準備
詰所を出ると、ユノは早速、頭の中で計画を組み立て始めていた。
「三日か……」
「短いようで、意外とやることは多そうだね」
レナが、指を折りながら言う。
「まず、調停の日ってどんな場なのか、ちゃんと知っておきたい」
「服装とか、作法とか、失礼があったら困る」
「そうだな」
ユノも頷いた。
冒険者としての振る舞いと、公式の場での振る舞いは、きっと違う。
まずは、ガインに詳しく話を聞くことにした。
「調停の日は、商業ギルド本部の大広間で行われる」
「三派閥の代表と、その関係者だけが入れる」
「俺たちは、その関係者、って扱いになる」
「大丈夫なのか、それで?」
「モイストの客分として、俺が話を通しておく」
ガインが、少し疲れた様子で答える。
「ただし」
「目立つ真似はするなよ」
「特に、その」
視線が、ユノの肩の上――ラグナルに向く。
「……連れて行かない方がいいか」
「絶対に、な」
ラグナルが、心外だとばかりに小さく鳴いた。
「悪いな。今回は留守番だ」
しょんぼりと丸くなる様子に、レナが苦笑した。
服装についても、少し整える必要があった。
普段の旅装束のままでは、さすがに場違いだ。
「……ちゃんとした服、持ってないな」
ユノが、自分の格好を見下ろす。
「私も、旅用のしかない」
レナも同じだった。
「街に、貸衣装屋がある」
ガインが、場所を教えてくれる。
「そこまで豪華じゃなくていい。清潔感があれば十分だ」
四人は、教えられた通りに貸衣装屋へ向かった。
こぢんまりとした店だったが、品揃えは悪くない。
「あら、珍しい組み合わせね」
店主の女性が、四人を見て微笑む。
「冒険者さんが、調停の日に?」
「……分かるんですか」
「この時期にお客さんが来るのは、大体そう」
慣れた様子で、衣装を選んでいく。
ユノには、落ち着いた色合いの上着。
レナには、動きやすさを保ちつつ、品のある一着。
ティナには、体格に合わせた小さめの衣装が用意された。
「……似合ってる、と思う」
鏡の前で、少し照れくさそうにティナが呟く。
「うん、すごく似合ってるよ」
レナが、笑顔で言う。
準備を整えながらも、頭の片隅では、ずっと考えていた。
セファル・オルグレン。
ダリオスとの繋がり。
エルフの、古い文字。
それぞれの糸が、少しずつ絡み合っていく感覚があった。
夜、宿に戻る道すがら、ティナがふと足を止めた。
「……ユノ」
「どうした?」
「調停の日、私も行く」
「もちろん、そのつもりだったけど」
「……ううん」
ティナは、少し俯いた。
「もし、セファルが、本当にエルフと関わりがあるなら」
「私も、聞きたいことがある」
その声には、いつもとは違う、確かな意志があった。
ユノは、しばらく彼女を見つめてから、頷いた。
「……分かった」
「一緒に行こう」
夜空の下、ヘルメリアの明かりが、静かに揺れていた。
三日後の調停の日に向けて、それぞれの想いが、静かに重なり始めていた。




