出発
数日後、モイストの詰所に、動きがあった。
「監査の日程が、決まった」
ガインが、四人を集め、告げる。
「三日後、商業ギルド本部の会計室で」
「第三者機関――冒険者ギルド長と、街の代表評議員が、立ち会う」
「思ったより、早いな」
ユノが言う。
「イフリルが、渋ってると思ってた」
「渋ってはいる」
ガインが、苦笑する。
「だが、拒否すれば、それ自体が疑いを強める」
「向こうも、それは分かってる」
「監査で、何が分かるんだ?」
レナが聞く。
「三派閥の、帳簿の全面公開」
「資金の出入りを、全て、照らし合わせる」
「ダリオスからの、資金の流れも、そこで、明確になるはずだ」
「でも」
ティナが、口を挟む。
「ダリオスが、本当に、慎重な人なら」
「証拠を、そんなに簡単に、残してると思えない」
その指摘に、ガインの表情が、少し曇った。
「……確かに、な」
「五年前から、ずっと隠れ続けてる相手だ」
「監査だけで、尻尾を掴めるとは、限らない」
「じゃあ、監査と並行して」
ユノが、話を進める。
「“鍵”の候補を、探すべきだな」
「イフリルとモイストの中に、いるはずの」
「セファルのような存在」
ガインが、頷く。
「モイストの方は、俺が探る」
「上役の中で、ダリオスと、個人的な繋がりが、ありそうな人物」
「思い当たる人は?」
「一人、いる」
ガインの声が、低くなる。
「レイナルド・ウィッシュ」
「モイストの、財務担当理事」
「ダリオスが幹部だった頃から、彼の下で働いてた」
「今も、モイストの中で、かなりの発言力を持ってる」
「その人が、鍵……?」
「まだ、憶測の域だ」
「だが、調べる価値はある」
「イフリルの方は、どうする」
ユノが聞く。
「そっちは、俺たちじゃ、探りにくい」
ガインが、少し考え込む。
「モイストの人間が、イフリル内部を嗅ぎ回れば」
「すぐに、勘付かれる」
「冒険者の俺たちなら」
「もう少し、動きやすいかもな」
「ああ」
ガインが、頷く。
「イフリルに、直接、依頼を受けてみるのは、どうだ」
「依頼?」
「商業ギルドは、時々、冒険者ギルドを通して」
「護衛や、雑務を、依頼することがある」
「イフリル関連の依頼を、受けてみれば」
「内部に、少しは、近づけるかもしれない」
「なるほど」
ユノが、頷く。
「冒険者ギルドに、行ってみるか」
その日の午後、四人は、冒険者ギルドへ向かった。
掲示板には、以前より、さらに多くの依頼が貼り出されていた。
『イフリル商会、護衛急募』
その一枚を見つけ、ユノが、手を伸ばす。
「これ、受けてみよう」
受付で、詳細を確認する。
「イフリル商会の、荷馬車護衛……行き先は、隣町までですね」
「往復で、三日ほど」
「三日か」
レナが、少し考える。
「監査の日と、被らないか?」
「大丈夫だ」
ガインが、答える。
「監査は、三日後の、夕方から」
「護衛の依頼が、それまでに終われば、問題ない」
「よし、受けよう」
依頼を受理し、四人は、冒険者ギルドを後にした。
「……イフリル商会の人間と、実際に話せる」
ティナが、静かに言う。
「うまくいけば、内部の空気が、少し分かるかも」
「ああ」
ユノが、頷く。
「気を抜かずに、いこう」
翌朝、集合場所に指定された、商業ギルド本部の裏手へ向かう。
そこには、既に、荷馬車と、数人のイフリル商会の人間が、待機していた。
「……お前らが、護衛の冒険者か」
商人らしき、中年の男が、値踏みするような目で見る。
「ええ、よろしくお願いします」
ユノが、丁寧に答える。
「若いな……まあ、いい。腕は、確かなんだろうな」
「冒険者ギルドの、推薦です」
「ならいい」
男は、それ以上、多くを語らなかった。
荷馬車の準備が、着々と進んでいく。
その様子を、ユノは、注意深く観察していた。
護衛の依頼を通して、イフリルの内部に、どんな“鍵”が、隠れているのか。
それを、見つけ出すために。
「……出発するぞ」
商人の合図で、荷馬車が、静かに動き出した。
ヘルメリアの街を出て、隣町へと続く街道へ。
新たな手がかりを求めて、四人の旅が、また一つ、始まろうとしていた。




