追走
隣町に着く頃には、日が、大きく、傾いていた。
馬を、走らせ続けた疲労が、体に、重くのしかかる。
「……着いた」
ユノが、荒い息を、整えながら、言う。
イフリル商会の、拠点へ向かうと、ダレンが、既に、外で、待っていた。
その表情には、隠しきれない、焦りが、滲んでいた。
「早かったな」
「マルコスは」
ユノが、単刀直入に、聞く。
「今朝、少数の護衛だけを、連れて」
「町の、東の、山道へ、向かった」
「行き先は」
「分からない」
ダレンが、首を、振る。
「だが、あの方角には」
「古い、遺跡がある」
「遺跡……」
レナが、繰り返す。
「かつて、この一帯を、治めていた」
「古代の、王国の、名残だ」
「今は、ほとんど、崩れているが」
「一部、地下に続く、通路が、残っていると」
「聞いたことがある」
その言葉に、ユノの中で、何かが、繋がった。
「……旧市街の、水路と」
「繋がっているのかもしれない」
「あの井戸から、街の地下を通って」
「この、遺跡まで」
ティナが、緊張した面持ちで、言う。
「もし、そうなら」
「マルコスは、封印の、中枢に」
「直接、向かおうとしてる」
「時間が、ない」
ダレンが、険しい表情で、言う。
「案内できるか」
ユノが、聞く。
「ああ」
「だが、少人数で、行くべきだ」
「大勢で動けば、気づかれる」
「俺と、お前たち四人」
「それで、十分だろう」
ダレンが、手早く、馬の準備を、整えていく。
「イフリルの、他の人間には」
「知らせなくて、いいのか」
ガインが、聞く。
「今は、まだ」
ダレンの声が、低くなる。
「誰が、マルコス様の、味方で」
「誰が、そうでないか」
「見極めが、つかない」
「最小限の、人数で、動くしかない」
その判断に、誰も、異を唱えなかった。
日が、完全に、沈む前に、五人は、東の山道へと、馬を、走らせた。
道は、次第に、険しくなっていく。
木々が、生い茂り、月明かりだけが、頼りになっていく。
「……もうすぐ、満月だな」
レナが、空を、見上げながら、呟く。
「あと、二日だ」
ダレンが、静かに、答える。
「もし、マルコス様が」
「ゾルドと、既に、繋がっているなら」
「三つ目の、鍵――レイナルドさえ、加われば」
「条件が、揃ってしまう」
「レイナルドは、こちら側だ」
ガインが、きっぱりと、言う。
「彼は、裏切らない」
「そう、信じたい」
その言葉に、一瞬、沈黙が、落ちた。
「……見えた」
先頭を、進んでいた、ダレンが、声を、上げる。
木々の合間、月明かりに、照らされて。
崩れかけた、石造りの遺跡が、その姿を、現していた。
入り口付近に、複数の、灯りが、揺れている。
「……マルコスだ」
ダレンが、低く、呟いた。
護衛らしき、人影が、数人。
その中心に、一際、堂々とした、佇まいの男が、立っていた。
「……間に合った、のか」
ユノが、緊張した声で、呟く。
だが、その安堵も、束の間だった。
マルコスの、隣に。
もう一人、見覚えのある、人影が、立っていた。
「……ゾルド」
ダレンが、驚いたように、声を、漏らす。
セファルが、先に、押さえているはずの、男が。
既に、マルコスと、共に、そこに、立っていた。
「間に合わなかった、のか」
ガインの声に、焦りが、滲んだ。
遺跡の、入り口の前で、二人の、鍵となる人物が。
既に、揃おうとしていた。




