制限時間
裏路地は、思ったより静かだった。
昼間の喧騒が嘘のように、足音だけが響く。
「……こっちだ」
ガインが先導する。
建物の間を縫うように進み、やがて商業ギルド本部の裏手に出た。
石造りの大きな建物。
正面とは違い、裏側は装飾もなく、ただ無機質だった。
「保管庫は、地下だ」
「入り口は、あそこの搬入口」
ガインが指す先に、鉄製の扉があった。
見張りは、いない――ように見えた。
「……本当に、警備は薄いのか?」
ユノが小声で聞く。
「表向きはな」
ガインの声も、抑えられていた。
「だが、油断はするな」
「モイストの人間が、内部から手引きしてる」
「一定時間だけ、警備の巡回を外させてる」
「時間は?」
「十五分」
短い言葉に、緊張が走る。
「……行くぞ」
ガインが、扉に鍵を差し込む。
小さな音を立てて、扉が開いた。
中は、思ったより暗かった。
ティナが、小瓶の薬草を取り出す。
「……使う」
一口含むと、瞳が微かに光を帯びた。
「見える」
短く言う。
その言葉を頼りに、四人は暗闇の中を進んだ。
レナが、杖を軽く振る。
淡い風が足元を包み、足音を消していく。
「……こっちだ」
ティナが、先を示す。
階段を降りると、広い空間に出た。
無数の棚。
書類、木箱、巻物。
「……多いな」
ユノが、思わず声を漏らす。
「目的の資料は?」
「派閥間の資金の流れが記録された台帳だ」
ガインが、棚を確認しながら進む。
「表の記録じゃない。裏帳簿のはずだ」
「だから、こんな場所に隠されてる」
四人は、手分けして棚を調べ始めた。
埃をかぶった箱。
古い契約書の束。
だが、目的のものは、なかなか見つからない。
「……時間、大丈夫か?」
レナが小さく聞く。
「あと十分ってところだ」
ガインの声に、焦りが滲む。
その時。
「――あった」
ティナの声。
一冊の帳簿を、棚の奥から引き出していた。
表紙に、見慣れない印。
「これ……」
ガインが受け取り、素早くページをめくる。
目が、次第に鋭くなっていく。
「……嘘だろ」
小さく呟く。
「どうした?」
ユノが覗き込む。
そこに記されていたのは。
三派閥すべてに――同じ人物から、資金が流れている記録だった。
名前の欄には。
一つの、印章。
商業ギルドの、元最高幹部の証。
「……この人、まだ生きてたのか」
ガインの声が、震えていた。
その時。
上階から、足音が聞こえてきた。
複数。
近づいてくる。
「……時間切れか」
ユノが、身構える。




