覚悟
翌朝、セファルからの呼び出しで、四人は再び、ベタの拠点を訪れた。
「ゾルドの、最後の足取りを、調べた」
セファルが、一枚の報告書を、机に広げる。
「三週間前、いつも通り、執務室に出勤していた」
「だが、その日の午後から」
「姿が、見えなくなっている」
「失踪、ってことですか」
レナが、聞く。
「表向きは、療養のため、休暇を取っている」
「診断書も、提出されている」
「だが、その医師の所在が」
「確認できない」
「偽の診断書、ってことか」
ユノが、低く言う。
「可能性は、高い」
セファルの声に、抑えた苛立ちが、滲んでいた。
「もう一つ、気になることがある」
「ゾルドの、休暇届が出された、前日」
「彼は、一人の人物と、面会していた」
「記録に、名前が残ってる」
セファルが、報告書の一点を、指す。
そこに書かれていた名前を見て、ティナが、思わず、息を呑んだ。
「……この、名前」
「知ってるのか?」
ユノが、驚いて聞く。
ティナは、しばらく、言葉を失っていた。
「……エルフの、名前」
震える声で、続ける。
「里の、私の……」
「叔父の、名前」
その言葉に、部屋の空気が、一変した。
「……お前の、叔父?」
ガインが、慎重に聞き返す。
「うん」
ティナが、小さく頷く。
「里を出て、もう何年も」
「行方が、分からなくなってた人」
「みんな、亡くなったと、思ってた」
セファルの目が、鋭く、細まる。
「エルフの、行方不明者が」
「ゾルドと、接触していた」
「これは、偶然とは、思えない」
「叔父さんが……ダリオスと、繋がってる、ってこと?」
レナが、恐る恐る聞く。
誰も、すぐには、答えられなかった。
「……直接、話を、聞くしかない」
ユノが、静かに言う。
「ゾルドか、ティナの叔父さんか」
「どちらかに、辿り着けば」
「真実に、近づける」
セファルが、頷く。
「面会の場所は、記録に残ってる」
「街外れの、古い屋敷だ」
「今も、使われているかは、分からないが」
「行ってみる価値は、ある」
窓の外、日が、傾き始めていた。
新たな手がかりと、ティナ自身の過去が、静かに、交差し始めていた。
「……行こう」
ティナが、震える声だが、はっきりと、言った。
「知りたい。全部」
その決意に、誰も、異を唱えなかった。
街外れへ向かう道は、次第に、人の気配が薄れていった。
商業ギルドの喧騒からは、遠く離れた場所。
「……この辺り、あまり来たことないな」
レナが、周囲を見渡しながら言う。
古びた屋敷の輪郭が、木々の合間から、見え始めた。
長い間、手入れがされていない様子だった。
蔦が、壁を覆い、窓の多くは、板で塞がれている。
「……本当に、ここに?」
「記録では、間違いない」
セファルが、静かに、屋敷を見上げる。
護衛は、二人だけ連れてきていた。
大勢で動けば、目立ちすぎる。
「……人の、気配がする」
ティナが、小さく呟く。
「完全に、廃屋じゃない」
慎重に、正面から、少し離れた裏手へ回る。
小さな勝手口があった。
鍵は、かかっていなかった。
「……罠、かもしれない」
ガインが、警戒しながら言う。
「かもな。だが、ここまで来て、引けない」
ユノが、静かに、扉を押し開ける。
中は、埃っぽい空気が、澱んでいた。
だが、床には、比較的新しい足跡が、いくつも残っている。
「……使われてる」
セファルが、低く言う。
奥へと、慎重に進んでいく。
やがて、微かな灯りが、漏れている部屋を見つけた。
扉の隙間から、中を覗く。
古い机に向かい、一人の男が、書類を、整理していた。
年老いた、エルフの男だった。
長い耳、白髪混じりの髪。
「……叔父さん」
ティナが、小さく、声を漏らした。
その声に、男が、はっと顔を上げる。
「……誰だ」
鋭い声。
だが、ティナの顔を見た瞬間、その表情が、大きく、揺らいだ。
「……ティナ、なのか」
「……久しぶり」
ティナの声が、震えていた。
「生きて、いたんですね」
男――ティナの叔父は、しばらく、言葉を失っていた。
やがて、深く、息を吐いた。
「……こんな形で、再会するとは」
「思っていなかった」
彼の目に、複雑な感情が、宿っていた。
懐かしさと、そして――確かな、警戒。
「あなたが、ここに、いる理由を」
セファルが、静かに、前に出る。
「聞かせてもらえますか」
「ゾルド・ハーレンとの、繋がりについても」
男の表情が、また、大きく、変わった。




