疑惑
詰所に戻ると、ガインはすぐに、机の上に紙を広げた。
「……整理しよう。今、分かってること、全部並べる」
順番に、書き出していく。
「一つ」
「五年前、ダリオスが、商業ギルド最高幹部を辞任」
「表向きは、病気」
「同時期に、エルフの里との取引が、白紙になってる」
「相手は、ティナのいた里の、長老」
ティナが、小さく頷く。
「二つ」
「辞任の直前、ダリオスは、旧市街の水路の一部を」
「立入禁止区域に、指定してる」
「三つ」
「その水路の井戸に、古い刻印」
「『封じし者、目覚めぬように』」
「そして、『三つの鍵、揃いし時、封は解かれる』」
「四つ」
「帳簿の暗号に、『眠れる者』『地下深く』という言葉」
「ティナの解読と、井戸の刻印は、内容が一致してる」
ここまでを、ガインは一気に書き出した。
ユノが、腕を組みながら、口を開く。
「……時系列で見ると」
「ダリオスは、辞任する前に」
「この場所に、何かを封じた」
「あるいは、既にあった封を、管理下に置いた」
「そして、それと同時期に」
「エルフの里との取引が、壊れてる」
「関係あると、考えるのが自然だな」
「ああ」
ガインが、頷く。
「取引の内容が、まだ分からない」
「だが、封印と、無関係とは思えない」
レナが、少し不安そうに言葉を挟む。
「石碑にあった、『竜の血、眠る地』……」
「これも、関係あるのかな」
「分からない」
ユノが、正直に答える。
「ただ、気になるのは事実だ」
ラグナルが、机の端で、じっと話を聞いていた。
普段より、静かだった。
「五つ目」
ガインが、続ける。
「セファルは、ダリオスを『悪い意味で』知っている、と言った」
「そして、ベタの人間が、あの井戸を見張っていた」
「『封は、まだ保たれてる』と」
「つまり、ベタは」
「ダリオスの意志を、少なくとも一部、継いでる」
「監視、あるいは管理役として」
ユノが、慎重に言葉を選ぶ。
「セファル自身が」
「その役目を、快く思ってない可能性もある」
「昨日の、あの態度を見る限り」
「……確かに」
ガインが、少し考え込む。
「あいつは、監査を、自分から後押しした」
「もし、ダリオスの味方なら」
「そんなことは、しないはずだ」
「敵じゃないかもしれない、ってことか」
「少なくとも」
「完全な味方でも、ないだろうな」
「六つ目」
ガインが、最後の項目を書き足す。
「暗号にあった、『三つの鍵』」
「ティナの推測では、それぞれの派閥に」
「ダリオスと繋がりのある人物が、一人ずつ、いる可能性がある」
「セファルが、ベタの鍵だとすれば」
「イフリルと、モイストにも」
「同じような存在が、いるはずだ」
「モイストの中に……?」
レナが、少し驚いたように言う。
「可能性は、否定できない」
ガインの表情が、硬くなる。
「上役の中に、探る必要があるかもしれない」
「だが、今は、確証がない」
「憶測だけで、動くのは危険だ」
沈黙が落ちる。
情報は、少しずつ繋がってきていた。
だが、まだ、断片でしかない。
「……ティナの手紙の返事が、鍵になりそうだな」
ユノが、静かに言う。
「取引の内容が、分かれば」
「何が封じられてるのか」
「もっと、はっきりする」
「うん」
ティナが、頷く。
「早く、届くといいけど」
ガインが、書き出した紙を、丁寧に折りたたむ。
「今分かってることは、これで全部だ」
「これ以上は、新しい情報を、待つしかない」
「監査の結果も、まだ出てない」
「イフリルとモイスト、それぞれの中の“鍵”候補も」
「まだ、特定できてない」
「焦らず、一つずつ、だな」
ユノが言うと、ガインも小さく頷いた。
窓の外は、すでに日が傾いていた。
積み重なった情報が、少しずつ、一つの形を作り始めている。
だが、その全貌は、まだ、深い霧の向こうにあった。




