正義
木々の陰から、五人は、息を潜めて、様子を、窺った。
「……ゾルドが、なぜ、ここに」
ガインが、小声で、呟く。
「セファルが、押さえていたはずじゃ」
「何かが、あったのかもしれない」
ユノの声も、緊張で、硬くなっていた。
遺跡の入り口、灯りに、照らされる中。
マルコスと、ゾルドが、静かに、言葉を、交わしていた。
距離が、遠く、内容までは、聞き取れない。
「……もう少し、近づこう」
ダレンが、慎重に、言う。
「音を、立てるなよ」
五人は、木々の間を、身を屈めながら、少しずつ、遺跡へと、近づいていった。
やがて、途切れ途切れに、声が、聞こえ始める。
「……本当に、これで、いいのか」
ゾルドの声だった。
どこか、迷いを、含んでいるように、聞こえた。
「今更、何を、言っている」
マルコスの声は、冷静だった。
「お前も、同意したはずだ」
「この、世界の均衡を」
「本当の意味で、正すために」
「だが、レイナルドは」
「協力しないと、言っている」
「あの男は、臆病なだけだ」
マルコスの声に、微かな、苛立ちが、滲む。
「三つ目の鍵が、なくても」
「方法は、ある」
「……方法?」
「フェリオンの、巻物さえ、手に入れば」
「二つの鍵でも」
「不完全ながら、封印の、一部は、緩められる」
「それだけで、十分だ」
その言葉に、木陰で、聞いていた、ユノたちの、顔色が、変わった。
「……巻物を、狙ってる」
ティナが、小さく、震える声で、言う。
「二つの鍵だけでも、実行するつもりなのか」
ガインが、低く、唸るように、言う。
「危険すぎる」
「不完全な、封印解除が」
「何を、引き起こすか」
「分からない」
その時。
マルコスが、ふと、周囲に、視線を、向けた。
「……誰か、いるな」
低く、鋭い声。
護衛たちが、一斉に、警戒を、強める。
「……気づかれた」
ダレンが、小さく、舌打ちする。
「隠れていても、仕方ない」
ユノが、静かに、立ち上がった。
「……出よう」
木陰から、姿を、現す。
灯りの下に、五人が、揃って、姿を見せた。
「……ダレン」
マルコスの目が、鋭く、細まる。
「お前が、なぜ、ここに」
「マルコス様」
ダレンが、前に、進み出る。
「今すぐ、お引き取りください」
「これは、危険すぎる」
「危険は、承知の上だ」
マルコスの声は、揺るがなかった。
「お前には、分からないだろうな」
「この街が、この五年」
「どれほど、腐敗してきたか」
「派閥同士の、争い」
「裏で、蠢く、闇商人」
「表向きの、平和の裏で」
「多くのものが、失われてきた」
「だからと言って」
ユノが、前に、進み出る。
「封印を、解くことが」
「解決に、なるとは、思えません」
「お前に、何が、分かる」
マルコスの目が、鋭く、ユノを、射抜く。
「竜の、力があれば」
「この街を、根本から、変えられる」
「腐敗した、商業ギルドの、仕組みごと」
「作り直せる」
「それは、あまりに、危険な、考えです」
ガインが、鋭く、割って入る。
「竜の力は、暴走すれば」
「街どころか、この一帯、全てを」
「飲み込みかねない」
「制御できると、思っているんですか」
「ダリオスは、できると、考えていた」
マルコスが、静かに、答える。
「彼が、遺した、研究の、続きを」
「私が、引き継いでいる」
「ダリオス自身は」
「もう、この件から、退いています」
ユノが、指摘する。
「五年前に」
「己の、良心に、従って」
「なら、私が、代わりに、成し遂げる」
「彼の、意志を、正しい形で」
マルコスの言葉に、迷いは、なかった。
その、確固たる、信念が、逆に、恐ろしかった。
「……ゾルド」
ティナが、静かに、声を、かけた。
「あなたは、本当に、これで、いいの」
「私の、叔父さんを、騙してまで」
その言葉に、ゾルドの表情が、初めて、大きく、揺らいだ。
「……騙した、つもりは」
「なかった」
「ただ」
言葉が、詰まる。
「マルコス様の、考えに」
「共感する、部分があった」
「この街を、変えたいという、想いに」
「でも」
ティナの声が、震えながらも、まっすぐに、届く。
「間違った、方法で」
「多くの人を、危険に、晒すことは」
「本当に、正しいこと、なの」
ゾルドは、しばらく、答えられずにいた。
その、揺れる瞳が、内なる葛藤を、物語っていた。
マルコスが、苛立たしげに、声を、上げる。
「感傷に、浸っている、時間はない」
「巻物は、どこにある」
「フェリオンの元に、既に、ないことは」
「分かっている」
「セファルが、押さえたんだろう」
「なら、セファルから、奪う」
その、非情な言葉に、場の空気が、一気に、張り詰めた。
「そうは、させません」
ダレンが、剣に、手をかける。
「マルコス様、目を、覚ましてください」
「これは、もう」
「あなたの、望む、正義とは、違う」
護衛たちが、緊張した面持ちで、剣の柄に、手を、伸ばす。
一触即発の、空気が、遺跡の前に、満ちていった。




