翌朝
翌朝、目を覚ましたのは、いつもより少し遅い時間だった。
「……よく寝た」
レナが大きく伸びをする。
昨夜の緊張がまだ体のどこかに残っている気がした。
「みんなは?」
「ティナは、もう起きてる」
窓際でティナが静かに水を飲んでいた。
目の下にわずかな疲れが見える。
昨夜遅くまで文字を読み解いていたせいだろう。
「……大丈夫か?」
ユノが声をかける。
「うん」
短く答えるが表情は少し硬い。
エルフとダリオスの繋がり。
彼女にとってそれは単なる謎解きではなかった。
自分の出自にどこか近い場所に触れている気がしていた。
朝食は、宿の食堂で取ることにした。
パンと野菜スープ、それに焼いた川魚。
湯気が立つスープをレナが一口すすった。
「……美味しい」
「ここの宿、料理は当たりだったな」
ユノもパンをちぎりながら言う。
ラグナルがテーブルの下で足元をうろうろしていた。
「お前も食うか?」
魚の身を少し分けてやると勢いよく飛びついた。
小さな体で器用に骨を避けて食べる様子に、レナが笑う。
「本当に賢いよね」
その言葉にラグナルが少し誇らしげに胸を張った――ように見えた。
食事を終えると四人は詰所へ向かった。
昨夜のうちに、ガインからは「朝、また集まってくれ」と言われていた。
詰所につくとガインはすでに机に向かっていた。
目の下に隈がある。
「……寝てないのか?」
「少しだけな」
帳簿と別の書類を見比べている。
「モイストの記録と、照らし合わせてた」
「ダリオスの名前、他にも出てこないか探してた」
「何か分かったか?」
「ああ」
ガインが一枚の紙を取り出す。
古い商業ギルドの人事記録だった。
「五年前、ダリオスが引退する少し前」
「彼の直属だった部下が一人いる」
「今は……ベータ派閥の幹部になってる」
その名前を、指でなぞる。
「セファル・オルグレン」
「黒の、腕章の男か」
ユノが、昨日の光景を思い出す。
揉め事を一言で収めた男。
冷静で感情の読めない目をしていた。
「……ベータは中立、って言ってなかったか?」
レナが聞く。
「表向きはな」
ガインの声が、低くなる。
「だが、ダリオスの部下が、幹部にいる」
「偶然、とは思えない」
部屋の空気が、また少し重くなった。
「……セファルに、直接聞くしかないか」
ユノが言う。
「簡単に会える相手じゃない」
「ベータの幹部は、滅多に表に出ない」
「けど」
ガインは、少し考えるように黙った。
「一つだけ、方法がある」
「商業ギルドには、年に一度」
「三派閥の代表が集まる、公式の場がある」
「『調停の日』」
「もうすぐ、それが開かれる」
「そこでなら、セファルに接触できる」
ユノたちは、顔を見合わせた。
大きな街の行事に、自分たちが関わっていく。
その実感が、少しずつ重みを増していく。
「……いつだ、それ」
「三日後だ」
ガインが、短く答えた。
「それまでに、できることをやっておきたい」
窓の外、ヘルメリアの街は、今日も変わらず賑わっていた。




