発言
広間の視線が、一斉にガインへ向く。
進行役が、小さく頷いた。
「モイストの、発言を許可する」
「発言者は」
「ガイン・ロステッド、モイスト所属、記録監査係です」
自らの役職を、はっきりと名乗る。
慣れた様子だった。
「先ほどの、衝突件数について」
ガインが、懐から一枚の書類を取り出す。
「ベタ殿の報告にあった、二十七件のうち、十九件」
「その発生場所を、地図に照らし合わせました」
「よろしければ、確認いただきたい」
進行役が、軽く手を上げる。
補佐官が、ガインから書類を受け取り、演壇へと運んだ。
進行役が、それを一瞥する。
「……確かに、偏りがあるな」
「はい」
ガインが続ける。
「十九件のうち、十四件が、商業ギルド指定の倉庫区画」
「特に、第三、第五、第七区画に集中しています」
「これは、単なる偶然とは考えにくい」
イフリル側の席から、声が上がった。
「それが、何を意味すると?」
先ほど報告していた男が、鋭く問う。
「誰かが、意図的に、衝突を誘発している可能性がある」
広間が、静まり返った。
「……根拠は?」
「衝突の直前、必ず、荷の移動に関する情報が」
「両派閥に、ほぼ同時に伝わっています」
「本来、そのような情報は、当事者以外には漏れないはずだ」
「なのに、なぜか、対立する側にも、同じ情報が渡っている」
ガインの声は、冷静だったが、確信に満ちていた。
「情報を流している者がいる」
「それが、衝突の火種になっている」
赤の席が、ざわつく。
「……侮辱か、それは」
イフリルの男が、声を荒げる。
「事実の指摘です」
ガインは、退かなかった。
「証拠として、この記録をご覧いただきたい」
もう一枚、書類を差し出す。
進行役が、目を通す。
その表情が、わずかに険しくなった。
「……これは」
「情報の流出経路を、可能な限り辿った記録です」
「完全ではありませんが、共通する特徴があります」
「三派閥、それぞれの内部に」
「同じ人物、あるいは同じ組織から、資金が流れている形跡があります」
広間が、大きくざわめいた。
「――待て」
セファルが、初めて口を開いた。
低く、静かな声。
だが、その一言で、ざわめきが止まった。
「その資金の流れとやらに」
「ベタの名も、含まれているのか」
ガインは、一瞬、言葉を選ぶように黙った。
「……含まれています」
「では、モイストは」
セファルの目が、鋭くなる。
「自らの潔白を、証明できるのか」
その問いに、広間の空気が、一気に張り詰めた。
ガインの上役の女性が、静かに立ち上がる。
「モイストも、この資金の流れの、被害者です」
「意図せず、利用されている」
「それを、証明するために」
「今日、この場で、情報を公開しています」
セファルは、しばらく無言だった。
やがて、静かに口を開く。
「……調査を、要求する」
「三派閥、全ての帳簿を」
「第三者機関による、監査に」
その言葉に、赤の席が、明らかに動揺した。
「……冗談じゃない」
イフリルの男が、低く呟く。
進行役が、重々しく頷いた。
「……検討しよう」
「だが、これは、大きな決定になる」
「今日、この場で即決できることではない」
「三日以内に、各派閥の意向を、確認する」
広間に、緊張感を孕んだまま、沈黙が落ちた。
ユノは、その様子を、じっと見つめていた。
ガインの発言が、確かに、何かを動かした。
だが、それと同時に――
セファルの視線が、一瞬だけ、こちらに向いたのを、見逃さなかった。
冷静な瞳の奥に、微かに、何かが揺れた気がした。




