報告
大広間は、想像していたよりも広かった。
高い天井、吊り下げられた無数のシャンデリア。
石の床には、繊細な紋様が刻まれている。
すでに、多くの人々が席についていた。
三派閥ごとに、区分けされた席順。
赤――イフリル。
青――モイスト。
黒――ベタ。
「俺たちは、あっちだ」
ガインが、モイスト側の席の後方を示す。
「客分は、後ろで大人しくしてる決まりだ」
四人は、静かに席についた。
正面には、一段高くなった演壇。
そこに立つのは、進行役らしき初老の男性だった。
商業ギルドの紋章が刺繍された、格式高い衣装を纏っている。
「……あの人が、進行役?」
レナが小声で聞く。
「ああ。中立の立場で、調停を仕切る」
「昔からいる、ギルドの古参だ」
やがて、鐘の音が鳴り響いた。
大広間の喧騒が、一気に静まる。
「これより、調停の日を、開催する」
進行役の声が、広間全体に響いた。
「まずは、各派閥からの報告を、順に伺う」
「イフリルから」
赤の席の中央に座っていた男が、立ち上がった。
昨日、揉め事を起こしていた男とは、また別の人物だった。
「今期、我々イフリルは、南方交易路の取引量を、三割増やした」
「特に、香辛料と染料の扱いにおいて、他派閥を大きく上回っている」
淡々とした口調だが、その言葉には、確かな自負が滲んでいた。
「一方で、先日の倉庫街での一件」
「あれは、モイストの荷が、不正な経路で運ばれていたことに端を発する」
「我々は、正当な確認を行おうとしただけだ」
その言葉に、モイスト側の席がざわついた。
「続いて、モイスト」
ガインの上役らしき、年配の女性が立ち上がる。
「イフリル殿の主張には、事実誤認がある」
「あの荷は、正規の契約書を伴った、正当な取引だった」
「不正があったとすれば、むしろ確認を装って、荷を止めようとした側にある」
「これは、三件目だ」
「この一ヶ月で、モイストの荷が、理由なく足止めされたのは」
女性の声に、抑えた怒りが滲んでいた。
「イフリルこそ、何を狙っている」
赤の席から、小さなどよめきが起きる。
一見、穏やかなやり取り。
だが、その裏には、確かな緊張が張り詰めていた。
「……こういうの、初めて見た」
レナが、小声で呟く。
「言葉だけで、こんなに緊張感があるなんて」
「これが、商業の戦い方なんだろうな」
ユノも、静かに見入っていた。
数字と主張の応酬。
だが、その奥にあるのは、明らかに――誰かに、意図的に煽られている構図だった。
そして、最後に。
「ベタ」
進行役が、静かに名を呼ぶ。
セファル・オルグレンが、ゆっくりと立ち上がった。
広間の空気が、一瞬にして変わる。
彼が口を開くまで、誰もが息を潜めていた。
「今期、我々ベタは、中立の立場を保ち」
「両派閥の取引の、公正な仲介を、二十七件行った」
「だが」
一拍、間を置く。
「その二十七件のうち、十九件が、この一ヶ月に集中している」
広間が、わずかにざわついた。
「衝突の頻度は、明らかに異常だ」
「これ以上の混乱が続けば」
「調停の意味そのものが、問われることになる」
短い言葉だったが、広間全体に、重く響いた。
赤も、青も、何も言い返さなかった。
ティナが、その姿を、じっと見つめていた。
「……あの人」
小さく呟く。
「何か、隠してる」
その言葉に、ユノも、視線をセファルに向けた。
冷静な表情の奥に、確かに、何かが潜んでいる気がした。
進行役が、次の議題に移ろうとした、その時。
「――発言を、よろしいでしょうか」
ガインが、静かに立ち上がった。
広間の視線が、一斉に集まる。




