上げる。
「間違いに、気づく、機会は、まだ、ある!」
「間違い、では、ない」
マルコスが、剣を、抜く。
自ら、前に、出てくる。
「これは、必要な、犠牲だ」
ユノが、その、剣を、正面から、受け止めた。
重い、一撃。
腕に、痺れるような、衝撃が、走る。
「必要な犠牲、って」
歯を、食いしばりながら、言う。
「それを、決めるのは」
「あなた、一人じゃ、ないはずだ」
「若造が、何を、知っている」
マルコスの、二撃目が、鋭く、迫る。
ユノは、剣で、それを、受け流しながら、後ろに、下がった。
一方、ティナは、少し、離れた場所から、戦況を、見守っていた。
「……ゾルドさん」
静かに、声を、かける。
ゾルドは、剣を、抜いていなかった。
戦いの、輪の外に、立ち尽くしている。
「あなたは、まだ」
「本当に、戦いたいわけじゃ、ないんでしょう」
「……私、は」
ゾルドの声が、揺れる。
「五年前、フェリオン殿から」
「巻物を、託されなかった、その日から」
「ずっと、迷い続けてきた」
「マルコス様の、考えに」
「一理あると、思う気持ちも」
「本当に、これで、いいのかという」
「疑問も」
「両方、抱えたまま」
その、正直な、言葉に、ティナは、静かに、頷いた。
「迷うのは、悪いことじゃ、ないと思う」
「でも」
戦いの音を、背に、続ける。
「今、選ばなきゃ」
「取り返しの、つかないことに、なる」
その時。
護衛の一人が、隙を突き、レナに、斬りかかった。
「危ない――!」
ティナが、咄嗟に、叫ぶ。
レナは、間一髪、杖で、防いだが、体勢が、崩れる。
「くっ……」
もう一撃が、迫った、その瞬間。
「――やめろ!」
ゾルドが、動いた。
剣を、抜き、護衛の、刃を、弾く。
「ゾルド様……?」
護衛が、驚いたように、声を、上げる。
「これ以上、無関係な人間を、傷つけるな」
ゾルドの声に、初めて、確かな、意志が、宿った。
「マルコス様」
大きく、声を、張り上げる。
「私は……あなたに、従うことは、できません」
その、宣言に、マルコスの、動きが、一瞬、止まった。
「……ゾルド、貴様」
「巻物は、渡しません」
「不完全な、封印解除でさえ」
「多くの、犠牲を、生む可能性が、ある」
「それを、知っていて」
「協力することは、できない」
マルコスの、目に、怒りが、宿る。
「裏切るのか、お前まで」
「裏切っては、いません」
ゾルドが、剣を、構える。
「本当の意味で、あなたを、止めることが」
「五年前、託された、役目だと」
「今、気づきました」
その、決意に、ティナが、小さく、息を、吐いた。
「……ありがとう」
小さく、呟く。
その声は、戦いの、喧騒に、掻き消されたが。
確かに、ゾルドに、届いた気がした。
「――皆、退くぞ!」
マルコスが、鋭く、叫ぶ。
護衛たちが、一斉に、後退を、始めた。
「今日は、退く」
マルコスの、目が、鋭く、ユノたちを、見据える。
「だが、これで、終わりでは、ない」
「満月の、夜まで」
「まだ、時間はある」
「レイナルドが、協力しなくとも」
「別の、方法を、見つけるまでだ」
その、不敵な、言葉を、残し。
マルコスと、護衛たちは、闇の中へと、姿を、消していった。
「……追うか?」
ダレンが、荒い息の中、聞く。
「いや」
ユノが、首を、振る。
「今は、深追いしない」
「それより」
視線を、ゾルドに、向ける。
「話を、聞かせてもらえますか」
「セファルさんの、ことも」
「巻物のことも」
ゾルドは、静かに、剣を、収めた。
「……全て、話す」
「もう、迷いは、ない」
遺跡の前、月明かりの下で。
新たな、協力者を、得て。
五人は、次の、一手を、考え始めていた。




