やり過ごす
足音が、階段の方へ近づいてくる。
「……隠れる場所は」
レナが小声で聞く。
「ない」
ガインが、素早く周囲を見渡す。
棚の間は狭く、身を隠せるような場所はなかった。
「……帳簿は」
「俺が持つ」
ガインが、懐に押し込む。
「見つかったら、まずいことになる」
足音は、もう階段の途中まで来ていた。
「――こっちだ」
ティナが、小さな声で言う。
薬草の効果で、暗闇でも周囲がよく見えている。
指した先には、棚と壁の隙間。
人ひとりが、ようやく通れるほどの幅だった。
「行くぞ」
ユノが先に体を滑り込ませる。
続いて、レナ、ティナ、ガインの順に、身を潜めた。
息を殺す。
心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
扉が開く音。
複数の足音が、保管庫の中に響く。
「……変わりないな」
「ああ、異常なしだ」
声。
商業ギルドの制服を着た男たちだった。
灯りを翳しながら、棚の間を巡回していく。
その光が、隙間のすぐそばを掠めた。
レナが、思わず息を止める。
ユノは、彼女の手を軽く握った。
大丈夫だ、というように。
灯りが、通り過ぎる。
足音が、少しずつ遠ざかっていく。
「……行ったか」
しばらくして、ガインが小さく呟く。
誰も、すぐには動かなかった。
十分に距離が空いたのを確認してから、ようやく隙間を出る。
「……危なかった」
レナが、詰めていた息を吐き出す。
「にしても」
ユノが、ガインを見る。
「本当に、十五分だったな」
「予定通りだ」
ガインの声は、まだ少し硬かった。
帳簿を持つ手に、力が入っている。
「……戻るぞ」
「これを、確認しなきゃならない」
裏口から、静かに外へ出る。
夜のヘルメリアは、何事もなかったかのように、静かだった。
だが、四人の手の中には。
この街の均衡を揺るがす、確かな証拠があった。




