もう少し
翌日。
調停の日まで、あと二日。
「今日は、何をするんだ?」
ユノが聞くと、ガインは机の上に別の紙を広げた。
「調停の日の、当日の流れだ」
「一応、頭に入れておいてくれ」
紙には、簡単な進行表が書かれていた。
開会の挨拶。
各派閥からの報告。
議題――今回は、最近の衝突の増加について。
そして、質疑応答の時間。
「質疑応答……そこで、話しかけられるのか」
「ああ。だが、順番がある」
「まず派閥同士でのやり取りが優先される」
「俺たちみたいな部外者が口を挟めるのは、その後だ」
「タイミングを間違えると?」
「摘み出されて終わりだ」
ガインの言葉に、レナが小さく息を呑んだ。
「……緊張してきた」
「大丈夫、俺が合図する」
ガインが、少しだけ表情を和らげる。
「お前らは、俺の後ろについてればいい」
その日の午後は、街を歩きながら、少しだけ気分を変えることにした。
「たまには、こういう時間も大事だよね」
レナが言う。
大通りから外れた場所に、小さな古本屋があった。
「……ちょっと寄ってもいい?」
ティナが、興味深そうに店先を覗く。
店内には、様々な言語の本が並んでいた。
古いものから、新しいものまで。
「エルフ語の本、あるかな」
ティナが、棚を丁寧に見て回る。
店主の老人が、興味深そうに声をかけてきた。
「お嬢さん、エルフ語に興味が?」
「……少し」
「珍しいね、この街で」
老人は、奥の棚から一冊の古い本を取り出した。
「これなんかは、初級の文法書だよ」
「古い文字も、少し載ってる」
ティナの目が、わずかに輝いた。
「……買います」
小さな銅貨を払い、大切そうに本を抱える。
その様子を見て、ユノは少しだけ安心した。
昨夜の、緊張した表情とは違う。
今は、素直に嬉しそうだった。
店を出ると、レナが屋台で何かを見つけていた。
「見て、これ! 珍しい果物だって」
見たことのない、鮮やかな色の果実。
「食べてみる?」
店主に勧められ、四人で分けて食べてみることにした。
「……甘酸っぱい」
「美味しいね、これ」
ラグナルも、興味津々に鼻を近づける。
一口分けてやると、ぱくりと食べて、満足そうに尻尾を振った。
そんな、なんでもない時間が、少しずつ緊張をほぐしていく。
夕方、宿に戻る途中。
ふと、通りの向こうに、見覚えのある人影が見えた。
黒の腕章。
セファル・オルグレンだった。
護衛らしき人間を数人連れ、静かに歩いている。
ユノたちに気づいた様子はない。
だが、その目が、一瞬だけ、こちらの方向を向いた気がした。
「……気のせいか?」
「いや」
ガインが、小さく首を振る。
「あの男は、気づいてないようで、大体気づいてる」
セファルの一行は、そのまま人混みに紛れて消えていった。
「……調停の日が、待ち遠しいような、怖いような」
レナが、小さく呟く。
「同じ気持ちだ」
ユノも、静かに頷いた。
夜が近づく。
残り二日。




